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4月編
9話 かっこ悪くなんかない
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「美味しいですっ! これが炒飯というものですか!」
橘は僕が作った卵とネギしか入ってない炒飯を頬張りながらキラキラした目で言う。
仕送りがまだのためと冷蔵庫には卵とネギしかなかったためにこんな寂しい炒飯になってしまった。
「まさか、1円も持っていないとはな……」
橘は金を一切持ってなかった。
僕も人のことは言えず、現在お財布の中に2円しか入っていなかったため、結局僕の家で食べることにした。
「いやぁ、人ってご飯を食べないとだめでしたね。私たちは食事と睡眠はしなくてもいいので、すっかり忘れてました」
炒飯を食べ終わった橘は口を拭きながら笑顔で言う。
「まさか、昨日から何も食ってなかったのか?」
「う~ん、人の体に慣れるために一昨日から受肉しているので、一昨日からになりますね」
橘は平然と言っているが、育ち盛りの女性の体としては、かなりキツかったのではないだろうか。
「一旦、神たちが住む世界とかに戻ってお金とかを取りに帰ることはできないのか?」
「それができれば、すでにやっていますよ。どうやら陸さんが死ぬまで戻れそうにないみたいです」
僕が死ぬまでってことは、最長で1年は帰れないのか。
「なんか、ごめんな……」
気が付けば声に出ていた。
「いきなりどうしたんですか?」
橘はいきなりの謝罪に少し戸惑っている。
「いや。お前にも家族とかいるだろうし、僕のために1年も付き合わせることになるのは、やっぱり罪悪感が……」
「いいんですよ。昨日も言いましたが、私はあっちでも1人なので。母は私が産まれてすぐに亡くなり、父と2人で暮らしていたのですが、父も数年前に亡くなりましたし」
昨日の橘の言葉を思い出す。
あれにはもっと重い意味が含まれていたのか……。
「それに、今は1人じゃないです。今は陸さんがいますから」
橘は僕の目をじっと見据えて言う。
その瞳は蒼く透き通っていて、とてもとても綺麗な色だった。
「なるべく、お前が寂しくならないように努力してみるよ。困ったことがあれば頼ってくれ。力になれるかはわからないけど」
それが今の僕が橘にできる唯一のことだろう。
橘の顔がパアッと明るくなる。
「ありがとうございます。あ、あの、さっそくで申し訳無いのですが……」
どうしたのだろうか?
橘は口をもごもごさせて何か言いづらそうにしている。
「その…………せんか?」
なんだろうか。何か聞き取れたような気がしたが、多分気のせいだと自分に言い聞かせる。
「もう1回言ってくれ」
多分気のせい……
「この家に住まわしてくれませんか?」
……はい?
「はぁ~。やっぱり炒飯って美味しいです」
橘は本日2度目の炒飯を幸せそうに口に運んでいる。
時間は夜の8時で、夜ご飯にあたるものだ。
まさか、学校に行くための手続きやらはしっかりとあっちで済ましてるのに、住む家やお金のことについて何もしてなかったのには驚きしかない。
一度は住まわせることを拒否したものの、聞く話によると初めて会った公園で二泊しており、さすがに年頃の女の子がそれは危ないと思い、住まわせることを仕方なく許可した。
住まわせることを許可すると橘は嬉しそうに「荷物を取ってきます」と言いながら公園に行った。
帰ってきた橘が僕の家に持って帰ってきたのは、初めて会った時に着てたワンピースと制服と体操服2着だった。
それを見た時は、本当に呆れてしまい、僕は何も言うことが出来なかった。
僕は自分が食べた分と橘が食べた分のお皿を片付ける。
橘は満足気な顔をしながらソファに座り、テレビを眺めていた。
「じゃあ、僕は部屋に戻るから、寝る時はリビングの電気とテレビを切ってから、教えた部屋で寝るんだぞ」
そう言うと、橘はテレビを熱心に見ながら数回頷く。
僕はそれを確認すると、自分の部屋がある2階に上がった。
僕はベッドの上でうとうとしていると、ドアがノックされる音が聞こえた。
部屋の電気をつける。
時計を見ると、夜の11時だった。
「どうぞー」
「失礼します」と橘は部屋に入ってくる。
その手には布団が抱えられていた。
「……パードゥン?」
「どういう意味ですかそれ?」
橘は僕の部屋に布団を敷く。
「いや! ちょっと待て!」
橘はビクッとし、僕の方を向く。
「いきなり大きな声出さないでくださいよ。びっくりした~」
「こっちがびっくりだわ! 何普通に当たり前のごとく布団を敷いてんだ⁈」
橘は指をもぞもぞさせ、僕から目をそらす。
まさかこいつ……
「橘……もしかして1人で寝るのが怖いのか?」
「ち、違います! た、ただ、初めて誰かと寝れるのなら、寝たいなと思っただけです! 何回も言いますけど、ずっと1人だったので……」
はぁ……それなら仕方ないな……ってなるか!
「あのな、よく考えてみろよ? 男と女が一つ屋根の下、同じ部屋で寝たらどうなると思う?」
橘は少し考え、顔をボッと真っ赤にさせる。
「な? 早く部屋に戻って寝ろ」
「り、陸さんはそんなことしないって信じてますから……それに、まず私の力でそんなことできませんし、大丈夫ですよ」
そういえば、そうだった。
僕は橘に害を与えるような事は出来ないんだった。
もし、これで本当に橘を襲う気があったなら、生殺し状態だな。
ん?
「昼間は頭を撫でることが出来たが、そういうエロい目的で体に触れることはアウトなのか?」
「私がアウトだと思ったらアウトなのです」
なんだその、俺がルールだ、みたいなの……。
「じゃあ、頭を撫でるのは橘的にアウトじゃなかったってことか?」
僕はニマニマしながら橘を見つめる。
見つめていたら、顔に枕を投げ込まれた。
「もう、さっさと寝ましょう。明日も学校なんですよ」
そう言うと橘は敷いた布団に潜り込む。
了承はしてないのだが……まぁ、いっか。
僕は部屋の電気を消しベッドに入る。
「……私、今日すっごく安心したんです」
数十秒の静寂のあと、橘が口を開いた。
「なんで? 僕がなんだかんだ橘のことを信じていたからか?」
「それもありますが、男の子を助けたことに、です。私は陸さんに男の子を庇って死ぬと伝えただけで、場所やどのように助けたかなんて伝えてなかったのに、死ぬ可能性がある中で陸さんは男の子を助けようとした」
「……」
「他人を助けないようにしていても、陸さんはやっぱり陸さんであることに変わりはないことに安心しました」
「……あの子は本当だったら生きるはずだったんだろ? 僕が生きてるのにあの子が死んだら、なんか後味が悪いから……だから助けただけだ」
ふふっ、と橘が笑う声が聞こえた。
「明日は学校なんだから早く寝るぞ」
今度は僕が誤魔化す番だった。
「ええ、そうですね。おやすみなさい」
「おやすみ」
僕は挨拶を済ませ瞼を閉じる。
そして、そのまま眠りの中へ落ちていった。
次の日、僕は橘と一緒に学校に登校していた。
まだ、学校の位置がよくわかってないと橘が言うから登校しているのだが、こんなところを誰かに見られたら誤解されかねないので、数メートル先を僕が歩いている。
「陸さん、少し待ってください」
名前を呼ばれ後ろを振り向くと、橘が狭い通りを指差していた。
そこまで行き、通りの方を見ると4人の男たちがいた。
1人は僕と同じ制服を着ていて、眼鏡をかけている少し小太りな男。
そして、そいつを囲むように、僕たちと違う制服を着た、金、青、赤と派手な髪色をした3人の男たち。
なんとも漫画でよくありそうなカツアゲの現場だった。
「なにやら揉め事のようです。お金を貸せやらどうのこうの言ってるのが聞こえました」
「あぁ、絶対にカツアゲだな」
「カツアゲ? 美味しそうな響きですね。それを買うためにお金が必要と言うことですか?」
「違う。人のお金を脅して取る悪いことだ」
「な! 強盗と同じじゃないですか! 助けないと!」
橘は狭い通りに入っていこうとするが、それを急いで止める。
「バカ。助けに行っても後悔するだけだぞ。こういうのは無視した方がいい。学校にも遅れるかもしれないし」
「学校にはまだまだ間に合います。早く助けないと」
橘は僕の制止を聞こうとはしない。
まぁ、橘の力があれば3人の不良ぐらいどうにでもなるか。
僕は橘の肩から手を離す。
「? 何してるんですか?」
「いや、何って……僕はここで待ってるから」
「何を言ってるのですか!陸さんが助けるのです」
「は? いや、お前だけの力でどうにかなるだろ?」
「私は神の使いなので、神に関与している陸さん以外の人に危害を加えることはできません。それに、女の子1人に助けに行かせるとか恥ずかしくないのですか!」
……恥ずかしいと言われれば恥ずかしい行為なのかもしれない。
しかし僕はもう……。
「僕は他人を助けない。どうせ後悔するだけだ。痛い思いまでして、なぜバカをみる必要がある」
「あ~、もう!なんで命を懸けて人を救えるのに、命がかからないことで救おうとしないのですか!」
「それは死んだ僕であって、今の僕ではない。それに人を救ったっていいことなんてなに一つもない」
「いいことならいつかはあります!神様はいつも見てるのですから!だから、ね?」
神様がいることは今なら信じている。
しかし、見ていても神は人間に関与してはいけないのだろ?
そんなの傍観者と一緒だ。
その時、ゴッと鈍い音がした。
通りを見ると小太りな男が倒れている。
橘の方を見ると、涙目で唇を噛み締めながら僕を睨みつけていた。
「はぁ……分かったよ。行ってくる。橘はここで待ってろ」
僕は狭い通りに入る。
「はいはい。待て待て。こんなところでこんなことをしてないで、さっさと学校に行こうぜ」
僕はそう言いながら4人に近づく。
「あぁ?なんだお前は?この豚のお友達か?」
金髪が僕を見ながら足元に倒れている小太りな男を指差す。
足元にいる小太りな男は苦しそうにお腹を抱えている。
「あ~、そいつのことは全く知らないな。でも、同じ制服だったからつい」
「なぁ、同じ学校ついでに聞いてくれよ。こいつお金を貸してくれって一生懸命頼んでるのに貸してくれないんだよなぁ」
赤髪が僕の肩に手を回す。
よく見たらこいつ唇にまでリングつけているが、学校の校則は大丈夫なのだろうか?
「お前がさ、俺たちにお金を貸してくれね?」
赤髪が僕の耳元で囁く。
「何円必要なんだ?」
「3万円かなぁ」
3万円か……。
僕は笑顔で答える。
「利子をつけて返してくれるならいいよ。1日3割り増しで」
フッ、と赤髪が鼻で笑う。
「ふざけんなよ! このクソ野郎がぁ!」
赤髪はそういうと僕の腹に膝を打ち込んできた。
腹に衝撃が走り、僕はその場に倒れる。息ができない。
金髪が倒れている僕の襟元を引っ張りあげる。
「なんでお前はここに来た? ヒーロー気取りか?」
僕はそのまま頰を殴られ壁に激突する。
口の中に鉄の味が広がる。
気がつけば倒れていた小太りな男はいなくなっていた。
「あーあっ。まったく、1人逃げられちゃったよ。どうしてくれんだ?」
赤髪が何か言ってるが、僕はまだ息が苦しく何も言えない。
「お?財布持ってんじゃん」
青髪が僕の鞄から財布を取り出しながら言う。
「仕方ねぇからこれでかんべ……チッ!こいつ2円しか持ってねぇ!」
「ふざけんな!」と青髪は僕の体を蹴る。
「あーあ。しらけちまったなぁ……本当にどうするかなぁ!」
再び金髪が僕に蹴りを入れてきた。
僕の口の端から血が流れる。
そのあと、僕は無抵抗なまま何度も蹴られ殴られを繰り返され、数分後に飽きたのか3人の不良は去っていった。
「陸さん!」
橘が僕の名前を叫びながら近づいてくる。
「どうして抵抗しなかったんですか⁈」
彼女の顔を見ると涙目になっていた。
「どうしてって……僕は人を傷付けるのが嫌だから……僕が受けた痛みを人に与えるのが怖いから……」
人によって耐えられる痛さは違う。
例え僕が耐えられる痛さであっても、人からしたら耐えられない痛さかもしれない。
僕は僕が耐えられない痛さを人に与えるのが怖い。
自分が傷つく事よりも誰かを傷つけてしまう方が怖かった。
「ごめんなさい……。私は手出しできないのに助けようなんか言って……」
橘の目からとうとう涙が溢れだす。
「だ、大丈夫だって! あれくらいならあと1時間は耐えれるし!」
僕は急いで体を起こす。
幸いなことに顔だけは一発しか殴られなかった。
体の方は結構ボロボロだけど……。
「……かっこ悪いだろ? 自分がどんだけやられても、怖くて人を傷付けられない」
橘は勢いよく首を横に振る。
「かっこ悪くなんかないです! かっこ悪くなんか……」
橘は再び涙を零した。
「だいぶ時間が取られちゃったな……遅刻になる前に学校に行こうぜ」
僕は橘の手をとり、狭い通りを抜ける。
「かっこ悪くなんかない」その一言で、僕は少しだけ救われた気がした。
橘は僕が作った卵とネギしか入ってない炒飯を頬張りながらキラキラした目で言う。
仕送りがまだのためと冷蔵庫には卵とネギしかなかったためにこんな寂しい炒飯になってしまった。
「まさか、1円も持っていないとはな……」
橘は金を一切持ってなかった。
僕も人のことは言えず、現在お財布の中に2円しか入っていなかったため、結局僕の家で食べることにした。
「いやぁ、人ってご飯を食べないとだめでしたね。私たちは食事と睡眠はしなくてもいいので、すっかり忘れてました」
炒飯を食べ終わった橘は口を拭きながら笑顔で言う。
「まさか、昨日から何も食ってなかったのか?」
「う~ん、人の体に慣れるために一昨日から受肉しているので、一昨日からになりますね」
橘は平然と言っているが、育ち盛りの女性の体としては、かなりキツかったのではないだろうか。
「一旦、神たちが住む世界とかに戻ってお金とかを取りに帰ることはできないのか?」
「それができれば、すでにやっていますよ。どうやら陸さんが死ぬまで戻れそうにないみたいです」
僕が死ぬまでってことは、最長で1年は帰れないのか。
「なんか、ごめんな……」
気が付けば声に出ていた。
「いきなりどうしたんですか?」
橘はいきなりの謝罪に少し戸惑っている。
「いや。お前にも家族とかいるだろうし、僕のために1年も付き合わせることになるのは、やっぱり罪悪感が……」
「いいんですよ。昨日も言いましたが、私はあっちでも1人なので。母は私が産まれてすぐに亡くなり、父と2人で暮らしていたのですが、父も数年前に亡くなりましたし」
昨日の橘の言葉を思い出す。
あれにはもっと重い意味が含まれていたのか……。
「それに、今は1人じゃないです。今は陸さんがいますから」
橘は僕の目をじっと見据えて言う。
その瞳は蒼く透き通っていて、とてもとても綺麗な色だった。
「なるべく、お前が寂しくならないように努力してみるよ。困ったことがあれば頼ってくれ。力になれるかはわからないけど」
それが今の僕が橘にできる唯一のことだろう。
橘の顔がパアッと明るくなる。
「ありがとうございます。あ、あの、さっそくで申し訳無いのですが……」
どうしたのだろうか?
橘は口をもごもごさせて何か言いづらそうにしている。
「その…………せんか?」
なんだろうか。何か聞き取れたような気がしたが、多分気のせいだと自分に言い聞かせる。
「もう1回言ってくれ」
多分気のせい……
「この家に住まわしてくれませんか?」
……はい?
「はぁ~。やっぱり炒飯って美味しいです」
橘は本日2度目の炒飯を幸せそうに口に運んでいる。
時間は夜の8時で、夜ご飯にあたるものだ。
まさか、学校に行くための手続きやらはしっかりとあっちで済ましてるのに、住む家やお金のことについて何もしてなかったのには驚きしかない。
一度は住まわせることを拒否したものの、聞く話によると初めて会った公園で二泊しており、さすがに年頃の女の子がそれは危ないと思い、住まわせることを仕方なく許可した。
住まわせることを許可すると橘は嬉しそうに「荷物を取ってきます」と言いながら公園に行った。
帰ってきた橘が僕の家に持って帰ってきたのは、初めて会った時に着てたワンピースと制服と体操服2着だった。
それを見た時は、本当に呆れてしまい、僕は何も言うことが出来なかった。
僕は自分が食べた分と橘が食べた分のお皿を片付ける。
橘は満足気な顔をしながらソファに座り、テレビを眺めていた。
「じゃあ、僕は部屋に戻るから、寝る時はリビングの電気とテレビを切ってから、教えた部屋で寝るんだぞ」
そう言うと、橘はテレビを熱心に見ながら数回頷く。
僕はそれを確認すると、自分の部屋がある2階に上がった。
僕はベッドの上でうとうとしていると、ドアがノックされる音が聞こえた。
部屋の電気をつける。
時計を見ると、夜の11時だった。
「どうぞー」
「失礼します」と橘は部屋に入ってくる。
その手には布団が抱えられていた。
「……パードゥン?」
「どういう意味ですかそれ?」
橘は僕の部屋に布団を敷く。
「いや! ちょっと待て!」
橘はビクッとし、僕の方を向く。
「いきなり大きな声出さないでくださいよ。びっくりした~」
「こっちがびっくりだわ! 何普通に当たり前のごとく布団を敷いてんだ⁈」
橘は指をもぞもぞさせ、僕から目をそらす。
まさかこいつ……
「橘……もしかして1人で寝るのが怖いのか?」
「ち、違います! た、ただ、初めて誰かと寝れるのなら、寝たいなと思っただけです! 何回も言いますけど、ずっと1人だったので……」
はぁ……それなら仕方ないな……ってなるか!
「あのな、よく考えてみろよ? 男と女が一つ屋根の下、同じ部屋で寝たらどうなると思う?」
橘は少し考え、顔をボッと真っ赤にさせる。
「な? 早く部屋に戻って寝ろ」
「り、陸さんはそんなことしないって信じてますから……それに、まず私の力でそんなことできませんし、大丈夫ですよ」
そういえば、そうだった。
僕は橘に害を与えるような事は出来ないんだった。
もし、これで本当に橘を襲う気があったなら、生殺し状態だな。
ん?
「昼間は頭を撫でることが出来たが、そういうエロい目的で体に触れることはアウトなのか?」
「私がアウトだと思ったらアウトなのです」
なんだその、俺がルールだ、みたいなの……。
「じゃあ、頭を撫でるのは橘的にアウトじゃなかったってことか?」
僕はニマニマしながら橘を見つめる。
見つめていたら、顔に枕を投げ込まれた。
「もう、さっさと寝ましょう。明日も学校なんですよ」
そう言うと橘は敷いた布団に潜り込む。
了承はしてないのだが……まぁ、いっか。
僕は部屋の電気を消しベッドに入る。
「……私、今日すっごく安心したんです」
数十秒の静寂のあと、橘が口を開いた。
「なんで? 僕がなんだかんだ橘のことを信じていたからか?」
「それもありますが、男の子を助けたことに、です。私は陸さんに男の子を庇って死ぬと伝えただけで、場所やどのように助けたかなんて伝えてなかったのに、死ぬ可能性がある中で陸さんは男の子を助けようとした」
「……」
「他人を助けないようにしていても、陸さんはやっぱり陸さんであることに変わりはないことに安心しました」
「……あの子は本当だったら生きるはずだったんだろ? 僕が生きてるのにあの子が死んだら、なんか後味が悪いから……だから助けただけだ」
ふふっ、と橘が笑う声が聞こえた。
「明日は学校なんだから早く寝るぞ」
今度は僕が誤魔化す番だった。
「ええ、そうですね。おやすみなさい」
「おやすみ」
僕は挨拶を済ませ瞼を閉じる。
そして、そのまま眠りの中へ落ちていった。
次の日、僕は橘と一緒に学校に登校していた。
まだ、学校の位置がよくわかってないと橘が言うから登校しているのだが、こんなところを誰かに見られたら誤解されかねないので、数メートル先を僕が歩いている。
「陸さん、少し待ってください」
名前を呼ばれ後ろを振り向くと、橘が狭い通りを指差していた。
そこまで行き、通りの方を見ると4人の男たちがいた。
1人は僕と同じ制服を着ていて、眼鏡をかけている少し小太りな男。
そして、そいつを囲むように、僕たちと違う制服を着た、金、青、赤と派手な髪色をした3人の男たち。
なんとも漫画でよくありそうなカツアゲの現場だった。
「なにやら揉め事のようです。お金を貸せやらどうのこうの言ってるのが聞こえました」
「あぁ、絶対にカツアゲだな」
「カツアゲ? 美味しそうな響きですね。それを買うためにお金が必要と言うことですか?」
「違う。人のお金を脅して取る悪いことだ」
「な! 強盗と同じじゃないですか! 助けないと!」
橘は狭い通りに入っていこうとするが、それを急いで止める。
「バカ。助けに行っても後悔するだけだぞ。こういうのは無視した方がいい。学校にも遅れるかもしれないし」
「学校にはまだまだ間に合います。早く助けないと」
橘は僕の制止を聞こうとはしない。
まぁ、橘の力があれば3人の不良ぐらいどうにでもなるか。
僕は橘の肩から手を離す。
「? 何してるんですか?」
「いや、何って……僕はここで待ってるから」
「何を言ってるのですか!陸さんが助けるのです」
「は? いや、お前だけの力でどうにかなるだろ?」
「私は神の使いなので、神に関与している陸さん以外の人に危害を加えることはできません。それに、女の子1人に助けに行かせるとか恥ずかしくないのですか!」
……恥ずかしいと言われれば恥ずかしい行為なのかもしれない。
しかし僕はもう……。
「僕は他人を助けない。どうせ後悔するだけだ。痛い思いまでして、なぜバカをみる必要がある」
「あ~、もう!なんで命を懸けて人を救えるのに、命がかからないことで救おうとしないのですか!」
「それは死んだ僕であって、今の僕ではない。それに人を救ったっていいことなんてなに一つもない」
「いいことならいつかはあります!神様はいつも見てるのですから!だから、ね?」
神様がいることは今なら信じている。
しかし、見ていても神は人間に関与してはいけないのだろ?
そんなの傍観者と一緒だ。
その時、ゴッと鈍い音がした。
通りを見ると小太りな男が倒れている。
橘の方を見ると、涙目で唇を噛み締めながら僕を睨みつけていた。
「はぁ……分かったよ。行ってくる。橘はここで待ってろ」
僕は狭い通りに入る。
「はいはい。待て待て。こんなところでこんなことをしてないで、さっさと学校に行こうぜ」
僕はそう言いながら4人に近づく。
「あぁ?なんだお前は?この豚のお友達か?」
金髪が僕を見ながら足元に倒れている小太りな男を指差す。
足元にいる小太りな男は苦しそうにお腹を抱えている。
「あ~、そいつのことは全く知らないな。でも、同じ制服だったからつい」
「なぁ、同じ学校ついでに聞いてくれよ。こいつお金を貸してくれって一生懸命頼んでるのに貸してくれないんだよなぁ」
赤髪が僕の肩に手を回す。
よく見たらこいつ唇にまでリングつけているが、学校の校則は大丈夫なのだろうか?
「お前がさ、俺たちにお金を貸してくれね?」
赤髪が僕の耳元で囁く。
「何円必要なんだ?」
「3万円かなぁ」
3万円か……。
僕は笑顔で答える。
「利子をつけて返してくれるならいいよ。1日3割り増しで」
フッ、と赤髪が鼻で笑う。
「ふざけんなよ! このクソ野郎がぁ!」
赤髪はそういうと僕の腹に膝を打ち込んできた。
腹に衝撃が走り、僕はその場に倒れる。息ができない。
金髪が倒れている僕の襟元を引っ張りあげる。
「なんでお前はここに来た? ヒーロー気取りか?」
僕はそのまま頰を殴られ壁に激突する。
口の中に鉄の味が広がる。
気がつけば倒れていた小太りな男はいなくなっていた。
「あーあっ。まったく、1人逃げられちゃったよ。どうしてくれんだ?」
赤髪が何か言ってるが、僕はまだ息が苦しく何も言えない。
「お?財布持ってんじゃん」
青髪が僕の鞄から財布を取り出しながら言う。
「仕方ねぇからこれでかんべ……チッ!こいつ2円しか持ってねぇ!」
「ふざけんな!」と青髪は僕の体を蹴る。
「あーあ。しらけちまったなぁ……本当にどうするかなぁ!」
再び金髪が僕に蹴りを入れてきた。
僕の口の端から血が流れる。
そのあと、僕は無抵抗なまま何度も蹴られ殴られを繰り返され、数分後に飽きたのか3人の不良は去っていった。
「陸さん!」
橘が僕の名前を叫びながら近づいてくる。
「どうして抵抗しなかったんですか⁈」
彼女の顔を見ると涙目になっていた。
「どうしてって……僕は人を傷付けるのが嫌だから……僕が受けた痛みを人に与えるのが怖いから……」
人によって耐えられる痛さは違う。
例え僕が耐えられる痛さであっても、人からしたら耐えられない痛さかもしれない。
僕は僕が耐えられない痛さを人に与えるのが怖い。
自分が傷つく事よりも誰かを傷つけてしまう方が怖かった。
「ごめんなさい……。私は手出しできないのに助けようなんか言って……」
橘の目からとうとう涙が溢れだす。
「だ、大丈夫だって! あれくらいならあと1時間は耐えれるし!」
僕は急いで体を起こす。
幸いなことに顔だけは一発しか殴られなかった。
体の方は結構ボロボロだけど……。
「……かっこ悪いだろ? 自分がどんだけやられても、怖くて人を傷付けられない」
橘は勢いよく首を横に振る。
「かっこ悪くなんかないです! かっこ悪くなんか……」
橘は再び涙を零した。
「だいぶ時間が取られちゃったな……遅刻になる前に学校に行こうぜ」
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