余命1年から始めた恋物語

米屋 四季

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5月編

32話 川遊び

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「避け切れるかぁ!」

 僕は叫ぶ。
 やりきれない不満を抱え、ただただ叫ぶ。

「うるせぇなぁ……」

 隣にいる晴矢は耳を抑えながら、うんざりした表情で言った。

 今は川遊びの最中。
 僕と晴矢は下に水着、上にTシャツを着てなだらかな流れの川に足だけを浸けている。
 午前中のドッジボールの疲れもあり、泳ぐ気力のない僕たちは涼んでいた。

 ドッジボールは結果だけ言わしてもらうと、何の見せ場もなく僕たちのクラスが最下位で終わった。
 あの後も僕は一方的に狙われた。
 どんな早い球でも距離を置いて構えていれば取れた。真っ正面の球は……。
 外野で回されてのコンビネーションプレーには対処できずに当てられてしまったのだ。
 僕がいなくなったことによりB組の次の矛先はA組の皆んなに向けられ、あっさりと全滅。
 他のクラス戦も同様、僕が最初に一方的に狙われた後に全滅を繰り返した。
 女子にいいところを見せたいという思いは、あいつら美女に囲まれて羨ま殺すという思いに簡単に踏み躙られたのだった。

「冷たーいっ!」

「きゃっ⁈ もうやめてよー!」

 女子たち弾けるようなはしゃぎ声が耳へと入る。

「なんだか夏って感じがするな」

 下流の方でわいわいとはしゃいでいる女子達を見ながら僕は言った。
 晴矢は俺は暑いってだけで夏って感じがする、っと同意はしてくれなかった。

「ゆっちゃんは分かってる。確かにあれを見れば夏って感じがするよな」

 僕たちの後ろにいるはっちゃんは僕に同意してくれる。

「学校指定のスク水ってのがまた唆られるよな。流石リーダーの親友、分かってる」

 岸川は目を瞑りながらうんうんと頷く。
 僕はそこまで言った覚えはない。

 はっちゃんと他のA組男子達は僕と晴矢の後ろを体操着を着ていて立っている。
 昨日、女子風呂を覗こうとした件で僕と晴矢以外のA組男子は川に入る事は禁止されている。
 林間学校の校舎内に待機させられるものだと思ってはいたが、どうやら皆んなが楽しく遊んでいるのを見て反省してもらいたいという戒めの意図があって、川の近くまで来る事は出来るらしい。
 ちなみに女風呂を覗こうとしたから川に入れないとか、今後の彼らの学校生活に配慮してか、他の生徒たちには持って来ては駄目なものを持ち込んでいたためA組の男子は一部を除いて川には入れないと伝わっているらしい。

「ふっ、それにしても先生達も馬鹿だな」

「俺たちはただ眺められるだけでも充分なのさ」

 いや、そんな事を決め顔で言われてもな……。

 当の本人たちは一切反省していない。

「それこそ意図的に事故を演出して体に触りに行くことぐらい出来ただろうに」

 晴矢はボソッとA組男子の皆んなに聞こえる声で呟いた。

「ぐああああっ……⁈」

「あれ? 何でだろう? 目の前が滲んできた?」

「俺も川に入りたいよおぉ!」

 晴矢の一言にみんな悶え苦しむ。

「まぁ、お前らにそんなことが出来る勇気がないのは知っているがな」

「「「「あああああああああああああああああああああああああああああああっ!」」」」

 晴矢の追い討ちの一言に皆んな発狂した。
 たった1人を除いては。

 はっちゃんは下流の方を毅然とした態度で眺めている。
 いつにも増して真剣な表情。
 はっちゃんとは長年の付き合いだが、これほどにも集中しているはっちゃんは見たことがなかった。
 はっちゃんの目線のその先には……日光と委員長と他胸の大きい女子達がいる。

「っと……やべぇやべぇ……」

 鼻から流れた血を急いではっちゃんは拭う。

 こいつ……女子の胸をガン見してやがる……。

「おいおい銘雪、そんな顔してリーダーを見るなって。お前も男ならあの実りに実った果実に興味があるだろう?」

 僕はかなり引いた顔をしていたのだろう。 
 岸川が僕にそう言った。
 晴矢からの言葉のダメージが抜けきっていないのか、彼の足が未だに震えている。

「いや、僕は別に……」

「恥ずかしがるなって~」

「俺なんか声を大にして言えるぜ。大きいのが好きだ」

「俺は大きくても張りがある方が好きだなぁ。委員長のとか」

 否定をしようとしていた僕を置いて、みんなおっぱい談義に花を咲かせていく。

「やっぱり1番でかいのは日光さんだな」

「委員長は形がいい」

「俺は小さい方がいいな。橘さんとか」

「おいおい、それは胸だけじゃなくて全体的にだろ」

 下流の皆んなが遊んでいるところには声は届かないであろうが、もし話している内容がバレてしまえば僕らの高校生活は終わってしまうだろう。
 僕はどこかで誰かが聞いていないか、不安になり辺りを見渡す。

「冬木はどうなんだ?」

 一人の男子生徒が晴矢へと質問した。

「俺は大きくも小さくもない、普通ぐらいかな。何毎も普通が1番」

 僕は正直、晴矢なら興味がねぇの一言で終わらすと思っていたので普通に応えたのには意外だった。
 恥ずかしがっている僕がおかしいのだろうか……。

「普通かぁ……いいね。で、銘雪君は?」

 とうとう僕にその質問が回ってきた。
 僕は水仙さんの方をチラ見する。
 水仙さんは大きくも小さくもなく、まさに普通といった感じだ。
 普通は好きな人の大きさを答えればいいのかもしれない。
 しかし、僕の好みは……。

「僕は……控え目な方が……」

 凄く大きかったり多少あったりすると意識してしまうので、意識しないぐらいの小ささの方が僕は良かった。

「きもいな」

「すっごく引く」

「ロリコン」

「変態」

「お前ら僕にだけあたり強くない?」

 さっきまで大きいとか小さいとか普通とか色々な大きさを言っても何も蔑んだことを言わなかったくせに僕の時だけ明らかにあたりが強い。
 ドッジボールの時も思ったが、未だに僕はこいつらに恨まれているんじゃないだろうか?

「お前の趣味趣向に関してではないだろ。言い方がちょっと変態ぽいんだよ。恥ずかしがらずに言ってみろ」

 晴矢の指摘に対し、皆んなうんうんと頷く。

「あぁ! そうだよ! 控え目な方が好きだよ!」

 僕は胸を張って言った。

「「「ごめん、やっぱりキモい」」」

 こいつら……マジでこいつらっ……!

「ふぅ……お前らまだまだだな」

 そんなやりとりをしていた僕らを今まで黙っていた(鼻血をだらだらと流している)はっちゃんは嘲笑する。

「翔さんはどれくらいが好みなんですか?」

 男子生徒の1人がはっちゃんへと聞く。
 どうせ、大きいのと答えるに決まっているというのに。

「俺は胸が大きいのが好きとか小さいのが好きとかそんなんじゃないんだよ!」

 はっちゃんは一旦言葉を止め、大きく息をする。

「俺は……『おっぱい』が好き。全部好き」

 うわぁ…………こいつ……。

「流石っす……」

「まさに男の中の男……」

 僕と晴矢以外の皆んなが涙を流しながら感激していた。
 それでいいのか……。

「何を話してるんだい?」

 後ろから聞こえた唐突な女子の声に僕たちは驚き振り返る。
 A組男子達の後ろには水着の上に白いTシャツを着ている楓がいた。

「ええっと……川の流れとか?」

「川の綺麗さとか?」

「温度的なものとか?」

「水位とか?」

 皆んな誤魔化すためか適当に川のことで言えることを言っていく。

「どうして皆んな疑問形なんだい?」

「その話はとりあえず置いといてさ! 楓は泳がないのか?」

 これ以上聞かれて誰かがボロを出さないようにするため、僕は話を逸らすことにした。

「うっ……」

 僕の質問に対して楓は強張った表情を見せる。

「それは……その……水が…………」

「もしかして公孫樹さんは泳げないのか?」

 晴矢に言われて楓は顔を真っ赤にしながらコクリと頷く。

「い、いやぁ……恥ずかしいな…………」

 彼女は顔を赤らめたまま苦笑いする。
 それを見てA組の男子は何人か膝をつく。

「ハズカシガル、オンナ、カワイイ」

 どうして片言?

「やばい……可愛いという言葉しか出ない。もっと語彙力が欲しい。あ、やばい。可愛い」

「お前駄目だな。語彙力のある俺様がお前の気持ちを言い表してやる。赤面する美少女可愛い。あ、駄目だ俺も語彙力がない。やばい。可愛い」

 訳の分からないことを呟いている男子生徒たちに楓は少し困惑している。

「大丈夫。いつものことだから。別に気にしなくていいから」

「そ、そうなのかい? あ、そうだ……」

 楓は僕を見ながら何かを思いついたのか、手を叩き僕を指差す。

「陸って泳げるよね? ボクに泳ぎ方を教えてくれないかな?」

「「「「はあっ⁈」」」」

 僕が何かを言うよりも前に他の男子生徒達が驚きの声を発する。

「駄目っすよ! 男に泳ぎを教えて貰うとか!」

「そうそう! 男は皆んな獣だぞ! 体をべたべた無闇矢鱈に触れられるぞっ!」

 皆んなは僕が楓に泳ぎを教えるのを宜しく思わないのか全力で止めにかかる。

「陸はそんな事しないよね?」

「あ、あぁ勿論」

「ほらぁ! こいつ動揺してるぜ!」

「さっきも胸が小さい方が好きだと言っていたからきっと襲う気だ!」

「貧乳好きの変態が!」

 あ……。

「ばっ、お前ら!」

 僕の言葉で自分達が何を言ったか理解したのか、2人の男子生徒は慌てて口を塞ぐ。

 しかし、時はすでに遅し。
 楓は顔を赤くし動揺している。

「いや、これはあいつらが勝手に言ってるだけで……」

「へ、へぇ……。で、実際に陸はどっちの方が好みなんだい?」

 楓はまじまじとした顔で僕に聞く。
 楓の胸は……そこまでない。
 しかし、ここで正直に応えると変な警戒心を与える可能性がある。
 かといって、大きい方が好きだと言っても彼女を傷付けてしまうことに……。

「僕は……小さい方が好き……かな……」

 結局僕は正直に答えることを選んだ。
 楓はそれを聞き、少し頰を赤く染め微笑む。
 心なしか嬉しそうである。

「それにしても、ボクってやっぱり小さいって思われてるんだね……」

 楓は自分の胸を抑えながら、僕のことを貧乳好き呼ばわりした2人の男子生徒をムッとした表情で見る。
 男子生徒の2人は気まずいのか楓から顔を逸らした。

「さあって、時間もそこまでないし早く行こ」

 楓はそう言いながら僕に手を伸ばす。
 僕は川から出て立ち上がり、楓の手を取ろうとした時だった。
 僕の前後に1人ずつ男子生徒が立ち塞がった。

「ええっ! どうしたんだい銘雪君、具合が悪いって⁈」

 そう言いながら僕の後ろにいた男子生徒は腕を僕の首へと巻きつけ締め上げる。

「んんっ⁈ 残念ながら泳ぎは教えられないって⁈」

 そう言いながら前にいる男子生徒は楓から今の僕の状態を見られないようにするため両手を広げながら楓の前へと立つ。

 首を締め上げられているせいで声が出せない。
 踠いてはみるもののしっかりと決められているため腕が解ける様子もない。
 僕の意識はそのままゆっくりと闇の中へと沈んでいった。
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