月曜日の方違さんは、たどりつけない

猫村まぬる

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第十話:月曜日の方違さんは、神様の約束

10-1 諸君、あけおめ

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 鐘の音とともに、世界が一回転した。あちこちから「おめでとう」の声が聞こえてくる。
 僕は姉ちゃんとちこりちゃんに先を越されないように、大急ぎで言った。
「方違さん、あけましておめでとう」
「ん……。おめでと」ぎこちなく頭を下げてから、彼女は照れくさそうに微笑んだ。「今年もよろしくね」

 これで、僕が今年最初に話した相手は方違さんになったわけだ。
 そして、方違さんにとっても。
 来年も再来年もこんなふうに、僕らはお互いの最初になれるだろうか。

「諸君、あけおめー」と姉が言う。
「おめおめー!」と、ちこりちゃんが飛び跳ねる。

 姉とちこりちゃんは歩きながら腕を組んで、ずっとなにかおしゃべりして笑い合っていた。ついさっき――もう去年だけど――はじめて会ったばかりにはとても見えない。

 線香の煙がもうもうとする本堂で、僕らは怒り顔の神様におさい銭をあげ、おみくじを引いた。姉は恋愛成就のお守りを二つ買って、僕と方違さんのポケットに黙って押し込んだ。

   ◇

 境内の焚き火の前であたたまっていたとき、ずっとちこりちゃんとひそひそ話をしていた姉が、方違さんの肩をつんつんして言った。
「ねえねえ、くるりちゃん、ちこりたんがおトイレ行きたいって」
「あ、じゃあ、わたしが……」
「ううん。あたしが連れてったげる。ちょうど行きたかったし。ここで待ってて」
「すみません」
「いいよいいよ。くるりちゃんは、まもるが迷子にならないように、ちゃんと手をつないでてね」
「……え?」
「姉ちゃん、行くなら早く行けよ」
「はいはい」
 姉はちこりちゃんの肩を抱いて、遠くを指差した。
「では勇者チコリウス様! 我らは月下老人たるべく旅立ちましょう、閉ざされし小部屋に隠された伝説の巻物、エリエールを目指して!」
「おー! エリエール!」

 キャッキャと笑いながらふたりは行ってしまい、僕と方違さんは焚き火の前に残された。

 方違さんは僕の手をしっかりと握っている。まるで本当に僕が迷子になるのを恐れているみたいに。
 年が明けたせいか、境内からは人が減りはじめていた。気づくと火にあたっているのは僕ら二人だけだった。

 今だ。今こそ言わなきゃ。ずっと思い続けてたことを、彼女に言おう。
 でもそう決めたとたん、心臓が早くなり、息が苦しくなった。頭と体の奥に、ぎゅっと力が入る。

「ねえ、方違さん」
 緊張した僕の声は、変に大きく響いた。
「えっ、あ……なに?」

 僕はゆっくりと深呼吸した。
「前にも言ったけど、僕は、方違さんと友達になれて、ほんとによかったって思ってるよ」
「ん……。わたしも……」

 方違さんは僕の方を見ないで、焚火をじっと見つめていた。鼻から下はマフラーに埋もれて、口元の表情は分からない。

「でもそれだけじゃなくて、僕は、方違さんに、なんていうか、普通の友達に対する気持ちじゃなくて……」
「ん……」
「ねえ、もし方違さんさえ嫌じゃなければ、僕ら、これからは……」

 ぽんぱんぽんぱんぱんぽんぽん。

 ベルが鳴り始めた。

 ぽんぱんぽんぱんぱんぽんぽん。
 ぽんぱんぽんぱんぱんぽんぽん。

 僕の携帯だ。誰だよ、こんなときに。後藤か? 要らないよ、お前の新年のあいさつなんて。
 でもベルは鳴りやまない。

 ぽんぱんぽんぱんぱんぽんぽん。
 ぽんぱんぽんぱんぱんぽんぽん。

 電話、出て。と方違さんが目で言った。

「もしもし」
 ――ああ、まもる? わたし、お姉ちゃん。
「なんだよ」
 ――もしかしてプロポーズの邪魔しちゃった?
「うるさいよ」
 ――あんた、ここの奥の院って知ってるよね? むかし新年によく来てたでしょ。
「おばあちゃんがいつも熱心にお参りしてた所だろ? それがどうしたの」
 ――ちこりにゃんにあそこの話したら、どうしても行ってみたいんだって。
 ――行きたいなー!
 と、電話の奥からちこりちゃんの声がした。
 ――ちこりはオクノインに行きたいなー! 
 ――あたし、ちこりにゃんと奥の院に向かうから、あんたたちも後からおいで。待ってるから。

 一方的にそう言うと、姉は通話を切ってしまった。
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