月曜日の方違さんは、たどりつけない

猫村まぬる

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エピローグ

楽しそうに、軽やかに

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 方違さんが先頭を歩いている。
 なんだかいろいろ入った大きなレジ袋を片手に、楽しそうに、軽やかに。

 今日の彼女は黄色のパーカーとデニムのスカートで、青いガラス玉のついたヘアゴムで髪をポニーテールにしている。
 かわいい。
 真剣な話、後ろから見ても分かるほどこんなにかわいい女子って、なかなかいないと僕は思う。なんで他の男子が誰も騒がないのか不思議だ。

 広い公園の木立の中の道は、ずっとまっすぐに続いている。
 僕は食べ物や飲み物の入った袋とか、折りたたんだレジャーシートとかを山盛り抱えて、彼女の後ろを歩く。

「♪さーくーらー、さーくーらー、まもるはくるりの愛の奴隷ー♪」
 ピンクのワンピース姿のちこりちゃんが、僕の隣でスキップしながら歌っている。
「姉ちゃん! ちこりちゃんに変な歌教えんなよ!」

 振り返ると僕の後ろには、姉と後藤と佐伯さんの三人が、それぞれに荷物を持って歩いている。後藤と佐伯さんは制服、姉は春色のカーディガンとロングスカートだ。

「わたしじゃないよ。ちこりちゃんが自分で作ったんじゃない? 子どもってよく観察してるよね」
「うそつけ」と僕はつぶやく。
 佐伯さんが笑いながら、
「お姉さんは、地元で後藤のこと、子どものころから知ってるんですよね?」と言う。
「んー、それが全く記憶にないのよねえ」
「やだなあ、まりなさん、俺っすよ。昔よく遊んでもらった後藤リュウジっすよ」
「ゴ、トウ……? ぜんっぜん思い出せない……。わたしのスカートに頭突っ込んで来ようとするから用水路に蹴り落としたら対戦ゲームのカードが散らばってぷかぷか流れてってギャン泣きしたクソガキしか思い出せない……」
「めっちゃ覚えてるんじゃないっすか!」
「あんた、そんなことしてたんだ」
「し、してねーし!」
「それがさ、わたしが高校に入ったぐらいからは、こんどはわたしが『リュウちゃん、おはよ』って声掛けるだけでこいつもう顔真っ赤で、会話もままならないわけ。ぷはははは。でさ、わたしわざと――」
「うわああああ! 俺のことなんかもう忘れてください忘れてくださいおねがいします」

 後ろはにぎやかだけど、方違さんは時々僕の方をちらっと振り向きながら、どんどん前へ進んでゆく。

「方違さん、道知ってるの?」
「ん……分かんないけど、たぶんこっち」

 前の方が明るくなって、視界がだんだん開けて来た。
 木々の並びが途切れたところで、方違さんは立ち止まった。

「見て、すごい……」

 そこから道は下り坂になり、その先にはもう建物も車も人も、緑の木も、余分なものはひとつも無かった。右も左も地平線まで、いや、そのさらに向こうにかすんで見える山の頂上まで、ぜんぶ桜の花だ。晴れ空の淡い青と、深いピンクをうっすらと宿した純白だけが、視界にあふれていた。

「♪春のうらららるぁぁぁぁー!」と叫びながら、ちこりちゃんは坂を駆け下り始めた。
 姉や佐伯さんたちもすぐに追いついてきて、「すごいすごい」「きれいね」と口々に言った。後藤だけは「どこだよ、ここ。おかしくないか?」と首をひねっていたけど。

 でもそんな絶景も、僕にとっては背景だった。
「見て、まもるくん、きれいだよ……」
 振り向いた彼女に、花びら混じりの風が吹く。

 いつの間に解いたんだろう? ほんの少し青みのある黒髪が、ふわっと広がる。早足で歩いて来たせいか、白い肌の下から桜色の光が透けて輝くようだった。
 みんながわいわい騒ぐ中でも、方違さんの視線はぴったりと僕から離れない。空間をいっぱいに満たすような四月の光の中で、彼女の瞳はどんな鉱石よりも深いブルーで、いくつもの光をちりばめてきらめいていた。

「きれいだね、方違さん」と僕は言った。「すごくきれいだ」
「ん……」と彼女はうなずく。
「花を見ろ、花を」
 と姉ちゃんが言った。




(了)
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