異聞平安怪奇譚

豚ドン

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外伝集

外伝集:紅葉伝説・弍

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 騒がしさと皮革と汗の臭いが天然の気付け薬のように作用し、徐々に目を覚ます。
 朦朧としていた頭が徐々に、はっきりとしてくる。
 どうやら天幕の中のようで灯りの一つもなく、しかし出入り口と思わしきところから、僅かに外の灯りが入ってきていた。
 地面には皮が敷かれ、そこに私は寝かされていたようだ。

「ここ……どこ?」

 外からは、何らかの音の重なりや唄のようなものが聞こえてきた。
 恐る恐ると天幕の隙間から外を覗き見る。

 ――精霊と人が舞っていた。

 背が高く組まれた焚き火からは軻遇突智かぐつちが左右に規則正しくも力強く動き――偶に、焚き火を囲んで踊る双子が手に持つ葉の束から葉槌はつちが踊り、焚き火へと風を送り込む。
 新たなる風を得た焚き火は天高くまで火の粉を飛ばす。
 笛や木琴と鼓の音頭に合わせ、磐土いわつち野椎のつちが囃し立てるように足踏みをしている。
 私はその幻想的な……この世のものと思えないほどに
 美しく耀かがよう、森羅を巻き込んだ踊りに魅入った。

 私もあそこに立ちたい。
 同じ舞台に立ちたい。
 あんな風に踊りたい。

 そう思った瞬間には天幕から飛び出し、焚き火に近寄り、双子の舞に混ざる。
 先ほどまで覗き見てた双子の踊りの真似ではあるが、一歩を踏み出した。

 双子の少女は長い髪で隠れてない右顔と左顔でそれぞれ驚いた顔をしたが、にんまりと笑った後に踊りながら近づいてくる。

「飛び入り参加は大歓迎!」

「真似じゃなくて、自由に踊ればいいよ!」

 そう言った双子は不規則ではあるが全身から生気を発するような溌剌とした踊りを始める。
 双子の衣服に付けられた土鈴どれいが、カラコロと鳴る。
 それに合わせて一段と音頭も、チも、何もかもが激しくなった。

「自由に……もっと心の、魂の赴くままに」

 全身を躍動させる。
 野兎のように軽やかに飛び跳ね、狼のように力強く、鹿のように柔軟に……
 知らず知らずのうちに笑みが溢れる。
 つい先程まで餓死しかけ、痩せ細っていた身体とは思えないほどに生命力が溢れている。


「あーん……これは期待以上の拾い物したかもね。生命力と華のある踊りに、何よりも見知らぬ人に囲まれているのに怖気ない胆力! 技術の方は後々にゆっくりと教え込んでいけば……」

 未来の可能性を想像しながら、少々粘度のある含み笑いをしながら琴を掻き鳴らす大女。

「あ……また鈿女のあねさん笑ってら」

「そら、嬉しかろうよ。右流うる左止さしの双子以来の新しい家族だぞ」

「家族入りは決定じゃないだろう? まあんだども、あんだけ楽しそうに踊ってりゃ~家族け」

 各々が自由に喋りながらも、その手は演奏を止めない。
 それどころかますます、激しく鼓を打ち、笛が速くなり、全員が律動に合わせて頭を上下に振る。

「おーん……見えてきたね。今宵、この場にお集まりの、チと神々の皆々様! 名残惜しくも鈿女党の演目も佳境に入りました!」

 大きい声ではあるが不快ではなく、そして遠くまでよく響く声を出す鈿女。

「あなた方様に捧ぐ為に磨き上げた芸の数々を努努ゆめゆめ見逃すようなことになりませぬように! そして行く先々で我らにさちをお与えください!」

 鈿女の口上が終わると、周囲のチもさらに盛り上がり、激しく踊っているように見えた。



 ――ああ、夢見心地のようだった。
 もっと続けば良かった、もっと踊っていたかったが終わってしまった。
 息は乱れ、汗だくで足は痛いのに……何もかもを忘れて楽しかった。

 ふと周りを見ると周囲にいた、チは何処かに消えてしまっていた。
 もっと一緒にいたかったと、残念に思っている自分がいる。

「気持ちよかったかい?」

 不意に背後から声をかけられ、吹き出ていた汗が俄かに止まる。

「よし! お嬢ちゃん、これからの話をしようか?」
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