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4月編
5話 出会い
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[件名:メアドは友達から教えてもらいました
お久しぶりです。水仙 瑞稀です。
いきなりのことで大変驚いていることだと思いますが、どうしても伝えたいことがあるので今から会えませんか?]
「……どう思う?」
「どう思うって……怪しいの一言に尽きるな」
「だよなぁ……」
届いたメールを晴矢と一緒に見ながらお互いの考えが一致しているのを確認する。
もし今日がいつも通りの何事もない1日だったら、これ告白されんじゃね?とか思いながら風の如く水仙さんのもとに駆けつけただろう。
しかし、今日は晴矢からの消えたメールの件があったためか、怪しいと思ってしまう。
「とりあえず返信してみようと思う」
「お前本気で言ってるのか? 小学校を卒業してから今までの間に水仙さんと連絡をとったことは一度もなかったんだろ?」
「そうだけどさ……」
「だったら絶対におかしいだろ。やめとけって」
「でも、もし本当に水仙さんからのメールだったら返信しなかったら嫌われるかもしれないだろうが」
「充電が切れて見えてなかったとかアドレス登録してないメールは全部迷惑メール行きだから見てないとか色々言い訳はできる。どうせ明日の高校で会えるんだからその時に伝えたかったことを聞けばいい」
「どうしても今日伝えないといけないことだったらどうするんだよ」
「今日限定だけでしか伝えられないことならお前が期待してるものじゃないから安心しろ」
「な、なんだよ。僕が期待してるものって……」
「どうせお前は告白されることを期待しているんだろ?」
「うっ……」
「やっぱりな。でも、残念ながらそれはねぇよ。クリスマスやらバレンタインみたいな特別なイベントが今日だったならその可能性はあったが、今日は特に何もねぇ。もし告白だったとしても、それこそ明日会えるんだからその時にされるだろ。だから今日は大人しく家に帰れよ」
「確かにそうだけども……」
僕は晴矢の言葉に言い返せなくなり口ごもってしまう。
正直のところ、このメールが本当に水仙さんから送られてきたなんて7割方思っていない。
しかし、もしこれがさっきの晴矢からのメールのようなものだったとしても、晴矢とこうして会えていることから、もしかしたら水仙さんにも会えるかもという希望的観測が心のどこかにあった。
「はぁ……まぁ、俺には一切関係ない事だからお前の好きなようにやれよ」
僕が考えていた事を晴矢に見透かされてしまったのか、晴矢は溜息を吐いたあとにそう言った。
晴矢から確認も取れたことだし、僕は『どこに行けばいい?』と送る。
返信はすぐにきた。
「中央商店街の南口……か。じゃあ、今から行ってくる」
「俺もついていこうか?」
「もう暗いし、もし本当に僕に伝えたいことがあったとしたら晴矢がいたら言いにくいかもしれないからいいよ」
晴矢はそれを聞き少し寂しそうな顔をした。
「そうか。もし騙されていて後から泣きついてきても励まさないからな」
「なんてことを言うんだ。もし騙されてたとしても絶対にお前には泣きつかないからな」
「お前は自覚がないかもしれないが、お前は結構精神的に打たれ弱いんだぜ」
「あぁ、そうかいそうかい。もし泣きつくにしても、違う人に泣きつくから安心してろ」
僕たちは冗談を交えあい、笑いながら駐輪場に向かう。
「じゃあ、行くからな。絶対に付いてくるなよ」
「いかねぇよ。全く……気を付けていけよ。また明日な」
晴矢は先に自転車に乗り、僕へと手を振り走り出す。
「おう、また明日」
晴矢の姿が見えなくなるまで僕も手を振ってから自転車へと跨る。
またメールが消えるかもしれないという不安と好きな人に会えるかもという希望を抱えながら公園を後にした。
商店街の南口には10分で着いた。
まだ18時30分ぐらいだからか、沢山の人が行き来している。
自転車は邪魔になると思い、近くの駅の駐輪場に置いてきた。
今さらになって思うことだが、水仙さんとは小学校の卒業式から一度もあっていないのに、この人混みの中で見つけることができるのだろうか。
まず、そんな状態であるのにメールがきたこと自体がおかしいのだが……。
僕は不安になり、メールを確認するためにスマホを開いた。
「もしかして、りっくん?」
ちょうどスマホを開いたタイミングで後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこには驚いている顔をした女性がいた。
「水仙さん……?」
僕のその言葉に、目の前の女性は笑顔で頷く。
水仙さんは小学生の時はショートカットだったが、今は髪が伸びロングヘアーになっていた。
それに身長も伸びてるせいだろうか、だいぶ大人びた感じがする。
「やっぱり、りっくんだ。久しぶりだね。何してるの?」
水仙さんの質問に対して、言いたいことはあったが、それは口には出さない。
スマホを確認すると、案の定メールが消えていたからだ。
「えーと……散歩かな。水仙さんは?」
誤魔化すために適当な理由をつける。
「私は買い物の帰りだよ」
水仙さんは両手にある大きな買い物袋を持ち上げながら言った。
「たくさん買ったんだな。おつかいか何か?」
「今日はお父さんとお母さんが帰ってくるのが遅いから私がご飯を作るの」
「そんなに材料を使うのか?」
「安かったから買いだめしちゃってこの量だよ。さすがに一食で全部は使いきらないよ」
水仙さんは笑いながら答える。
僕は一食ぶんだけ買って帰り、余ったもので次の一食を適当に作るようにしてたので、買いだめの発想がなかった。
「それにしても、あっ……すみません」
人の通行量が多いためか水仙さんが人とぶつかりそうになる。
「ここで立ち話してたら邪魔になっちゃうね。もしりっくんが良ければなんだけど、どこか座れる場所で話さない?」
願ってもなかったことにかなりの驚きを感じる。
断る理由は勿論あるわけがない。
「僕は全然大丈夫。水仙さんの方はご飯とか大丈夫?」
「まだまだ時間はあるから私も大丈夫だよ。それじゃあ移動しよっか」
「あ、ちょっと待って」
水仙さんは移動しようとしていたが、僕はそれを制止し、水仙さんにへと手を差し出す。
「荷物を持つよ」
ずっと重そうな2つの買い物袋が気になっていた。
「え? あっ、ありがとう……」
水仙さんはなぜか恥ずかしそうに、僕に片方の荷物を渡す。
「おっ、結構重いな……もう1つは?」
「ありがとう。でも、もう1つは自分で持つよ。じゃあ今度こそ行こうか」
そういうと水仙さんは移動し始めた。
僕もその後に続いて商店街から出る。
何か忘れてる気がするが……まぁ、気のせいだろう。
商店街を出てすぐの細道を2人で歩いていた。
時間が時間なだけに、人は全くいない。
まるで、僕たちだけが今この世界で動いてる、そんな静かさだ。
いや、だいぶ大袈裟すぎか。
まぁ、なんにせよ商店街から出て、一度も水仙さんと会話をしていない。
人が沢山いるところでは何気なく会話ができたが、いざ2人っきりになると気まずさを感じてしまう。
隣にいる水仙さんも同じ気持ちなのだろうか。
そんなことを考えていると水仙さんが口を開いた。
「あと少しで公園に着くからそこで話そうか?」
そういえば目的地をしっかりと決めてないまま、ここまで歩いてきた。
「うん。いいよ」
話せればどこでもいいため僕は了承する。
この近くの公園といったら、さっきまで晴矢と一緒にいた丘の公園と同じくらい何もなかったはず。
丘の公園同様なんとも寂しい公園だ。
「あのさ……ずっと思ってたんだけど、今の私たちって買い物帰りの夫婦みたいだね」
突然の水仙さんの言葉に、僕は何も口に含んでないはずなのに何かを吹き出しそうになる。
え? なにこれ?
どうやって返せばいいの?
しかも、ずっと思ってたってことは、商店街を出てから会話がなかったあの時間ずっとそう思ってたってことか?
いや、落ち着け。
特別な意味などないかもしれない。
隣にいる水仙さんの顔を見てみるが、暗くて顔色がよく見えない。
しかし、若干赤くなってるような気がする。
「もう、何か言ってよ。なんか恥ずかしくなってきたじゃん」
水仙さんは笑いながら言う。
ここは僕もそう思っていたと返すべきなのだろうか。
いや、なんか気持ち悪いな。
いつかそういう関係になれたらいいね。とか?
いや、もうこれにいたっては告白じゃないか。
……告白?
そうだ。
今なら雰囲気もいいし、案外いけるかもしれない。
ここで告白してみるのもありだ。
「あ、あのさ」
「あっ、公園に着いたよ」
言いかけようとしたところで水仙さんの言葉に遮られた。
タイミングが良いのか悪いのかは分からないが、どうやら公園に着いたらしい。
「ベンチがあるから、そこで座って話そうよ」
「あ、あぁ。いいよ」
「そういえば、さっき何か言いかけてなかった」
「え……。あ、いや、別になんでもない。とりあえずベンチがある所にいこうか」
誤魔化しながら他のことに目がいくように促す。
冷静になって考えてみれば、なんてバカなことをしようとしていたのだろう。
晴矢には付き合えなくてもいいから気持ちを伝えたいと言ったものの、やはり出来ることなら付き合うことに越したことはない。
もし今のタイミングで告白していたならば、とんだ勘違い野郎の烙印を押され、これから水仙さんと話す機会がなくなってしまう可能性すらあった。
せっかく同じ高校に通えるようになったのにそれでは意味がない。
「ふぅ。久々に重いものを持ったから肩が痛いや」
水仙さんはベンチに腰を掛け、肩を回しながら言う。
「これを1人で家まで持とうとしてたのか……」
僕も荷物を置き、ベンチに腰を掛ける。
「持てると思ったんだけどなぁ。りっくんがいてくれて助かったよ」
「なんなら家まで運ぶの手伝おうか?」
「それは申し訳ないからいいよ。あと、ここから3分ぐらいで家に着くし」
水仙さんは「あの辺だよ」と言いながら指を指す。
水仙さんとは幼稚園と小学校が一緒だが、家に行ったことはなかった。
まぁ、家に遊びに行く以前の問題で、水仙さんと普通に遊ぶことさえ少なかったんだけどな……。
「そういえば会った時から気になってたんだけど、髪伸ばしてるんだな」
水仙さんは小学生の頃は肩ぐらいまでの長さだったが、今は背中の中間くらいまで伸びている。
「うん。中学生の時に髪を伸ばしたら大人っぽく見えるよーって友達に言われて。私背は高くないし、顔も童顔って言われるから少しでも大人っぽく見えるようにしたくて」
「そうか? 今の長さも大人っぽくていいと思うけど、ショートの時も可愛くて良かったと思うぞ」
水仙さんの顔がみるみるうちに赤くなる。
「ほ、本当に?」
「うん。本当本当」
「ちなみにりっくん的にはどっちがいいと思う?」
どっちか……どちらとも可愛いと思うが僕の好みはショートカットだな。
「どっちとも同じくらいいいと思うけど、僕はショートカットが好きかな」
「ふーん。そうなんだ……」
水仙さんは髪の毛を弄りながら、なぜか不満げな顔をしている。
今のは自分の気持ちに嘘をついてでも、今の髪型かな、と言うべきだったのだろうか。
「私も会った時から気になってたんだけど、りっくんは身長が高くなったね。小学生の頃は私よりも小さかったのに」
「中学生の成長期でだいぶ伸びたから」
「いいなぁ。何センチなの?」
「170センチぐらい。水仙さんは?」
「私は160センチくらい……。うぅ、りっくんは一番小さかったのにー」
水仙さんは悔しそうな表情をしながら足をぱたつかせて言った。
今思えば、小学生の頃は僕が学年で一番小さかった。
成長期って凄いなぁとしみじみと思う。
「水仙さんもこれから伸びるよ」
まぁ、伸びなくても今のサイズで充分可愛いのだが。
「え……い、今可愛いって……」
またも、水仙さんの顔が赤色に染まる。
「もしかして声に出てた?」
水仙さんは静かにこくりと頷く。
2人の間に気まずい静寂が流れる。
「あ、あのもう1つ気になったことがあるんだけど」
「あ、はい。な、なんでしょう?」
「なんで私のことを水仙さんって呼ぶの? 昔は瑞樹ちゃんだったのに」
「え……。あ、あー……なんか恥ずかしいから……です……」
わかる人にはわかるかも知れないが、思春期真っ只中の僕は女性を下の名前で呼ぶのが恥ずかしいのだ。
ただでさえそうなのに、好きな人の名前だと尚更恥ずい……。
しかも、水仙さんにいたっては3年も会ってなかったわけだし……そりゃあ呼び方が変わっても不思議ではないというかなんというか……。
「恥ずかしいって、何が恥ずかしいの?」
「いや、なんかその……恥ずかしもんは恥ずかしいとしか……あと、僕なんかに下の名前で呼ばれるの嫌じゃない?」
「全然嫌じゃないよ。嬉しいぐらいだよ」
「え?」
「あっ……」
またしても、静寂が流れる。
特別な意味などないのかも知れないが、やはり少し意識してしまうところがある。
「 それに、恥ずかしいという理由以外で下の名前で呼ぶのに抵抗がある理由はもう1つあってさ……」
僕は頰を人差し指で掻きながら目線を水仙さんから逸らしながら言った。
「なんか下の名前で呼びあうのは付き合ってる人たちがしてるイメージで……」
「……」
またしても沈黙。
変な空気を変えようと言ってみたものの逆効果だった。
お互いが話せないでいると、まるで神の救いの手のように水仙さんのスマホから着信音が鳴った。
「あっ、お父さんだ。ごめん、少し通話してくる」
水仙さんは少し離れたところで通話する。
そして数秘経ったのち、通話が終わったのかこっちに駆け足で戻ってきた。
「お父さんがもう帰ってきたみたいだから帰らないと」
水仙さんはそう言いながら2つの買い物袋を持つ。
「今日はありがとう。楽しかった」
「私も久々に話せて楽しかった。ありがとうね」
水仙さんはそう言うと公園の出口に向かって歩き出す。
しかし、数歩歩いたところで立ち止まり、こちらへと振り返った。
「そういえば、りっくんはどこの高校に行くの?」
水仙さんにそう尋ねられて、僕は水仙さんと高校が一緒だということを知っていたが、あっちは何も知らないって事を今更ながらに思い出した。
「僕は清流高校だよ」
「え⁈ 私もだよ⁈ そっか……同じクラスになれたらいいね」
水仙さんは嬉しそうに微笑みながら言った。
「うん。そうだな」
僕も笑顔で返す。
「じゃあまた明日ね」
水仙さんは手を振りそう言うと、公園から駆け足で去っていった。
水仙さんの姿が見えなくなってから、ふと公園の時計を見ると19時30分になっていた。
僕もそろそろ帰ろうかな。
そう思いながら公園の出口に向かう。
よく考えると今日は不思議な1日だった。
しかし、幸せな1日でもあった。
晴矢と会えたし水仙さんとも話すことができたから。
そんなことを考えながら歩いていると、公園の出口の門の所に人がいることに気付いた。
肌の色と髪の毛は白色で髪型は後ろを1つ結び、身長は水仙さんよりも低く、まだ肌寒いというのにワンピースを着ている女性がそこにいた。
いや、女性というより少女というべきだろうか。
髪が真っ白なためか、それともこんな季節にワンピースを着ているためか、彼女から異様な雰囲気を感じる。
しかしそれにしても、リアルで真っ白な髪って違和感が凄いな……。
そんなことを考えていると、その少女と目が合った。
彼女は僕の方に向かって歩き、僕の目の前に立ち止まり、そしてこう言った。
「貴方は明日死にます」
お久しぶりです。水仙 瑞稀です。
いきなりのことで大変驚いていることだと思いますが、どうしても伝えたいことがあるので今から会えませんか?]
「……どう思う?」
「どう思うって……怪しいの一言に尽きるな」
「だよなぁ……」
届いたメールを晴矢と一緒に見ながらお互いの考えが一致しているのを確認する。
もし今日がいつも通りの何事もない1日だったら、これ告白されんじゃね?とか思いながら風の如く水仙さんのもとに駆けつけただろう。
しかし、今日は晴矢からの消えたメールの件があったためか、怪しいと思ってしまう。
「とりあえず返信してみようと思う」
「お前本気で言ってるのか? 小学校を卒業してから今までの間に水仙さんと連絡をとったことは一度もなかったんだろ?」
「そうだけどさ……」
「だったら絶対におかしいだろ。やめとけって」
「でも、もし本当に水仙さんからのメールだったら返信しなかったら嫌われるかもしれないだろうが」
「充電が切れて見えてなかったとかアドレス登録してないメールは全部迷惑メール行きだから見てないとか色々言い訳はできる。どうせ明日の高校で会えるんだからその時に伝えたかったことを聞けばいい」
「どうしても今日伝えないといけないことだったらどうするんだよ」
「今日限定だけでしか伝えられないことならお前が期待してるものじゃないから安心しろ」
「な、なんだよ。僕が期待してるものって……」
「どうせお前は告白されることを期待しているんだろ?」
「うっ……」
「やっぱりな。でも、残念ながらそれはねぇよ。クリスマスやらバレンタインみたいな特別なイベントが今日だったならその可能性はあったが、今日は特に何もねぇ。もし告白だったとしても、それこそ明日会えるんだからその時にされるだろ。だから今日は大人しく家に帰れよ」
「確かにそうだけども……」
僕は晴矢の言葉に言い返せなくなり口ごもってしまう。
正直のところ、このメールが本当に水仙さんから送られてきたなんて7割方思っていない。
しかし、もしこれがさっきの晴矢からのメールのようなものだったとしても、晴矢とこうして会えていることから、もしかしたら水仙さんにも会えるかもという希望的観測が心のどこかにあった。
「はぁ……まぁ、俺には一切関係ない事だからお前の好きなようにやれよ」
僕が考えていた事を晴矢に見透かされてしまったのか、晴矢は溜息を吐いたあとにそう言った。
晴矢から確認も取れたことだし、僕は『どこに行けばいい?』と送る。
返信はすぐにきた。
「中央商店街の南口……か。じゃあ、今から行ってくる」
「俺もついていこうか?」
「もう暗いし、もし本当に僕に伝えたいことがあったとしたら晴矢がいたら言いにくいかもしれないからいいよ」
晴矢はそれを聞き少し寂しそうな顔をした。
「そうか。もし騙されていて後から泣きついてきても励まさないからな」
「なんてことを言うんだ。もし騙されてたとしても絶対にお前には泣きつかないからな」
「お前は自覚がないかもしれないが、お前は結構精神的に打たれ弱いんだぜ」
「あぁ、そうかいそうかい。もし泣きつくにしても、違う人に泣きつくから安心してろ」
僕たちは冗談を交えあい、笑いながら駐輪場に向かう。
「じゃあ、行くからな。絶対に付いてくるなよ」
「いかねぇよ。全く……気を付けていけよ。また明日な」
晴矢は先に自転車に乗り、僕へと手を振り走り出す。
「おう、また明日」
晴矢の姿が見えなくなるまで僕も手を振ってから自転車へと跨る。
またメールが消えるかもしれないという不安と好きな人に会えるかもという希望を抱えながら公園を後にした。
商店街の南口には10分で着いた。
まだ18時30分ぐらいだからか、沢山の人が行き来している。
自転車は邪魔になると思い、近くの駅の駐輪場に置いてきた。
今さらになって思うことだが、水仙さんとは小学校の卒業式から一度もあっていないのに、この人混みの中で見つけることができるのだろうか。
まず、そんな状態であるのにメールがきたこと自体がおかしいのだが……。
僕は不安になり、メールを確認するためにスマホを開いた。
「もしかして、りっくん?」
ちょうどスマホを開いたタイミングで後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこには驚いている顔をした女性がいた。
「水仙さん……?」
僕のその言葉に、目の前の女性は笑顔で頷く。
水仙さんは小学生の時はショートカットだったが、今は髪が伸びロングヘアーになっていた。
それに身長も伸びてるせいだろうか、だいぶ大人びた感じがする。
「やっぱり、りっくんだ。久しぶりだね。何してるの?」
水仙さんの質問に対して、言いたいことはあったが、それは口には出さない。
スマホを確認すると、案の定メールが消えていたからだ。
「えーと……散歩かな。水仙さんは?」
誤魔化すために適当な理由をつける。
「私は買い物の帰りだよ」
水仙さんは両手にある大きな買い物袋を持ち上げながら言った。
「たくさん買ったんだな。おつかいか何か?」
「今日はお父さんとお母さんが帰ってくるのが遅いから私がご飯を作るの」
「そんなに材料を使うのか?」
「安かったから買いだめしちゃってこの量だよ。さすがに一食で全部は使いきらないよ」
水仙さんは笑いながら答える。
僕は一食ぶんだけ買って帰り、余ったもので次の一食を適当に作るようにしてたので、買いだめの発想がなかった。
「それにしても、あっ……すみません」
人の通行量が多いためか水仙さんが人とぶつかりそうになる。
「ここで立ち話してたら邪魔になっちゃうね。もしりっくんが良ければなんだけど、どこか座れる場所で話さない?」
願ってもなかったことにかなりの驚きを感じる。
断る理由は勿論あるわけがない。
「僕は全然大丈夫。水仙さんの方はご飯とか大丈夫?」
「まだまだ時間はあるから私も大丈夫だよ。それじゃあ移動しよっか」
「あ、ちょっと待って」
水仙さんは移動しようとしていたが、僕はそれを制止し、水仙さんにへと手を差し出す。
「荷物を持つよ」
ずっと重そうな2つの買い物袋が気になっていた。
「え? あっ、ありがとう……」
水仙さんはなぜか恥ずかしそうに、僕に片方の荷物を渡す。
「おっ、結構重いな……もう1つは?」
「ありがとう。でも、もう1つは自分で持つよ。じゃあ今度こそ行こうか」
そういうと水仙さんは移動し始めた。
僕もその後に続いて商店街から出る。
何か忘れてる気がするが……まぁ、気のせいだろう。
商店街を出てすぐの細道を2人で歩いていた。
時間が時間なだけに、人は全くいない。
まるで、僕たちだけが今この世界で動いてる、そんな静かさだ。
いや、だいぶ大袈裟すぎか。
まぁ、なんにせよ商店街から出て、一度も水仙さんと会話をしていない。
人が沢山いるところでは何気なく会話ができたが、いざ2人っきりになると気まずさを感じてしまう。
隣にいる水仙さんも同じ気持ちなのだろうか。
そんなことを考えていると水仙さんが口を開いた。
「あと少しで公園に着くからそこで話そうか?」
そういえば目的地をしっかりと決めてないまま、ここまで歩いてきた。
「うん。いいよ」
話せればどこでもいいため僕は了承する。
この近くの公園といったら、さっきまで晴矢と一緒にいた丘の公園と同じくらい何もなかったはず。
丘の公園同様なんとも寂しい公園だ。
「あのさ……ずっと思ってたんだけど、今の私たちって買い物帰りの夫婦みたいだね」
突然の水仙さんの言葉に、僕は何も口に含んでないはずなのに何かを吹き出しそうになる。
え? なにこれ?
どうやって返せばいいの?
しかも、ずっと思ってたってことは、商店街を出てから会話がなかったあの時間ずっとそう思ってたってことか?
いや、落ち着け。
特別な意味などないかもしれない。
隣にいる水仙さんの顔を見てみるが、暗くて顔色がよく見えない。
しかし、若干赤くなってるような気がする。
「もう、何か言ってよ。なんか恥ずかしくなってきたじゃん」
水仙さんは笑いながら言う。
ここは僕もそう思っていたと返すべきなのだろうか。
いや、なんか気持ち悪いな。
いつかそういう関係になれたらいいね。とか?
いや、もうこれにいたっては告白じゃないか。
……告白?
そうだ。
今なら雰囲気もいいし、案外いけるかもしれない。
ここで告白してみるのもありだ。
「あ、あのさ」
「あっ、公園に着いたよ」
言いかけようとしたところで水仙さんの言葉に遮られた。
タイミングが良いのか悪いのかは分からないが、どうやら公園に着いたらしい。
「ベンチがあるから、そこで座って話そうよ」
「あ、あぁ。いいよ」
「そういえば、さっき何か言いかけてなかった」
「え……。あ、いや、別になんでもない。とりあえずベンチがある所にいこうか」
誤魔化しながら他のことに目がいくように促す。
冷静になって考えてみれば、なんてバカなことをしようとしていたのだろう。
晴矢には付き合えなくてもいいから気持ちを伝えたいと言ったものの、やはり出来ることなら付き合うことに越したことはない。
もし今のタイミングで告白していたならば、とんだ勘違い野郎の烙印を押され、これから水仙さんと話す機会がなくなってしまう可能性すらあった。
せっかく同じ高校に通えるようになったのにそれでは意味がない。
「ふぅ。久々に重いものを持ったから肩が痛いや」
水仙さんはベンチに腰を掛け、肩を回しながら言う。
「これを1人で家まで持とうとしてたのか……」
僕も荷物を置き、ベンチに腰を掛ける。
「持てると思ったんだけどなぁ。りっくんがいてくれて助かったよ」
「なんなら家まで運ぶの手伝おうか?」
「それは申し訳ないからいいよ。あと、ここから3分ぐらいで家に着くし」
水仙さんは「あの辺だよ」と言いながら指を指す。
水仙さんとは幼稚園と小学校が一緒だが、家に行ったことはなかった。
まぁ、家に遊びに行く以前の問題で、水仙さんと普通に遊ぶことさえ少なかったんだけどな……。
「そういえば会った時から気になってたんだけど、髪伸ばしてるんだな」
水仙さんは小学生の頃は肩ぐらいまでの長さだったが、今は背中の中間くらいまで伸びている。
「うん。中学生の時に髪を伸ばしたら大人っぽく見えるよーって友達に言われて。私背は高くないし、顔も童顔って言われるから少しでも大人っぽく見えるようにしたくて」
「そうか? 今の長さも大人っぽくていいと思うけど、ショートの時も可愛くて良かったと思うぞ」
水仙さんの顔がみるみるうちに赤くなる。
「ほ、本当に?」
「うん。本当本当」
「ちなみにりっくん的にはどっちがいいと思う?」
どっちか……どちらとも可愛いと思うが僕の好みはショートカットだな。
「どっちとも同じくらいいいと思うけど、僕はショートカットが好きかな」
「ふーん。そうなんだ……」
水仙さんは髪の毛を弄りながら、なぜか不満げな顔をしている。
今のは自分の気持ちに嘘をついてでも、今の髪型かな、と言うべきだったのだろうか。
「私も会った時から気になってたんだけど、りっくんは身長が高くなったね。小学生の頃は私よりも小さかったのに」
「中学生の成長期でだいぶ伸びたから」
「いいなぁ。何センチなの?」
「170センチぐらい。水仙さんは?」
「私は160センチくらい……。うぅ、りっくんは一番小さかったのにー」
水仙さんは悔しそうな表情をしながら足をぱたつかせて言った。
今思えば、小学生の頃は僕が学年で一番小さかった。
成長期って凄いなぁとしみじみと思う。
「水仙さんもこれから伸びるよ」
まぁ、伸びなくても今のサイズで充分可愛いのだが。
「え……い、今可愛いって……」
またも、水仙さんの顔が赤色に染まる。
「もしかして声に出てた?」
水仙さんは静かにこくりと頷く。
2人の間に気まずい静寂が流れる。
「あ、あのもう1つ気になったことがあるんだけど」
「あ、はい。な、なんでしょう?」
「なんで私のことを水仙さんって呼ぶの? 昔は瑞樹ちゃんだったのに」
「え……。あ、あー……なんか恥ずかしいから……です……」
わかる人にはわかるかも知れないが、思春期真っ只中の僕は女性を下の名前で呼ぶのが恥ずかしいのだ。
ただでさえそうなのに、好きな人の名前だと尚更恥ずい……。
しかも、水仙さんにいたっては3年も会ってなかったわけだし……そりゃあ呼び方が変わっても不思議ではないというかなんというか……。
「恥ずかしいって、何が恥ずかしいの?」
「いや、なんかその……恥ずかしもんは恥ずかしいとしか……あと、僕なんかに下の名前で呼ばれるの嫌じゃない?」
「全然嫌じゃないよ。嬉しいぐらいだよ」
「え?」
「あっ……」
またしても、静寂が流れる。
特別な意味などないのかも知れないが、やはり少し意識してしまうところがある。
「 それに、恥ずかしいという理由以外で下の名前で呼ぶのに抵抗がある理由はもう1つあってさ……」
僕は頰を人差し指で掻きながら目線を水仙さんから逸らしながら言った。
「なんか下の名前で呼びあうのは付き合ってる人たちがしてるイメージで……」
「……」
またしても沈黙。
変な空気を変えようと言ってみたものの逆効果だった。
お互いが話せないでいると、まるで神の救いの手のように水仙さんのスマホから着信音が鳴った。
「あっ、お父さんだ。ごめん、少し通話してくる」
水仙さんは少し離れたところで通話する。
そして数秘経ったのち、通話が終わったのかこっちに駆け足で戻ってきた。
「お父さんがもう帰ってきたみたいだから帰らないと」
水仙さんはそう言いながら2つの買い物袋を持つ。
「今日はありがとう。楽しかった」
「私も久々に話せて楽しかった。ありがとうね」
水仙さんはそう言うと公園の出口に向かって歩き出す。
しかし、数歩歩いたところで立ち止まり、こちらへと振り返った。
「そういえば、りっくんはどこの高校に行くの?」
水仙さんにそう尋ねられて、僕は水仙さんと高校が一緒だということを知っていたが、あっちは何も知らないって事を今更ながらに思い出した。
「僕は清流高校だよ」
「え⁈ 私もだよ⁈ そっか……同じクラスになれたらいいね」
水仙さんは嬉しそうに微笑みながら言った。
「うん。そうだな」
僕も笑顔で返す。
「じゃあまた明日ね」
水仙さんは手を振りそう言うと、公園から駆け足で去っていった。
水仙さんの姿が見えなくなってから、ふと公園の時計を見ると19時30分になっていた。
僕もそろそろ帰ろうかな。
そう思いながら公園の出口に向かう。
よく考えると今日は不思議な1日だった。
しかし、幸せな1日でもあった。
晴矢と会えたし水仙さんとも話すことができたから。
そんなことを考えながら歩いていると、公園の出口の門の所に人がいることに気付いた。
肌の色と髪の毛は白色で髪型は後ろを1つ結び、身長は水仙さんよりも低く、まだ肌寒いというのにワンピースを着ている女性がそこにいた。
いや、女性というより少女というべきだろうか。
髪が真っ白なためか、それともこんな季節にワンピースを着ているためか、彼女から異様な雰囲気を感じる。
しかしそれにしても、リアルで真っ白な髪って違和感が凄いな……。
そんなことを考えていると、その少女と目が合った。
彼女は僕の方に向かって歩き、僕の目の前に立ち止まり、そしてこう言った。
「貴方は明日死にます」
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