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第He章:人類根絶に最適な魔物とは何か
運否天賦と用意周到/1:アインシュタインは目次だけを覚えれば問題ないと言う。彼女は相手がこちらを覚えるなら相手を覚える必要はないと言う
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ニューパルマの都市としての立地は極めて良好だ。南には流れが早く水量の多い豊かな水源となる川が流れており、その川はすぐに東で海と合流する。そんな河口域に近いにもかかわらず、急ピッチで工事が進む都市中心区画はかなりの高さの丘の上であり、先程のような魔物からの組織的襲撃、もしくは、あまり考えたくないことではあるが人間同士の戦争においても高い防御効果が期待できる好立地だ。丘の周りには先程驚異的な威力を確認したばかりであるガトリング砲、もとい、レールガンが設置されたトーチカと塹壕で囲まれており、これが機能する限り、この都市を攻め落とすことは不可能であると言えるだろう。周辺の土地は肥えており農耕に最適。さらには山も近く、鉄や銅、鉛などの鉱物資源も期待できるかもしれない。これだけの好立地を領主から購入できたというからギルドの交渉力と資本力には舌を撒く。
「よい都市になりそうだね」
「立地は悪くないんですけどね」
「何か問題が?」
「祭殿が遠いのです。しかも、その祭殿の使用には領主に高い税を支払う必要があります」
そう、魔王による経済支配を半ば受け入れているこの世界での土地の価値とは、いかに祭殿へのアクセスが容易かで決まる。それは、未だに領地経営に精をあげる領主にしても同じであり、ここでは元の世界の常識があまり役に立たないのであった。
そんな形で建造中の都市で真っ先に整備が整えられたのは、どうやら鍛冶場らしい。ちらりと覗くと、国民的アニメ監督作品で見たようなたたら製鉄が行われていた。どうやらあのレールガン要塞郡を作るために、大量の鉄の加工が必須だったようだ。
「祭殿から直接武器を調達できなかったの?」
きょとんと首を傾げる騎士を前に、イルマが耳打ちを行う。
「祭殿からは、自然由来の物しか受け取れないんです。鉄鉱石は取れても、製鉄とその加工は人間でしないといけないのです」
「なるほどね」
しかし、自然由来とはどこまでが自然由来なのであろうか。例えば、羊毛や羊肉、羊乳が出るのか、それとも無加工の羊が出るのか。蚕蛾のような人間による品種改良が行われた生物は自然由来なのか。また、まだこの世界には存在しないはずである石油石炭は交換できるのか。そもそも、魔物が落とす通貨と交換というが、そのレートはどうなっているのか。この宇宙の大原則である質量保存の法則を考えるならば、1kgの通貨と1kgの羊肉と1kgのダイヤモンドが等価値になるが、それは逆に非現実的だ。しかし、現実におけるダイヤモンドの価値というのは、19世紀半ばで大鉱脈を発見した実業家、セシル・ローズがその類まれな商才を持って供給量をコントロールしたことが今なお続いているためであり、その価値の大半は情報操作によるもの。有名なラーメン評論家のハゲ頭曰く、人は情報を食べるというが、人が着飾るのも情報である。そうなると、デ・ビアス鉱業会社がまだ存在しないこの世界におけるダイヤモンドの価値はいかほどなのだろうか。興味は尽きないが、祭殿が領主の支配下にある現状、そう簡単に目で見ることは難しそうだ。
「シズク様!」
そんなことを考えていると、知らない男性から声をかけられる。シズクは人の顔と名前を覚えるのが苦手である。これまで何度もギルドの騎士と会話をしているが、シズクは数十人の騎士の見分けができていない始末であった。
「えっと……」
「あ、おっちゃん! 無事新しい宿屋を開く場所が決まったのか!?」
こういうところでだけリクは尊敬できる。どうやら騎士ではなく、前に泊まった宿屋の主であったらしい。シズクがこれまでの人生をずっとリクと共に歩んできた理由は、対人識別能力のほぼすべてをリクに依存していたためである。ここだけの話、二人が所属していた港区の某大学の入学試験においてもリクは補欠合格ラインであり、それに困ったシズクが稀代の天才である姉と共に入学前に学長室を訪れて小さく圧をかけたことを、幸運にもリクは知らないまま生きていられている。
「はい! おかげさまで! 今回はその報告と、みなさまに当面の住居を提供する形でここまでの旅の恩返しができないかと思いまして!」
「そりゃぁありがたい!」
「あ、そうだ。新しい商売のやり方を提供するって話をしてたね。あなたには、私のラーメンの作り方を伝授するよ」
「なんと! それは真ですか!」
「うん。是非、この世界に家系の名を広めてね。店先を黒一色に塗り、軒先に牛の骨を吊るすんだよ」
「それはなんとも呪詛的ですな……」
「そして、あなたがこのラーメンの作り方を覚えたら、今度はあなたが誰かに同じやり方を教えるの。それで、あなたは技術と店の名前を貸して、代わりにその売上の一部を貰う。このやり方で、おそらくこの世界初となるフランチャイズ系列店として家の名前を……」
「シズク様―!」
シズクが異世界においても家系ラーメンを根付かせようとする中、またしても別の男性が彼女の名を呼びながら走ってくる。今度も完全に顔に覚えがない。
「サロンさん! お疲れ様です!」
本当にリクはなんでも知っているから驚く。知っている顔と名前を知っているだけなのだろうか、それで言ったら自分はほとんどの人の顔と名前を知らない。
「誰?」
「護衛騎士団のサロンさんだよ。見りゃわかるだろ」
「見たって鎧甲冑の中の人とか知らないよ」
「にしたってあの声は特徴的じゃないか」
「声優の名前覚えられなかったし、声優耳もなかった」
「そのわりには眠りの名探偵の声優変更はすぐ気付いたじゃないか」
「トマホゥクをブゥメランにしたりムー大陸皇帝の名を叫んだりUFOを飛ばしたりテレポーテーションして殴ったり火の玉魔球を投げたり烈風正拳突きを打ち込んだりする人の声を私が忘れるわけないでしょ」
「番号順に元素の性質を話す感覚で昭和のスーパーロボットの解説入れるのやめろ。ていうかそのうち2本はかのゲームにも出てないはずなのに詳しすぎるだろ」
「私はチョットデキルだけ。あと、出てないのは1本だけ」
「まじ? アプリ版ってなんでも出てるんだなぁ」
ここでリクの勘違いを訂正するため、カラーになった白鳥の名前を出そうとしたところで改めて今現在の優先順位が整理される。
「すみません、お忙しかったでしょうか?」
「あ、ごめんなさい、大丈夫です! それで、何か問題でも?」
「いえ、今回の移住計画成功の功労者として、ギルド長が是非挨拶をと申しておりまして!」
この街にどれだけ滞在するかはさておき、権力者とのコネは重要である。願ってもない渡りの船に、二つ返事で快諾したシズクは、後でラーメンの製法を伝えることを約束しその場を後にした。
「よい都市になりそうだね」
「立地は悪くないんですけどね」
「何か問題が?」
「祭殿が遠いのです。しかも、その祭殿の使用には領主に高い税を支払う必要があります」
そう、魔王による経済支配を半ば受け入れているこの世界での土地の価値とは、いかに祭殿へのアクセスが容易かで決まる。それは、未だに領地経営に精をあげる領主にしても同じであり、ここでは元の世界の常識があまり役に立たないのであった。
そんな形で建造中の都市で真っ先に整備が整えられたのは、どうやら鍛冶場らしい。ちらりと覗くと、国民的アニメ監督作品で見たようなたたら製鉄が行われていた。どうやらあのレールガン要塞郡を作るために、大量の鉄の加工が必須だったようだ。
「祭殿から直接武器を調達できなかったの?」
きょとんと首を傾げる騎士を前に、イルマが耳打ちを行う。
「祭殿からは、自然由来の物しか受け取れないんです。鉄鉱石は取れても、製鉄とその加工は人間でしないといけないのです」
「なるほどね」
しかし、自然由来とはどこまでが自然由来なのであろうか。例えば、羊毛や羊肉、羊乳が出るのか、それとも無加工の羊が出るのか。蚕蛾のような人間による品種改良が行われた生物は自然由来なのか。また、まだこの世界には存在しないはずである石油石炭は交換できるのか。そもそも、魔物が落とす通貨と交換というが、そのレートはどうなっているのか。この宇宙の大原則である質量保存の法則を考えるならば、1kgの通貨と1kgの羊肉と1kgのダイヤモンドが等価値になるが、それは逆に非現実的だ。しかし、現実におけるダイヤモンドの価値というのは、19世紀半ばで大鉱脈を発見した実業家、セシル・ローズがその類まれな商才を持って供給量をコントロールしたことが今なお続いているためであり、その価値の大半は情報操作によるもの。有名なラーメン評論家のハゲ頭曰く、人は情報を食べるというが、人が着飾るのも情報である。そうなると、デ・ビアス鉱業会社がまだ存在しないこの世界におけるダイヤモンドの価値はいかほどなのだろうか。興味は尽きないが、祭殿が領主の支配下にある現状、そう簡単に目で見ることは難しそうだ。
「シズク様!」
そんなことを考えていると、知らない男性から声をかけられる。シズクは人の顔と名前を覚えるのが苦手である。これまで何度もギルドの騎士と会話をしているが、シズクは数十人の騎士の見分けができていない始末であった。
「えっと……」
「あ、おっちゃん! 無事新しい宿屋を開く場所が決まったのか!?」
こういうところでだけリクは尊敬できる。どうやら騎士ではなく、前に泊まった宿屋の主であったらしい。シズクがこれまでの人生をずっとリクと共に歩んできた理由は、対人識別能力のほぼすべてをリクに依存していたためである。ここだけの話、二人が所属していた港区の某大学の入学試験においてもリクは補欠合格ラインであり、それに困ったシズクが稀代の天才である姉と共に入学前に学長室を訪れて小さく圧をかけたことを、幸運にもリクは知らないまま生きていられている。
「はい! おかげさまで! 今回はその報告と、みなさまに当面の住居を提供する形でここまでの旅の恩返しができないかと思いまして!」
「そりゃぁありがたい!」
「あ、そうだ。新しい商売のやり方を提供するって話をしてたね。あなたには、私のラーメンの作り方を伝授するよ」
「なんと! それは真ですか!」
「うん。是非、この世界に家系の名を広めてね。店先を黒一色に塗り、軒先に牛の骨を吊るすんだよ」
「それはなんとも呪詛的ですな……」
「そして、あなたがこのラーメンの作り方を覚えたら、今度はあなたが誰かに同じやり方を教えるの。それで、あなたは技術と店の名前を貸して、代わりにその売上の一部を貰う。このやり方で、おそらくこの世界初となるフランチャイズ系列店として家の名前を……」
「シズク様―!」
シズクが異世界においても家系ラーメンを根付かせようとする中、またしても別の男性が彼女の名を呼びながら走ってくる。今度も完全に顔に覚えがない。
「サロンさん! お疲れ様です!」
本当にリクはなんでも知っているから驚く。知っている顔と名前を知っているだけなのだろうか、それで言ったら自分はほとんどの人の顔と名前を知らない。
「誰?」
「護衛騎士団のサロンさんだよ。見りゃわかるだろ」
「見たって鎧甲冑の中の人とか知らないよ」
「にしたってあの声は特徴的じゃないか」
「声優の名前覚えられなかったし、声優耳もなかった」
「そのわりには眠りの名探偵の声優変更はすぐ気付いたじゃないか」
「トマホゥクをブゥメランにしたりムー大陸皇帝の名を叫んだりUFOを飛ばしたりテレポーテーションして殴ったり火の玉魔球を投げたり烈風正拳突きを打ち込んだりする人の声を私が忘れるわけないでしょ」
「番号順に元素の性質を話す感覚で昭和のスーパーロボットの解説入れるのやめろ。ていうかそのうち2本はかのゲームにも出てないはずなのに詳しすぎるだろ」
「私はチョットデキルだけ。あと、出てないのは1本だけ」
「まじ? アプリ版ってなんでも出てるんだなぁ」
ここでリクの勘違いを訂正するため、カラーになった白鳥の名前を出そうとしたところで改めて今現在の優先順位が整理される。
「すみません、お忙しかったでしょうか?」
「あ、ごめんなさい、大丈夫です! それで、何か問題でも?」
「いえ、今回の移住計画成功の功労者として、ギルド長が是非挨拶をと申しておりまして!」
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