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第10章 修学旅行 奈良編
448 東大寺南大門
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前島先生率いる6年4組の児童たちは南大門のかなり手前で立ち止まった。前島先生が学級所有の古いデジカメで児童たちのスナップ写真を撮り始めた。二日目の奈良観光では児童にスマホを持たせないので、先生が児童たちの写真を取らなくてはならない。
藤城皐月は神谷秀真や岩原比呂志、栗田大翔たちと一緒に写真に映った。花岡聡も皐月に絡みついていた。
学級別の行動になると、男女はお互いに遠慮をして男同士、女同士で固まり、男女一緒に写真を取られることはなかった。だが月花博紀だけはファンクラブの女子たちと一緒に写真に写っていた。
南大門は東大寺の正門で、国内最大の山門であり、国宝に指定されている。天平時代に建てられた門は平安時代の台風で倒壊し、現在の門は鎌倉時代に再建されたものだ。
南大門は東大寺復興に尽力した重源上人によって再建された二重門だ。二重門とは上層と下層の両方に屋根が付く二階建ての門のことで、上層と下層の屋根が同じ大きさなのが珍しい。
南大門には屋根裏まで達する21メートルの大円柱が18本も使用されている。大仏様という、天井がなく、貫を使って構造を強化しているところが特徴的な建築だ。門の下から見上げると、朱の剥げた貫が幾重にも重なって、大きな門を支えている。
4組の児童たちが南大門を抜けようとすると、風が抜けた。大きな門幕がたなびいて、皐月と秀真は歓迎されているような思いがした。
皐月が阿呆のように屋根裏を見上げていると、二橋絵梨花と栗林真理が熱心に金剛力士像を見ていた。
絵梨花が左側の阿形を、真理が右側の吽形に見入っていた。仏像好きの絵梨花が仁王像を見ているのはわかるが、皐月には真理が食い入るように見ていることが不思議だった。
「どうした、真理。お前って、こういうのに興味あったっけ?」
「これ、運慶が作ったんだよ。絵梨花ちゃんが見ているのは快慶が作ったの。運慶・快慶が共作した仏像はここだけなんだって。皐月、知ってる?」
「いや、知らない。運慶・快慶が凄い仏師だってことは知ってるけど、その二人がコラボしてたんだ」
「そうなの。24時間365日見られる国宝の仏像は東大寺だけなんだって。なんだか私も仏像とか、好きになってきたかも」
皐月は昨夜、村中茂之が言っていた言葉を思い出した。修学旅行は人をお寺好きに変えるようだ。
「金剛力士像が向い合って立っているのは珍しいんだってね。こんな怖い像に双方から見られると、悪いことなんてできないなって思う」
「そうだな。確かに敬虔な気持ちになる……いや、ビビってるだけか」
南大門の影の中にも鹿がいた。皐月は鹿と戯れたくなったが、野生の鹿なのでそっとしておかなければならない。
絵梨花と左右入れ替わって、皐月と真理は快慶の阿形の像を見ようと思った。だが、4組の児童たちはどんどん先へ進んで行ってしまった。
「どうしよう……。ゆっくり見ていられない」
「とりあえず二橋さんが見終わるまで待って、走って追いかけよう。ところで真理たちはどうして別々に仏像を見てたの? 一緒に見ればいいのに」
「それはやっぱり、お互いに自分の世界に入りたいじゃない。だから私が絵梨花ちゃんと逆の金剛力士像を見るようにしたの」
「じゃあ、俺って真理の邪魔をしちゃったんだ……」
「いいよ、皐月なら私の世界に入って来ても」
真理も仏像を熱心に見始めた。皐月はクラスの子たちとの距離を考えながら、南大門を離れるタイミングをはかっていた。この二人は放っておくと、いつまでも金剛力士像を見ていそうな雰囲気だ。
「ごめんね。待ってもらっちゃって。もうみんな行っちゃった?」
我に帰った絵梨花が皐月のもとに来て、謝った。今ならまだ追いつける距離だ。
「大丈夫だよ。まだ追いつく。やっぱり学級移動だとゆっくり見られないね」
「しょうがないよ。修学旅行だもん」
「じゃあ、行こうか。真理、行くぞ」
後ろ髪を引かれるような顔をして真理がやって来た。
「走ることはないけど、ちょっと早歩きで行こう」
皐月の周りに鹿がまとわりついてきた。さっきから妙に鹿が懐いてくる。何か鹿の好きな食べ物の匂いでも付いているのかと、思わずナップサックの匂いを嗅いだ。
藤城皐月は神谷秀真や岩原比呂志、栗田大翔たちと一緒に写真に映った。花岡聡も皐月に絡みついていた。
学級別の行動になると、男女はお互いに遠慮をして男同士、女同士で固まり、男女一緒に写真を取られることはなかった。だが月花博紀だけはファンクラブの女子たちと一緒に写真に写っていた。
南大門は東大寺の正門で、国内最大の山門であり、国宝に指定されている。天平時代に建てられた門は平安時代の台風で倒壊し、現在の門は鎌倉時代に再建されたものだ。
南大門は東大寺復興に尽力した重源上人によって再建された二重門だ。二重門とは上層と下層の両方に屋根が付く二階建ての門のことで、上層と下層の屋根が同じ大きさなのが珍しい。
南大門には屋根裏まで達する21メートルの大円柱が18本も使用されている。大仏様という、天井がなく、貫を使って構造を強化しているところが特徴的な建築だ。門の下から見上げると、朱の剥げた貫が幾重にも重なって、大きな門を支えている。
4組の児童たちが南大門を抜けようとすると、風が抜けた。大きな門幕がたなびいて、皐月と秀真は歓迎されているような思いがした。
皐月が阿呆のように屋根裏を見上げていると、二橋絵梨花と栗林真理が熱心に金剛力士像を見ていた。
絵梨花が左側の阿形を、真理が右側の吽形に見入っていた。仏像好きの絵梨花が仁王像を見ているのはわかるが、皐月には真理が食い入るように見ていることが不思議だった。
「どうした、真理。お前って、こういうのに興味あったっけ?」
「これ、運慶が作ったんだよ。絵梨花ちゃんが見ているのは快慶が作ったの。運慶・快慶が共作した仏像はここだけなんだって。皐月、知ってる?」
「いや、知らない。運慶・快慶が凄い仏師だってことは知ってるけど、その二人がコラボしてたんだ」
「そうなの。24時間365日見られる国宝の仏像は東大寺だけなんだって。なんだか私も仏像とか、好きになってきたかも」
皐月は昨夜、村中茂之が言っていた言葉を思い出した。修学旅行は人をお寺好きに変えるようだ。
「金剛力士像が向い合って立っているのは珍しいんだってね。こんな怖い像に双方から見られると、悪いことなんてできないなって思う」
「そうだな。確かに敬虔な気持ちになる……いや、ビビってるだけか」
南大門の影の中にも鹿がいた。皐月は鹿と戯れたくなったが、野生の鹿なのでそっとしておかなければならない。
絵梨花と左右入れ替わって、皐月と真理は快慶の阿形の像を見ようと思った。だが、4組の児童たちはどんどん先へ進んで行ってしまった。
「どうしよう……。ゆっくり見ていられない」
「とりあえず二橋さんが見終わるまで待って、走って追いかけよう。ところで真理たちはどうして別々に仏像を見てたの? 一緒に見ればいいのに」
「それはやっぱり、お互いに自分の世界に入りたいじゃない。だから私が絵梨花ちゃんと逆の金剛力士像を見るようにしたの」
「じゃあ、俺って真理の邪魔をしちゃったんだ……」
「いいよ、皐月なら私の世界に入って来ても」
真理も仏像を熱心に見始めた。皐月はクラスの子たちとの距離を考えながら、南大門を離れるタイミングをはかっていた。この二人は放っておくと、いつまでも金剛力士像を見ていそうな雰囲気だ。
「ごめんね。待ってもらっちゃって。もうみんな行っちゃった?」
我に帰った絵梨花が皐月のもとに来て、謝った。今ならまだ追いつける距離だ。
「大丈夫だよ。まだ追いつく。やっぱり学級移動だとゆっくり見られないね」
「しょうがないよ。修学旅行だもん」
「じゃあ、行こうか。真理、行くぞ」
後ろ髪を引かれるような顔をして真理がやって来た。
「走ることはないけど、ちょっと早歩きで行こう」
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