能ある元令嬢は爪を隠す

安蒜佑香

文字の大きさ
3 / 12
一章

2、商業都市、カナン

しおりを挟む
 カナンはルナリア王国有数の商業都市だ。商業都市として、唯一国から自治を認められている。
 面している国の多くと戦争中の為に国内の商人に限るが多くの商人が来て、同時に沢山の品が集まる。

その賑わいは王都を超えると言われることすらある程だ。



 「着いた~」


 レイリアは思わず伸びをしながら叫んぶ。
 10日間の旅路を終え、やっとついたカナン。
 これまで長旅をしたことなどないのだ。
もう、腰が痛くて痛くてしょうがない。

ちなみに、レイリアは今、頭からすっぽりと全身を覆うようなローブを着て、さらに眼鏡をかけている。レイリアの瞳と髪はとても目立つのだ。
 ウィンターソン家の特徴でもある金髪赤目はレイリアの誇りだが、今は面倒事を呼び寄せるもととなるだけだ。



到着してまずやらなければいけないのは、何といっても宿探し。見つからなければ、最悪野宿になる。それだけは避けたい。
 そして、なるべく良い宿がいい。長旅で暫くベッドで寝ていなかったから、ベッドが恋しくてたまらない。


「長期の滞在がしたいんだけど、いい宿を知りませんか?」


 同じ馬車に乗っていた男性に声をかける。こういうのは人に聞くのが一番だ。
 勿論、悪い人もいるし、当たり外れもあるが。街に戻ってきた人なら、尚良い。


「ああ、それなら、この通りをまっすぐ行って、服屋のところを右に曲がって少し進んだところにある『陽だまり亭』っていう宿がいいと思うぞ。
 というか、俺がその宿でよく長期滞在するんだ。今回もそのつもりなんだが、よければ一緒に行かないか?」
「そりゃあ、そうしてもらえるとこっちも助かりますけど…… そんなに良い宿なんですか?」
「部屋も飯も最高だ! …しかもカウンターの娘が可愛いんだよ。」


 最後は小声で言われた。部屋と飯よりも女の子目当てなんじゃないだろうか?

 表通りに面していないその宿は、地元の人がご飯を食べに行ったり、よくカナンへ来る人が滞在するらしい。初めて来る人はまず行かないという。



 宿に着いてまず思ったのは、「ここにしてよかった~」だ。
 まず、雰囲気がいい。木造の建物の窓からはオレンジ色の温かい光が覗いていて、柔らかい雰囲気を醸し出している。「陽だまり」というなにもぴったりだ。

 案内してくれた男……そういえば、名前を聞いていなかった。後で聞こう。まあ、その男は慣れた様子で宿へと入っていく。レイリアは宿の様子を見ながらそれに続いた。


「いらっしゃいませ~」


 出迎えてくれたのは明るく、元気な声だった。カウンターにいるその娘はクセのある茶髪でくりくりとした目を持っていて、確かに可愛い。


「宿泊ですか? お食事ですか?」
「長期の宿泊で。とりあえず、3ヶ月かな。お前は?」


 娘の観察をしていたレイリアはその問にすぐに反応出来なかった。


「ん…ああ、僕は5日で。」
「わかりました。別々のお部屋にしますか?」
「お願いします」
「203号室と205号室になります。食事をここで食べる時は、事前にお声がけください。お湯を使いたい際も同様です。どちらとも別料金となりますが、ご了承下さい。…本日の夕食はどうしますか?」
「お願いします。あなたはどうします?」


 レイリアは男に声をかける。できれば、ここで交流を深めておきたいところだ。
 街についての情報も集めたい。


「俺もここで食べます。なあ、一緒に食べないか?」
「勿論、喜んで。」
「ではすぐに用意しますね。荷物は一旦ここでお預かりします。」
「お願いします。じゃあ、あそこのテーブルにしましょうか。」
「おう!」




 席に付き、下手に沈黙が漂う前にレイリアは切り出す。


「え~、大変遅くなりましたが、僕はレイといいます。あなたのお名前を伺っても?」
「そういえば、自己紹介してなかったな。俺はアルベルトだ。アルって呼んでくれ。」
「はい。アル、今日はいい宿を紹介してくれてありがとうございました。」
「ああ、敬語じゃなくていいぞ。俺、そういうの苦手だし。」


 思い返してみれば、最初から砕けた口調だった気がする。
 苦手だと言うのは本当なのだろう。


「わかったよ。じゃあ、僕の事もレイって呼んでくれ。」
「りょーかい。」


 話しているうちに運ばれてきた食事は、バランスも考えられていて、凄く美味しかった。


 食事を終えると、レイリアはアルベルトと別れ、203号室へと向かう。部屋ヘ入ると予想以上に綺麗で広い。
 荷物を置いて、ベッドヘ飛び込むと、疲労が溜まっていたせいか、着替えもしないまますぐに眠ってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...