セーラー服とユニコーン

中村わこ

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 終礼が終わると、大部分のクラスメイトたちは部活に向かう。
 楽しそうな彼女たちを見送りながら、机の中から英語のノートを探す。

「伊藤さんは残るの?」

 残り物メンバーの一人、浅田さんが隣の席でかばんに教科書を入れながら私を見ている。浅田さんはテストの成績がいいと終礼後に必ず自慢しに来るので、正直言って苦手な子だ。
 くるくるを通り越してもじゃもじゃに近い天然パーマを、校則どおり器用に二つ結びにしている。外見の悪口は言いたくないけど、多分朝のセットが大変だろうな、とは思う。
 そういえば私もそろそろ髪を切るか結ぶかしないと、規律チェックに引っかっちゃうな。

 私は浅田さんより点がよくても、言わないようにしてるんだけどな。友達にテストの点数を自慢するなんて、幼稚だと思う。
 浅田さんにとって私は友達じゃない、と言えばそれまでだけど。

「うん。宿題やって帰ろうと思って。家だとやる気が出ないし」

 言い訳のように付け足して、手に持っていた英語のノートを机の上に置いた。

 やっちゃった。

 今日は英語の小テストが返ってきたんだった。心の中で自分の間の悪さにげんなりする。
 今更引っ込めるのは不自然なので、ペンケースを開いてシャーペンと消しゴムを出した。かばんから電子辞書を探して、目の前に置いて開く。

 とにかく、私は今から宿題をやるの。これ以上話しかけないで、と念を送る。

「ふぅん。じゃあまた明日ね。ごきげんよう」

 小テストの結果は自慢するほど思わしくなかったらしい。
 彼女が去っていくのを見て、心からほっとした。途中まで一緒に帰ろうとか言われたら、本当に悲劇だ。

 帰宅部の数人がだらだらと教室を出て行くと、クラスはすぐに誰もいなくなった。しんとした教室を見回して、私は席を立った。空いている窓から頭を出すと、白いロッカーの群れと、空っぽの廊下が見える。
 今がチャンスだ。いそいそと荷物を黒いバッグに詰め込むと、私は教室をあとにした。

 六段の階段は、縁についている滑り止めのゴムが全然減っていなくて、スリッパ越しに伝わってくる凹凸がくっきりとして新鮮だ。
 ついに私は扉の前に立った。

 念のため背後に続く廊下に耳を澄ませたけど、しんと静まり帰っている。

 本当に、今がチャンス。

 私は唾をのみこんだ。開かなければ、そのまま何事もなかったかのように帰ればいい。心を落ち着けて、ドアノブに手を沿わせた。
 不思議な香りがして、私は一瞬手を止めた。森の中にいるみたいな、湿気を含んだ冷たい香りがする。絶対気のせいだけど。

 どうか開きますように。私の中学生活を変えてくれるなにかが、ここにありますように。

 てのひらにぐっと力をこめて回すと、ドアノブの中で何かが動く感触があった。想像していたよりもずっと重い感覚で、ドアは向こう側に開いた。

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