余命1年から始めた恋物語

米屋 四季

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5月編

23話 カレー作り

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 僕たちは集合時間にギリギリ間に合うかたちで林間学校に戻った。
 どうやら僕たちが最後の方だったらしく、グラウンドには多数の生徒が集まっている。

「ええっと……僕らの班は……」

 僕は水仙さん達を探すために辺りを見回す。

「あっ、いたいた」

 男女混合で集まっている班が殆どのなかで、女子だけ5人集まっているのはかなり目立ち、すぐに見つけることができた。
 どうやらあちらも僕らに気づいたらしく、僕たち3人を見て安堵の表情を見せた。
 しかし、安堵の表情もつかの間、5人の顔色は一気に曇りへと変わる。

「何があったのよ」

 1番最初に声を発したのは日光だった。
 明らかに怒っている。

「特に何も?」

 なぁ、と言いながら晴矢は僕とはっちゃんに同調を求める。
 それに対して僕とはっちゃんはただただ苦笑しながら頷く。

「特に何もなかった風ではなさそうだけど?」

 日光は僕とはっちゃんの反応を見て疑いの目を晴矢へと向ける。
 晴矢はめんどくさそうな顔をしながら僕らを睨む。
 あんなことがあったというのに平然としている方が無理なもんだ、と僕とはっちゃんは無言で晴矢へと抗議する。

「で? 本当は何があったんだい?」

 楓は何か面白いことがあったと察したのだろう。
 ニマニマと笑いながら僕らへと尋ねた。

「あー……。本当は言いたくはなかったんだけどな……」

 晴矢はこちらにちらりと視線を移す。
 その晴矢の目を見て付き合いの長い僕たちは理解した。
 あれは俺に任せろと言っている。
 どうせ僕たちには良い考えなど浮かばない(考えるのが面倒な)ため、晴矢へと任せることに決め、晴矢にアイコンタクトを送った。

「俺と陸が遠くにいた熊に気をとられているうちに翔のやつが他班の女子たちにセクハラしてしまってな。多数の女子達に鬼の形相で追いかけられたんだ」

「は?」

 晴矢の意図を瞬時に理解した。
 勝手な作り話に驚くはっちゃんを見捨て、僕はすぐに晴矢の話に合わせる。

「本当、あれには困ったな」

「はあぁ⁈」

「それは大変だったわね……」

 日光は呆れ顔をはっちゃんへと向ける。
 どうやら日光も信じてくれたらしい。
 まぁ、もともとはっちゃんが追い出された理由が日光にセクハラをしたからそりゃあ信じるよな。

「翔君は昔からそうだもんね」

 水仙さんも苦笑しながらはっちゃんへと言う。
 他の皆も僕らに同情の目を向けてくれた。
 誰もこの作り話を疑わないあたり、流石はっちゃんといったところだろう。

 みんなの視線がはっちゃんへと集められる。

「――――――――はあっ……。2人ともあん時はごめんな」

 はっちゃんは何かを言いたそうだったが、それを飲み込み素直に謝った。
 反論したらまた面倒になることは分かっていたため譲歩してくれたのだろう。
 ここまでくると、なんだか可哀想になってきたので「今度何か奢るから」と僕は他の誰にも聞こえないようにはっちゃんへと耳打ちをした。

「集合時間になりました! 皆さんしっかりと集まっていますか? いない人はいませんか? いない人は手を上げてください……っていなかったら手を上げられないか!」

 理事長のつまらない冗談にグラウンド内に集まっている生徒達全員の頭上に、イラァ、という文字が見えそうなぐらいの空気が一瞬にして出来上がった。
 理事長もこの空気には耐えられなかったらしく決まりの悪そうな顔をしながら、ゴホンと喉の調子を整える。

「さて、今から皆さんにはカレーを作ってもらうわけですが、食材の交換は1班に1つずつ、譲渡は無しでお願いしますね」

 理事長の言葉にざわめきが起こる。
 1番焦っているのは晴矢だ。
 いらない物を全部譲渡する気満々だったからなぁ。

「初めはそんな事一度も言ってなかったじゃねぇか!」

「初めに言っちゃうと食材を集めない可能性があるじゃ無いですか。ちゃんと先生方が見回りをしているので不正はしないこと様にお願いしますね。一応作り方は調理場にありますが、食材が増えすぎてあまり意味が無いと思うので各班おのおの好きなように作ってください。それでは私は余ったプレートを回収してくるので、自由に初めちゃってください」

 理事長はそう言い残すと逃げるように森の中へと消えて行った。

「それじゃあ、まずは各班の集めてきた食材を確認していくからA班からプレートを集めて先生の所へ持って来い」

 そう言いながら門田先生はA班の前へと立つ。

「クソッ……後で押し付けようにも先生の目が……。こうなったらプレートを鞄の底にでも隠すしか――」

 晴矢が言い切るまえに、ピーッという機械音がA班の方からなった。
 門田先生が男子生徒の鞄に棒状の機械をかざしている。
 どうやら門田先生が持っている棒状の機械から鳴ったらしい。

「まだプレートがあるみたいだが?」

 門田先生の言葉に、男子生徒は諦めた様子で鞄の中から2枚のプレートを取り出した。

「おおっ……これは隠したくなるな……。ま、どういう仕組みかはよく知らんが、隠しても無駄だから、お前ら覚悟を決めろよ」

 門田先生は笑いながら男子生徒からプレートに書かれてある食材を確認している。

 あの人もあの人で楽しんでるな……。

「とりあえず私たちも何が集まっているか確認しない?」

 そういえば色々とゴタゴタしたせいで忘れていたが、自分たちがどんな食材を持っているかを把握していなかった。
 日光の言葉に皆頷き、各々が集めてきたプレートを晴矢へと渡す。
 全部のプレートを受け取った晴矢の顔は凄く暗い。

「どうした?」

「いや、まぁ、うん……。とりあえず1つは絶対に交換可能だから、皆でこれは絶対にいらないってのを1つ選ぼうぜ。まぁ、何になるかは決まってはいるんだが……」

 そう言いながら晴矢はみんなが見えるようにプレートを地面へと置いていく。

 玉ねぎ7枚
 人参
 じゃがいも 2枚
 牛肉
 トマト
 ナス
 イカスミ
 チョコ
 唐辛子
 コーヒー豆
 大根
 鶏肉
 赤カブ
 熊の手

 ……うん。これは……。

「じゃあ、せーのでいらない物を皆んなで言うぞ」

 晴矢の言葉に皆んな、顔を見合わせなが頷き合う。

「せーのっ」

「「「「熊の手」」」」

 皆んなの意見は一致した。









「誰も何も交換しやがらねぇ……結局熊の手を牛肉と、余分な量の玉ねぎを足らなかったまともな食材と交換できただけだ」

 そう文句を垂れながら晴矢は調理場へと戻ってきた。
 交換はお互いの利害が一致しないと叶わず、熊の手はある1つの班の犠牲があって処理できたものの、やはり他のゲテモノは処理をすることは出来なかったようだ。

「で、班長。どうするんだよ?」

「まぁ、大丈夫だ。この事態は想定外だったが案はある」

 僕の言葉に晴矢は自信ありげな表情で応える。

「食材を集める前に甘口と辛口のカレーを別々に作ればいいって話をしただろ?」

「そうか、別々に作るのか」

「あぁ、そういうことだ。鍋は二つしかないからまともなやつとヤバイやつしか出来ないから、甘口と辛口の分けはもう出来ないが、それでいいか?」

 皆んなも晴矢の意見に賛成し首を縦に振った。

「じゃあ、まともな方を料理ができる奴で、ヤバイやつは料理が出来ないやつでやろうと思うんだが……」

 晴矢は言い終わると女性陣の方へと様子を伺う。

「私は出来るよ」

「私も出来ます」

「ボクも」

 水仙さんと委員長と楓の3人がそう答え、残りの2人、橘と日光は首を横へと振っている。

「じゃあ、料理が出来る女性陣と陸がまともな方を、出来ない女性陣と俺と翔でまともじゃないのを作ろう」

「ちょっと待った! 俺は料理出来るんですけど⁈」

「あぁ? そういえば自己紹介の時にそんな事言ってたな。あれ本当だったのか?」

「本当だよ!」

「そうか、ならちょうど良かった。料理出来ないやつでまともじゃない物を作ったらそれ以上のものが出来そうで不安だったからな。1人ぐらい料理出来る奴が欲しかったんだ。よし、やるぞ」

 晴矢はそう言いながらはっちゃんを調理場へと引きずって行く。

「いやだぁ! まともじゃない奴らとまともじゃない物なんか作りたくないぃ! 俺もまともな人と一緒にまともなカレー作ってまともな林間学校を満喫したいぃいぃぃぃぃぃ!」

 はっちゃんは叫びながら抵抗していたが、それも虚しくただただ晴矢に引き摺られて行く。

「ちょっと、1番まともじゃない奴にまともじゃないって言われるの心外なんだけど」

「私料理って初めてやります。楽しみです」

 そう言いながら日光と橘も晴矢へとついて行く。

「ふふっ。楽しみだね」

 それらを見ながら水仙さんは笑っていた。

「じゃあ、私たちも頑張ろっか」

 水仙さんはこっちを向き笑顔を見せる。

 こうして僕らの天国と地獄に分かれたカレー作りは幕を開けた。
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