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第Be章:幻の古代超科学文明都市アトランティスの都は何故滅びたのか

父と妹/2:ギャル語の研究論文があるのだから、ネットミーム的なお嬢様言葉についての研究論文もある

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 異世界に転生した男の体は軽かった。晩年の老いた肉体からはとても信じられない、本当にあの若き日のラップランド探検を思い出す活力に満ちている。当時の記憶を思い出しながら走り、転んだ。どうも想像より足が短いのもそうなのだが、長いスカートというものがこうも走りにくいものだとは知らなかった。いや、そうだ。その前に自らの容姿を確認する必要がある。鏡、はなさそうだ。であれば、水辺は。そう考えてまわりをきょろきょろと見渡すと、すぐそこに彼が見たことのない生物の姿があった。

「これは奇妙な生物だな……ん、ごほん。いやいや、それではいかん。慣れる必要がある。イメージするのだ。そして、最初やり直そう……あー、ごほん……ふぅ……」

 深呼吸すると過度に膨らんだ胸が目に入った。悪くないじゃないか。さて、やり直そう。想像しろ、少女の言葉を。私の理想を。発声器官に空気振動を送り、透き通る天使のような声で、今の思いを述べよう。

「まぁ、とてもおもしろい生き物ですわ!」

 目を輝かせて見たことのない生物に近寄ろうとするが、相手は何かにおびえたように一歩後退りをする。

「大丈夫ですわ、少しだけそのお体、調べさせてくださいまし。見たところ、哺乳綱偶蹄目イノシシ科とお見受け致しますが、少々牙が長いようですわね。インドネシアにお住まいの、バビルサ様の親戚でしょうか。いえ、しかし、バビルサ様とは異なり、どうにも実用的な牙に感じますわね。顎の形状からしてもかなりの咬合力があるのでしょう。一体何ニュートンになられるのか、後で測らせてくださいまし。あぁ! それにしても素晴らしいですわ! それで貴方様は、どのような獲物をお狩りになられて……」

 そうテンションを上げつつにじり寄るのだが、どうも様子がおかしい。その目には覚えがある。あの目は、肉食動物が獲物を見る目である。

「はて。まさか、人を恐れませんこと? これは珍しいですわね……いえ、まさか。あなた様、もしかして普段より人をお食べになっていて……」

 冷や汗が流れるのを感じる。これはまずいかもしれない。そうだ、この体は不老であるが、不死ではない。そして当然ながら、11歳の少女の肉体に戦う力などあろうはずもない。いや、ダメだ。相手の目を睨むのだ。気迫で負けた時、野生の動物はすぐにでも襲いかかる。こちらが相手の目を見て睨みつけ、こちらの方が強いと強く信じる様子を見せる限り、相手はすぐには飛びかかってこないはず。だが、それでも相手はじりじりと距離を詰めてくる。まずい。まずいぞ。このままでは、新たな世界で叶えたい夢が2つとも叶えられぬまま終わってしまう。どうする……どうすればこの状況を……

「小娘! 体を屈めろ!」

 背後からの声。一か八かでそれを信じ身をかがめると、同時に相手がこちらに飛びかかった。噛まれる。そう筋肉をこわばらせたが、相手の牙がこちらの柔肌をえぐることはなく。代わりに、投擲された巨大な槍がその体を串刺しにしていた。

「危ないとこだったな。どこの家の子供が……あ」

 目と目があった瞬間。私はこの子が好きだと気付いた。それは今まで、どんな強い男にも感じなかった感情。ひたすらに強さだけを求め、女の体の限界を超えるため師匠の元で修練を続け、美しいのは見た目だけで中身は粗暴な暴れ物と後ろ指をさされた私は、この子と出会うために生きていたのだ。そうだ、私は……

「こ、怖かったですわぉ! お姉さまぁ!」

 その日、王国最強にして無敗の騎士と呼ばれたレーヌは、己の魂の妹に敗北する。決まり手は鼻出血による貧血であった。それから数分後、目を覚ましたレーヌは魂の妹の前に改めて跪く。

「少女よ、名は」

 そう問われて悩むことになった。むぅ、名を決めていなかった。頭をよぎったのは我が妻の名、サラ。しかしそれを名乗るのは流石にどうだろうか。次に著名人の名を思い浮かべる。エミリ、エリザ、リーナ、メアリー。どうもしっくり来ない。やはり、長年呼ばれてきた名前と異なるのは違和感があった。そんな時、思い出したのは晩年の大学での授業の後。怖いもの知らずの若い学生に、こんなことを言われた覚えがあった。

「教授ってさぁ、男って意味の名前どっかやってぇ、ついでにその堅苦しいゲルマン系出自の貴族名抜いてぇ、名字の方を名前ってことにしたらぁ、めっちゃかわいい女の子みたいな名前じゃね? まじうけるー」

 あの時は流石に苛立ち適当に落第させたのだが、そうだ、確かにその通りである。すまぬ、もはや名も忘れた学生よ。貴様は今私の中で改めてウプサラ大学の学士号を授けよう。そうだ、私の。この世界での私の名は。

「リンネ! わたくしは、リンネですわ! お姉さま!」

 彼女こそ、後にこの世界のすべての魔物を系統分類すると同時に、大勢の女騎士や女魔法使いを虜にすることになる少女。分類学の妹、リンネであった。そして改めて、変態性の大小と、後世に残した偉業の規模には、決して相関がないことを強く覚えておくべきである。彼等が残した偉業は、いかなる変態性によっても薄れるものでない。なお、この物語は現実を題材にしたフィクションかもしれない。
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