ステキな宇宙ステーキ店

まつむらまい

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レインボーステーキと禁断症状

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「マスターのステーキが食べたあいぃぃぃぃ!」

 銀河の果て、長距離ワームホールから少し離れたところにあるステーキ店。マスターのステーキを食べられなくなって幾日たっただろうか。私は禁断症状に襲われていた。

 宇宙ネットワークでマスターのステーキの美味しさが拡散され、金と時間を持て余した食いしん坊たちが宇宙中から押し寄せて大繁盛からの大行列。仕事の合間に立ち寄って…なんてできなくなってしまってから、マスターのステーキを食べていない。食べたい。マスターのステーキ。

 マスターのステーキの情報漏洩を恐れて、長距離宇宙トラックドライバー達の間ではマスターのステーキ画像は一切保存禁止になっていた。手元に1枚もない。

 ので、宇宙グルメサイトに次々と挙げられるマスターのステーキ画像を眺めては、涎を垂らしてマスターのステーキに思いを馳せて過ごす日々。宇宙ネットワークにマスターのステーキ情報が拡散されることをあれほど恐れていたのに、今はその情報に慰められることになるとは皮肉である。

「ああああグリーンステーキ!いいイエローステーキ!うううブルーステーキ!ええええパープルステーキ!おおおおおおお?レインボーステーキ?だと?!」

 私の食べたことない色のステーキ画像がサイトに挙げられていた。
 マスターのステーキのカラーはランダム。毎回何色のステーキを食べられるのか分からない。が、ここ最近はずっとレインボーステーキが提供されているようだ。さらなる情報を漁る。

『今まで食べた料理と次元が違う多幸感。』
『目の前が七色に輝いて脳内がスパークする。』
『今日もステーキキメた!やめらんねえ!トリップすげえ!』
『ステーキ食べてたら、昔飼ってたペットに会えた。嬉しくて涙。』
『小さいおじさんがテーブルに上ってきてダンスを踊ってくれた。これサービス?』

 なんだか様子がおかしい?これステーキを食べた感想ですか??

 私が通ってた時は、小さいおじさんのダンスパフォーマンスはなかったし?昔飼ってたペットに会えるサービスもなかったよ?どういうこと?

「これは…行って確認するしかない!」

 私は早急に休みをもぎとって、銀河の果てにあるステーキ店へ向かった。相変わらず、すごい行列だ。だが!今日の私は休みをもぎ取ってきている!いくらでも待つよ!待ってろレインボーステーキ!

 何時間待っただろうか、ようやく順番が回ってきた。ウキウキと宇宙船のドッキングハッチを抜け、エアロックを開けると、虹色のマスターが笑顔?で出迎えてくれた。

 え?マスターの手じゃなくて?足じゃなくて?鼻だったっけ?が?めっちゃ短くなってる???なんだか顔色も悪いような気がする?虹色でよくわからないけど?

 心配に思いながら席に着いたが、チリチリと温められた鉄板にドーンと載った分厚いレインボーステーキがサーブされると、

「いい匂いだあぁぁぁ!!」

 すっかりレインボーステーキでいっぱいになった。匂いだけで口の中に涎が溢れるぅ!こいつは堪ら~ん!はやる気持ちを抑えながら、テーブルに置かれた箱からナイフとフォークを取り出して、分厚いステーキを切り分け一口頬張る。

 世界が七色に輝きだした。

 今まで食べたマスターのステーキのすべてのカラーの美味しさを凝縮したような複雑で芳醇な味わい。それが口の中で、脳内で弾けて、七色に輝いてぐるぐる渦巻く。その渦の中で、昔、地球で飼っていたポメラニアンのポメ子が、己のシッポを追いかけてグルグル回っている。そういや、ポメ子もよく舌をしまい忘れてたな。懐かしい。私は頬を流れる涙にハッとして、目の前の鉄板をみると、レインボーステーキはなくなっていた。食べた記憶がない。

 これは美味しいの次元を超えている。いつものように2枚目を注文したいけれど、もう一度あれを体験してしまうと非常に不味いと私の中で警戒音が鳴り響く。

 一旦気持ちを落ち着かせるために他のお客の様子を伺う。みんなフラフラとレインボーステーキを頬張っては、焦点のあってない目で空中を眺めている。ヤバいぃぃぃ!これは絶対ヤバいぃぃぃ!

 一体全体どうなっているのかマスターに聞こうと、円状のカウンター席の真ん中にある厨房を見た。あれ?マスターがいない?カウンターから身を乗り出して覗くと、厨房の床に地球のヒトデのように倒れているマスターを発見。えらいこっちゃ!

 大繁盛店になっても、マスターは一人で店をやっていたようで、焦点のあってない目で空中を眺めているお客たちで、この状況に対応しないといけない。どうしたものかとカウンターを見回すと、見知った顔がちらほらいた。私と同じように休みをもぎ取って来たであろう長距離宇宙トラックドライバー達だ。まず彼らを七色の世界から連れ戻す。

 正気に戻った彼らと手分けして、マスターをここから一番近い(といっても遠い)宇宙総合病院へと連れていき、他のお客も正気に戻して店を閉め、外に続く行列に事情を説明して帰ってもらい、マスターの通信記録をたどってマスターの娘さんに連絡をとった。

 すぐ病院へ向かってくれた娘さんから、マスターは命に別状はない。という連絡を受けて、店で心配して待っていた長距離宇宙トラックドライバー達はホッと胸をなでおろした。

 マスターが無事でよかったよかった。
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