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作品の雰囲気ちょい読み

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 これらを今、シズクは考えている。考えることができている。かつて、デカルトは自我という曖昧なものに対して「我思う故に我あり」と定義した。自我が不確定な存在であるとしても、考えることができていることは自我の存在証明であると。これこそが、死の向こう側への鍵であった。すなわち、シズクは確かに死んだという自覚があるのだが、未だに思考が続いているという現状は、自我及び、魂の存在を証明していると言えたのだ。

 ~~飛行機事故で死亡した主人公が転生の女神に出会う直前に




「ならあなたは、世界の真実を自分で気付くことが可能な場所、設定での周回を希望しているということですねー?」
(そうなる)
「わかりましたー。では、場所とかはこの辺として。スコアボーナスはー……うーん、まずは、記憶保持と言語能力は必須ですよね?」
(そうなるかな。記憶保持はやっぱり欲しい。新規言語の習得もめんどうくさい。ノウハウがあれば言語習得のフィールドワークも面白かったのかもしれないけど、その辺はあまり詳しくなくて)
「では、記憶保持と全言語自動翻訳はつけて、と。まぁ当たり前ですけど、めちゃくちゃ利用可能スコア残ってますねー。うーん、全知とかつけます? アカシックレコードを読める権限でも。なんでもわかりますよー」
(絶対にやめて。それならまだ、手から無限にラーメンを出せる能力の方がマシ)
「ではそれをつけてー」
(待って、ほんとにあるの?)
「かなりスコア余ってますからねー。いろんな能力を自由に考えてつけられますよー」
(なんだか大喜利みたいになってきた)
「人気どころとしては、美少女化、イケメン化、ハーレム因子、超幸運、戦闘能力向上、魔力無制限、最上位級魔法習得、その他諸々ありますけどー」
(随分俗物的というか、そういうのって何日くらいで飽きるんだろう)

 ~~主人公と転成担当の会話




 食虫植物であるハエトリソウは、開いた葉の上に捕食対象となる虫が止まった際に0.3秒でその葉を閉じ、虫を捕食する。ハエトリソウには目がない。すなわち、葉を閉じるという判断は、触覚に頼っている。しかし、簡単な触覚でいちいち葉を閉じることはできない。それは、葉を閉じるという攻撃行動が、ハエトリソウの構造上、自らの命に関わるほど大きな労力を要する行動だからだ。彼らはこの捕食行動を、必殺にして確実な一撃にしなければならなかったのだ。それを単純な触覚に頼ったのでは、飛んできたゴミや、雨などで間違って葉を閉じる可能性がある。そこで彼らは、一定の期間内に2回触覚に反応があった時に、捕食行動を取る形へと進化した。この現象は、今の自分のやらかしに限りなく一致する。

 では、かの植物は何故ハエトリソウと同じ進化をしているのか。それは、この捕食行動が、あの植物にとっても身を削る行動だからだと言える。一撃必殺。すなわち、それは。

 ~~未知の植物種モンスターを前にした主人公の考察




 老練なマスターは軽く笑って奥の棚から不格好な瓶に入ったぶどうジュースを木製のコップ状の容器に注ぎ、次いでホップの香りが芳しいビールめいたなにかをツボから汲み取るような形で一回り大きな木製のジョッキに注いで出した。魔物が残した石が金銭として使用できることは知っていたが、具体的にどれだけの価値を持つかわからない。リクがおそらく高額であると推測した銀の硬貨1枚を多少なりの緊張感を持ってカウンターに置くと、マスターは特に訝しむようなこともなくそれを収め、手元から銅貨を9枚返した。

(銀貨1枚で銅貨10枚の価値なのかな? いや、そうなるとぶどうジュースとビールがあわせて銅貨1枚になってしまう。これよりも小さい貨幣は無いようだし、おそらくそうではない。酒税を考慮に入れなければ製造コスト的にビールの価格はぶどうジュースより下。それはぶどうジュースが小さな瓶で保管されており、ビールが大きなツボで保管されていることが想像できる。おそらく、ぶどうジュースが銅貨2枚、ビールが銅貨1枚だった。そして、銀貨1枚は銅貨12枚に等しい。元の世界の貨幣に慣れた私達にとっては直感的に理解し難いけれど、実際のところ、これはかなり合理的。12進法は悪くない数え方だからね。ただ、もしもこの世界が本当に12進数でなっているなら、慣れるまで計算に時間がかかりそう。ノイマンならそんな不便を覚えることもなく世界を楽しむんだろうけど、6桁より上はあまり暗算で考えたくないなぁ)

 ここまでを数秒で思考した後に、こちらに目を向けたマスターにぶどうジュースを注文し銅貨2枚を渡すシズク。マスターは当然とばかりにぶどうジュースのみを返した。

 ~~酒場における主人公の思考




「神様って、本当にいるんですか!?」

 シズクは嘲笑って答える。

「いるよ。絶対にいるわけがないと思ってるんだけど、だからこそ、いるんだろうなぁって日々わからされてる。ただ、それはあくまで、世界を創造した全知全能に見える意思を持った何かであって、作った理由もおそらく独善的でエゴイスティックな自己満足。世界や人類の救済にはこれっぽっちも興味を持ってないよ。多分ね」

 ~~合理的な思考ができるシスターを仲間に誘う際の主人公のセリフ




「ファンタジー作品やゲーム作品的解釈でいえば、呪いの雨ってのは珍しい表現ではない。浴びた人の体が石化したりな」
「石化っていうと、アフリカのナトロン湖かな。塩化ナトリウムを含んだpH10の強アルカリ性の水が、生物の死体の腐敗を遮る結果、湖の上に石化したような生物の死骸が溢れるっていう。でもこの場合、仮に人がこの水を浴びても、腐食性の化学火傷を負う可能性はあっても、即座の石化は考えられない」
「ファンタジー的な石化ってのは、ギリシャ神話におけるゴルゴーンみたいな、魔術、呪いの類だからな。これも原因はだいたい魔物による魔法か呪いだ」
「そんなものない、と、言い切れないのがなんとも剣と魔法の世界だね。ともあれ、具体的にどんな症例が出るのか、実際に見てみたいな」
「危険だ。感染の可能性がないわけじゃない。そもそも、怪しげなよそ者に見せてくれるかどうかが怪しい」
「うん。だからさ……」

 軽くスキップするように前に駆け出し、まるでミュージカルのように鼻歌を歌いつつ、くるくると踊って手の平を空へと向ける。リクはシズクが何を言いたいかを理解し、顔を青く染めた。

「お前……まさか……」

 シズクはにやりと笑って、ゲーテの詩を引用しつつ、独自の一文を付け加える

「雨の中、傘をささずに踊る人間がいてもいい。自由とはそういうもの。そして、自由主義なくして、科学的手法はないんだよ」

 ~~浴びると死ぬという呪いの雨の降る街にて




「なら、そのダンジョンを攻略して破壊すれば、この街は救われるんですね」
「そうだよ。でも、無理だから早くこの街から離れようか」
「おいぃぃ!」

 思わず立ち上がったリクが渾身のツッコミを入れる。

「なに?」
「そうじゃないだろ! 絶対そうじゃない! 人類に仇なす魔物のたくらみは冒険者によって穿たれる物! その複雑なからくりが判明した現状で、根源を無視して次の街に行くなんて世界が許しても堀井Pと天国のすぎやま大先生が許さないだろ!」
「なんで? 私その人、キャンディとヒデキと伝説の巨神しか知らない」
「知識が偏りすぎてるだろいい加減にしろ!」
「私は絶対に戦闘機が炎に包まれて突っ込む忍法を科学とは認めない」
「ねぇその偏りはどんなご家庭で構築されるの!?」
「姉が天才すぎてノーベル賞貰うようなどこにでもある一般家庭」
「どこにでもあってたまるか! 今どき桜新町の平屋一戸建てくらいありえない!」
「エネルギーとエレクトロニクスってこと?」
「だからそうじゃないんだよ!」

 ~~ダンジョン攻略をスルーしようとする主人公と幼馴染のやり取り




 彼女をして、幼馴染のリクは「おとこのこ」である。人型のロボットがまるで歌舞伎のような見栄を切り、過度なまでに誇張された作画パースで剣を構える姿が、おとこのこは大好きなのだ。

 もしも予算や技術力を度外視し、現代技術の粋を集めて超伝導レールガンを搭載した80cm列車砲グスタフ・ドーラの三号機を開発した時は、エネルギー充填率のメモリが何故か120%まであるインターフェイスを撫でつつ、こう言ってやりたい。「おとこのこって、こういうの好きでしょう?」と。この時点で悩殺は確実なのだが、ここでさらに自爆スイッチの隣にあるスイッチを押して列車砲の巨大な筐体を変形させ、同時に空から急降下爆撃さながらのモーションで降下してくるユンカースJu87シュトゥーカ型超音速ジェット戦闘機(ただし本来の用途は爆撃機)と、何故か艦首に巨大なドリルを装備したUボートがよくわからない力で飛翔して集まり、不思議な力で起こされた緑の竜巻の中で3体が合体して巨大人型ロボットになった日には、あまりの興奮に鼻血を拭いて倒れることは保証されている。このような低俗なハニートラップにすら抗えない生物学的に愚かな存在、それが、おとこのこなのだ。

 ~~人型ロボットの出るアニメが大嫌いな主人公の語り



「なるほど、それが貴様の術か」
「そんな大したものじゃない。魔法はまだ覚えたての勉強中」
「ほう? どのような魔法を使う?」

 まさか自分から手の内を明かすとも思えないが、聞くだけならばタダである。人間はただ1つの魔法しか使えない。その種別さえわかれば、脅威度の判別は簡単だ。

「ただの回復魔法だよ。傷や病気を治せるだけ」

 手の内を明かされた。正気か? これも嘘なのか?

「ふん。愚かな神の力を借り受ける奇跡の類か。ならばその術も奇跡由来か」
「へぇ、魔法と奇跡の概念差、これってイルマがわかりやすく説明してくれただけの解釈じゃなくて、魔物もそう認識している世界システムの根幹なんだ。でも、ならば改めて、違うと言わせてもらうよ。私の回復魔法は、そっちの理屈の上でも魔法。種も仕掛けもなく、神とやらの力を拝借した奇跡ではない。原理があって、理屈がある。だから、私の力は、魔法(すすみすぎたかがく)だ」
「何をわけのわからぬことを。百歩譲ってそれが真実であるとして、ただの回復魔法でどう戦う? この岩窟王フェラーを倒せるというつもりか?」
「YES」

 ぞわり、とフェラーの背中表面金属が帯電する。なんなのだ、この威圧感は。

 ~~ダンジョンの最奥に待ち構える鉄のゴーレムを相手にした主人公のセリフ
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