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第一章
氷雪大陸 ―水晶都市 ノースランド 1―
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氷雪大陸とは、1年、つまりは365日を通して雪に覆われた冷たき大陸だ。故に、そこに住まう者は非常に少なく。いつの頃からか住んでいた者はいれど移り住む変わり者は存在しない、遥か昔、奴隷制度の盛んだった時代にこの大陸に移り住んだ者がいた。彼等は、その冷たい大陸に根を張り今でも住み続けている。
だが、彼等とは別、その大陸には古来より住まう者達がいる。人とは違う体躯をした種族、人より追われし種族。紫の体躯の者もいれば、植物で出来た身体の者もいる。彼等は人とは違う生き方をし、人とは違う考え方をする。彼等の中では様々な呼称があるようだが、我々から見れば彼等は獣や魔に堕ちた生物と変わらない、故に我等は彼等の事を、魔族と総称している。
―――冒険家ウッドフットの記録より抜粋―――
ノースランド、義父さんはそこに向かうと話していた。
レイシュール義父さんのアジトの中に在った本で、その存在を読んだ事があった。
『魔の住まう場所』
その一文から始まる文章は、何処か恐ろしく。それでいて神秘性を感じさせる物だった。
『黒い暗い深い闇、其処から這い出て来た彼等が住まう土地、誰も知らない闇から生まれた彼等という生命、彼等という命、雪の中でも黒く確かに色を持ち、黒以外の体表、人では無い身体、それらを持ち得るのが彼等、個であり固有の存在、彼等が住まう場所こそが』
吹雪の中を義父さんの背に乗って進む。雪を掻き分けて、まるで誰かが訪れるのを拒むかのような酷い豪雪を乗り越えて、地面さえも空さえも分からない、ただただ一面が風と雪に覆われていた。
それでも義父さんは進む。『父の残した言葉だ』と僕に告げて、大きな羽を広げて辺りに僅かな炎を生み出して飛び立った。身長が1メートルの僕からしても大きな60センチの一枚の鱗、錆びれたその鱗は暖かく。義父さんのお父さんが、つまりは僕のお爺ちゃんが残してくれた物だ。
何処までも吹き荒ぶ雪の嵐も、義父さんのくれる風の加護と暖かな爺ちゃんの鱗が僕を守ってくれる。
切り立った山を幾つも超えて、辺りに夜の帳が降り始めていた頃、遂に僕達は吹雪を抜けて視界が一気に開けたんだ。
そして目にした。辺鄙なんて言葉は似合わない、人の王国さえも嫉妬する美しき都市を、中央に屹立する水晶の尖塔、その周辺に広がる壁。。
まるで雫が水面に落ちて生まれる水の王冠の様に、都市の外へと槍を伸ばすが如く広がる水晶。
だがその中に確かに人が住まうであろう民家も確認できる。色こそ塗られているが、あれもまた水晶だろう。極彩色の都市、雪の輝きに反射して輝きを放つその場所こそが…。
『ノースランド』
―――氷雪大陸 水晶都市ノースランド―――
『ここまでの大都市だったとはな…いや、元は小さな集まりだったのだろう。だが、幾年もの歳月を重ねてここまでの都市を創り上げたのだろう』
見上げれば灰色の雲が見下ろしている中で、紅蓮の鱗を纏う義父さんは眼下に広がる極彩色の水晶の都市に感嘆の息を漏らした。
『ふむ…よく見れば幾つか小さな町も周囲にあるな、ノースランドというのはどうやら、幾つかの集落や街から成る都市の様だな』
義父さんの言葉に少し身を乗り出して下を覗いてみれば、都市の真ん中にある尖塔、その周囲の大きな街。その他にも水晶の塔は幾つか建てられており、その周りに家屋と思しき水晶の建物が幾つか添えられている村があった。
『いきなりあの大都市に向かっても仕方なかろうて、まずは近隣の村でこの場所について聞いてみるとしよう』
「えっ…義父さんは入れるかな?」
『…む、確かにな、ふむ』
吹雪は無く義父さんも先程よりも感情の中に辛さや苦が消えている。ノースランドを覆う様に、いや、包み込むように吹き荒ぶ雪の幕…自然の作りだした奇跡なのか、それともノースランドがそういった現象を引き起こしているのか。
どちらにせよ、自然を味方に付けているこの都市はこれからも発展して行くであろう事が窺えた。
『そうだな…ふむ、ユーマよ、少し先に村の中に入ってみてはくれんか、父の鱗から更に情報が探れるかもしれん、我はそちらを当たってみる』
「―――ひ、一人で?」
『……そう心配するな、この土地に住むのは人では無い』
「やっぱり…魔族という種が…?」
僕には、生物の心理が分からない…。
魔族と人、同じく思考して、心を持っていて、同じ部分が多いのなら変わりは無いのではと思う。
だけど、間違えてはいけない事は、僕はまだ魔族を知らないと言う事だ。
何かを否定する時も、何かを肯定する時も、それが何かを知らずに肯定する事は失礼にすら値する。
真摯に向き合おう。新しい出会いなのだから。
そして義父さんは僕を降ろしてくれた。
しっかりと踏みしめる。雪の大地を…まるで僕の心象世界の様な…この場所を。
だけど目の前に広がる水晶は、僕の見た事も無い素敵な物だ。此処に住む種が居る。その種からこのノースランドの事を聞いてみなくちゃいけないんだ。
新しい場所なのだから、聞いてみよう。知ってみよう。何も知らない場所なんだから。
背後で義父さんが羽ばたいて、僕の足元に炎の線がまるで道標の様に村の入り口である水晶の門の所まで続いた。雪の上でも残るなんて、不思議な炎だ。
それは僕の背を押してくれる熱を与えてくれた。
それは僕に他の選択肢を無くすかの様でもあった。
だけど、辛い道じゃ無い、僕を見守ってくれる義父さんが確かに居るんだから。
水晶の門は炎に照らされて輝いている。夜の帳の中でも闇に紛れずに…。
門といっても扉が在る訳では無い、それはアーチ状に造られた水晶の芸術だ。美しさ以上に、神秘を感じさせる。それは僕にとってこの先に待っているのが見たことの無い世界だからだろう。
本の中に残されていた文章は此処までの事は書いていなかった。
文章にも記されず。人は知らない魔の領域、誰も知らない、僕だけがこれから知る。
夜闇に紛れて訪れたこの場所、義父の優しい、応援の感情が伝わってきた。
人の世に紛れない魔族が此処に居る。
さぁ踏み出そう。
新しい一歩だ。
だが、彼等とは別、その大陸には古来より住まう者達がいる。人とは違う体躯をした種族、人より追われし種族。紫の体躯の者もいれば、植物で出来た身体の者もいる。彼等は人とは違う生き方をし、人とは違う考え方をする。彼等の中では様々な呼称があるようだが、我々から見れば彼等は獣や魔に堕ちた生物と変わらない、故に我等は彼等の事を、魔族と総称している。
―――冒険家ウッドフットの記録より抜粋―――
ノースランド、義父さんはそこに向かうと話していた。
レイシュール義父さんのアジトの中に在った本で、その存在を読んだ事があった。
『魔の住まう場所』
その一文から始まる文章は、何処か恐ろしく。それでいて神秘性を感じさせる物だった。
『黒い暗い深い闇、其処から這い出て来た彼等が住まう土地、誰も知らない闇から生まれた彼等という生命、彼等という命、雪の中でも黒く確かに色を持ち、黒以外の体表、人では無い身体、それらを持ち得るのが彼等、個であり固有の存在、彼等が住まう場所こそが』
吹雪の中を義父さんの背に乗って進む。雪を掻き分けて、まるで誰かが訪れるのを拒むかのような酷い豪雪を乗り越えて、地面さえも空さえも分からない、ただただ一面が風と雪に覆われていた。
それでも義父さんは進む。『父の残した言葉だ』と僕に告げて、大きな羽を広げて辺りに僅かな炎を生み出して飛び立った。身長が1メートルの僕からしても大きな60センチの一枚の鱗、錆びれたその鱗は暖かく。義父さんのお父さんが、つまりは僕のお爺ちゃんが残してくれた物だ。
何処までも吹き荒ぶ雪の嵐も、義父さんのくれる風の加護と暖かな爺ちゃんの鱗が僕を守ってくれる。
切り立った山を幾つも超えて、辺りに夜の帳が降り始めていた頃、遂に僕達は吹雪を抜けて視界が一気に開けたんだ。
そして目にした。辺鄙なんて言葉は似合わない、人の王国さえも嫉妬する美しき都市を、中央に屹立する水晶の尖塔、その周辺に広がる壁。。
まるで雫が水面に落ちて生まれる水の王冠の様に、都市の外へと槍を伸ばすが如く広がる水晶。
だがその中に確かに人が住まうであろう民家も確認できる。色こそ塗られているが、あれもまた水晶だろう。極彩色の都市、雪の輝きに反射して輝きを放つその場所こそが…。
『ノースランド』
―――氷雪大陸 水晶都市ノースランド―――
『ここまでの大都市だったとはな…いや、元は小さな集まりだったのだろう。だが、幾年もの歳月を重ねてここまでの都市を創り上げたのだろう』
見上げれば灰色の雲が見下ろしている中で、紅蓮の鱗を纏う義父さんは眼下に広がる極彩色の水晶の都市に感嘆の息を漏らした。
『ふむ…よく見れば幾つか小さな町も周囲にあるな、ノースランドというのはどうやら、幾つかの集落や街から成る都市の様だな』
義父さんの言葉に少し身を乗り出して下を覗いてみれば、都市の真ん中にある尖塔、その周囲の大きな街。その他にも水晶の塔は幾つか建てられており、その周りに家屋と思しき水晶の建物が幾つか添えられている村があった。
『いきなりあの大都市に向かっても仕方なかろうて、まずは近隣の村でこの場所について聞いてみるとしよう』
「えっ…義父さんは入れるかな?」
『…む、確かにな、ふむ』
吹雪は無く義父さんも先程よりも感情の中に辛さや苦が消えている。ノースランドを覆う様に、いや、包み込むように吹き荒ぶ雪の幕…自然の作りだした奇跡なのか、それともノースランドがそういった現象を引き起こしているのか。
どちらにせよ、自然を味方に付けているこの都市はこれからも発展して行くであろう事が窺えた。
『そうだな…ふむ、ユーマよ、少し先に村の中に入ってみてはくれんか、父の鱗から更に情報が探れるかもしれん、我はそちらを当たってみる』
「―――ひ、一人で?」
『……そう心配するな、この土地に住むのは人では無い』
「やっぱり…魔族という種が…?」
僕には、生物の心理が分からない…。
魔族と人、同じく思考して、心を持っていて、同じ部分が多いのなら変わりは無いのではと思う。
だけど、間違えてはいけない事は、僕はまだ魔族を知らないと言う事だ。
何かを否定する時も、何かを肯定する時も、それが何かを知らずに肯定する事は失礼にすら値する。
真摯に向き合おう。新しい出会いなのだから。
そして義父さんは僕を降ろしてくれた。
しっかりと踏みしめる。雪の大地を…まるで僕の心象世界の様な…この場所を。
だけど目の前に広がる水晶は、僕の見た事も無い素敵な物だ。此処に住む種が居る。その種からこのノースランドの事を聞いてみなくちゃいけないんだ。
新しい場所なのだから、聞いてみよう。知ってみよう。何も知らない場所なんだから。
背後で義父さんが羽ばたいて、僕の足元に炎の線がまるで道標の様に村の入り口である水晶の門の所まで続いた。雪の上でも残るなんて、不思議な炎だ。
それは僕の背を押してくれる熱を与えてくれた。
それは僕に他の選択肢を無くすかの様でもあった。
だけど、辛い道じゃ無い、僕を見守ってくれる義父さんが確かに居るんだから。
水晶の門は炎に照らされて輝いている。夜の帳の中でも闇に紛れずに…。
門といっても扉が在る訳では無い、それはアーチ状に造られた水晶の芸術だ。美しさ以上に、神秘を感じさせる。それは僕にとってこの先に待っているのが見たことの無い世界だからだろう。
本の中に残されていた文章は此処までの事は書いていなかった。
文章にも記されず。人は知らない魔の領域、誰も知らない、僕だけがこれから知る。
夜闇に紛れて訪れたこの場所、義父の優しい、応援の感情が伝わってきた。
人の世に紛れない魔族が此処に居る。
さぁ踏み出そう。
新しい一歩だ。
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