理系転生 ~人類を根絶する目的で世界平和を目指す魔王と自身の好奇心を満たす目的で世界を破滅させる勇者の物語~

卜部猫好

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第Be章:幻の古代超科学文明都市アトランティスの都は何故滅びたのか

先生と生徒/5:お前を信じる俺を信じろ。そう言った兄貴は、確かに輝いていた。

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「それじゃ、先に寝かせてもらうね」
「失礼します」

 夜。シズクとイルマは一足先に馬車へと戻った。今までずっと野宿だった所、屋根付きで布団まで用意された馬車の中は快適だ。たとえそこで、物凄い寝相で転がり回る世界一美しいゴリラが居るにしても。

「はぁ……リク様、先程はありがとうございました」
「ん? なんのこと?」
「いえ、お気になさらず。ともあれ、私はあなた様に一方的に感謝しております。それだけ受け取っていただければ、私は十分ですわ」
「お、おう」

 リンネの体は幼い。にも関わらず、この中の誰よりも大きな胸は、彼女が女性であることを強く主張していた。おとこのこであるリクの目線が、ついつい下に傾いてしまう。いや、ダメだ。ロリコンは犯罪。自分は決して変態ではない。頭を振って、強引に煩悩を吹き飛ばすリクだった。

「ところでリク少年。フェアレディシズクは、君の恋人かい?」
「はぁ? 何言ってんだ優男。んなわけねーだろ、あんなやつ。ただの幼馴染だ。あんな女子力ゼロの理系オタク、よほどの物好きに貰ってもらわない限り生涯独身だね。つーかなんだよフェアレディって」
「ほう。つまり、僕はシズクを口説いてもいいということだね」
「なっ……そ、そんなのダメに決まってんだろ!」
「何故かな? 別に少年の物ではあるまい」
「それは……そうなんだが……」

 本当に最悪だ。こんな展開異世界ハーレムにはありえない。だから男はパーティに加えちゃいけないっていうのに。

「それにしても、シズク先生……私、少し心配ですの」
「心配?」
「あの方、何か大きなトラウマを抱えてはおりませんか?」
「う……」

 本当にあいつはわかりやすい。長年人の顔を見てきた人生の練達者ならまだしも、出会ったばかりのこんな小さな女の子にまで心配されるなんて。

「ちょっと……な……普段はあんなやつじゃないんだが……」
「えぇ、それはなんとなく存じておりますわ。いえ、『わからせ』られたと申しますか……こほん、さておき。本来のあの方は、きっととても破天荒で、愉快な方なのでしょうね」
「まぁちょっと暴走しすぎる所もあるが……だからこそ、今のあいつはちょっと……いやだ」

 こればかりは、リクの本心である。だがそれでも、シズクと自分の間にある圧倒的な差が。わかさせられ続けている劣等感が。自分の言葉でシズクを助けられるとはとても思えない現状を招いていた。

「リク様。もし良ければ、お話を聞かせていただけませんか? 若輩の身ですが、なにか力になれるかもしれません」
「あぁ……いや、しかし……」

 ちらりとリクの目線がカイと合う。カイは小さくため息をついて、やれやれといった大げさなモーションで返した。

「確かに、少年は僕のことがお気に召さないようだ。実際、僕も君のことがあまり気に入らない」
「随分ストレートな物言いをしてくれるな」
「そうだとも。旅の仲間とはいえ、その主義主張は個人で千差万別。いがみ合いなど日常茶飯事さ。実際、勇者パーティでも毎日のように箱入りの聖女様と重犯罪者の盗賊王様が口喧嘩をしていたのを思い出す。しかしだね。僕の師匠、人類最強の剣聖はこう言った」

――思いを伏せるな。存分にいがみ合え。心を1つにできずとも、相手の心を理解しろ。それだけ出来れば、旅仲間(パーティ)だ。

 はっ、とリクの瞳孔が開く。

「僕は君のような一線を越えているやつが嫌いだ。大嫌いだ。根本的にわかり会えないと言ってもいい。だが、それでも君はもう仲間なんだ。少なくとも僕はそう思っている。さて。少年は僕を仲間として見てくれるかな?」

 じっとこちらを見つめるその純粋な目に、思わずリクの瞳が右に左にと泳ぐが、しかし回り込まれてしまった。このままあと7回繰り返せば会心の一撃をカウンターに入れられるかもしれないが、観念したとばかりにため息をつき、少しだけ頬を膨らませて答えた。

「努力する」
「それでいいさ」

 そのキザったらしい余裕は今まで通りリクの苛立ちを呼ぶものだったが、少なくともこのタイミングにおいては、許すことができた。

「まぁそれでも、君が僕には聞かせたくないというのなら、僕はその考えを尊重する。少し離れていればいいかな?」
「いや……いい。あんたの言う通り、仲間の問題だからな。聞いてくれ。ただ、俺がそれを喋ったってのは……その……」
「大丈夫ですわ。リク様が悪い目にあうことがないよう私はしっかりと配慮し、シズク先生にも慎重な対応をお約束します。カイ様も、約束していただけますか?」
「もちろんだ」
「……すまん」
「違うな少年、間違っているぞ。今君が言うべき言葉は謝罪ではない。感謝ではないかね?」

 確かに、そのとおりだ。二人共俺とシズクを心配してくれている。ならば確かに、ここでは仲間である二人にありがとうと言うべきなのだが。

「うっせ。ばーか」

 どうにも素直にできない。しかし、二人ともこれをリクなりの感謝と受け取った。

「で。あいつに何があったかなんだが……」

 リクは順に解説する。自分たちが転生者であることはそれとなくぼかしたのだが、ニューパルマでフライモスキートを根絶したこと、それからヨセタムの観光振興に挑んだこと。そして、失敗したことを。

「ふむ……」
「そんなことが……それは……さぞ苦しんでいることでございましょうね……」
「なぁ、教えてくれ。俺はあいつに何ができる。俺なんかが、あいつのためにしてやれることはあるのか?」
「うむ。ないな」
「はぁ!?」

 きっぱりと断言され、思わず立ち上がって優男の顔を睨みつける。

「少年。手前味噌だがね。僕は、モテる」
「なんだてめぇ! 自慢かよ!」
「そうだ。なにせ僕はモテモテだからね。何故だかわかるか?」
「てめぇみたいなキザのクソ野郎に好意を持つ女の気がしれないね! まっこと、死ね!」
「そうかい。でも、簡単なことなのだよ。何故なら僕は、僕が世界一モテると心の底から信じているからね」

 その時リクは、きらきらと星の光が優男の笑顔を照らしているかに見えた。あ、はい。いるよ。いるいる。そういうナルシストって言葉すら超越した純粋な心の邪悪が。

 しかし、もしもここにシズクが居れば、彼女はカイの言葉で納得しただろう。半ばスピリチュアルな物として語られるその法則は、実は量子力学的に正しいのかもしれないからだ。特に、この世界では。その法則の名を、引き寄せの法則という。成功する会社の社長がとにかく自分の成功を信じて疑わないように、自分が強く信じた未来は、現実として形になるというものだ。

 実のところこのスピリチュアル的な法則。これは、イルマが語ったこの世界における魔法の使い方そのものなのだ。すなわち、自己実現と影響力の行使である。この意志は人の心の光と呼ばれ、現実にも存在している。それはとあるロボットアニメにおいてT字型をした謎のフレームと共振し隕石を押し戻した緑色の光ではなく、漆黒の暗闇の中でも人間自身がその肌からほんのわずかに出している熱エネルギー放射光であり、確かに存在する素粒子なのだ。

 この素粒子は、未来を選択する力を持つとされる。不確定な未来の分岐に対して、実現する未来と実現しない未来を無意識に選択させる。考えて見て欲しい。場面は漆黒の闇。道は左右にあるはずだが、片方はそのまま、もう片方は途中で崖になっている。この時、もしも片方がぼんやりと光って見えたら、なんとなくそちらに足を進めないだろうか。こうして人の意志は、素粒子に導かれるのだ。

 もちろん、この理屈は今はまだスピリチュアルである。しかし、いずれ真実の科学となる日が来るかもしれない。現代の量子力学とは、このようなオカルトでスピリチュアルな論にすら至極真面目に取り組んでしまっているまさに超科学なのだ。それを信じよとは言わないが、完全否定はしないで欲しい。とても信じられないような事実が証明され続けてきたことが、科学の歴史なのだから。

「いいかい、リク少年。君はフェアレディシズクに対して、自分では何もできないだろうと言う。だから君には何もできない。もしも君がシズクの力になれるとしたら、その時君はこう言っているはずだ。俺を信じろ、俺が君を助ける、と」
「うっ……」

 ナルシストの目は、輝きすぎていた。確かにその目は、自分にはとてもできないものだった。

「そうですわね。けれど、無理はいけまませんわ。人間分相応というものがありますの。背伸びはよろしくありませんわ。私は私で、できることを探してみます。シズク先生は、良い笑顔でいられるべきですわ」

 そして私のことをまた変態と読んで欲しい。あの時に感じた衝撃を、もう一度確かめたい。その思いは、私の内に留めよう。

「そう……だな。ありがとな、リンネちゃん。それと……カイも、一応、その……ありがとな」
「ふっ。やっと名前を呼んでくれたな、リク少年」

 またあの目だ。イケメンの目が、こちらを射抜く。

「う、うっせんだよ! ばーか! ばーか!」

 そんなリクを見て、カイは高らかに笑った。

「しかしリンネ君。いいのかい? 君がそこまでシズクに入れ込んでは、マイハニーが嫉妬するぞ。君はハニーの魂の妹なのだろう?」
「えぇ、そうですわ。私はお姉さまの妹です。けれど私は、お姉さまの妹である前に、すべての世界のお姉さまたちの妹なのです。よって、シズク先生も、いずれ私のお姉さまになるのですわぁ!」

 リクはここに来てようやく気付く。今まで強すぎる光の影に隠れて目立たなかったが、リンネちゃん、実は、かなりヤバいのではないだろうかと。
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