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第10章 修学旅行 奈良編
471 爬虫類人の塑像
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藤城皐月はガイドの立花玲央奈と担任の前島先生の三人で法隆寺西院伽藍の中にいた。目の前には五重塔と金堂がある。
「先生。見学に行く前に、ガイドの立花さんと一緒に写真を撮ってもらえませんか? ねっ、いいでしょ?」
立花とは修学旅行で縁が切れてしまう。皐月は彼女のことを好きになっていたので、せめて写真だけでも残したかった。
「許可が必要なのは私じゃなくて、立花さんじゃないの? すみません、この子と一緒に写真を撮ってもらってもいいですか?」
「もちろん、いいですよ」
「やった! ありがとう」
皐月が喜んでいる横で、立花が少し照れくさそうにしていた。大学生の立花は皐月の知る年上の女性たちとは全然違うタイプだ。知的な彼女に皐月はほのかに恋心を抱き始めていた。
「立花さんのスマホで撮りましょうか。学校のカメラで撮影すると、他の男子に怒られちゃうから」
前島先生は立花からスマホを受け取り、廻廊を背景にして皐月たちの写真を撮ることにした。
「先生、格好良く撮ってよ」
「はいはい。藤城さんはまだ子供ね」
写真を撮り終えると、立花が困った顔をしていた。
「この写真、どうしよう。どこに送ったらいいですか?」
「ここに送って」
皐月はパスケースに入れてある自分のSNSのアカウントのQRコードを見せた。この手は昨日の清水寺で一度成功している。
「あなた、用意がいいわね。いつも連絡先を持ち歩いているの?」
前島先生に疑惑の目を向けられた。皐月は自分の行動を不自然だと自覚している。旅先で知り合った人とそれっきりになるのを惜しんで、連絡先を持ち歩くことにしていた。
「修学旅行だからに決まってるよ。ネットで持っていると便利な物を調べたら、QRコードって書いてあったんだ」
「へぇ~。今時の子はこういうのを持ち歩いているんだね」
「学校がスマホを持っていくのを禁止してるから悪いんだよ」
立花は前島先生からスマホを受け取り、皐月のスマホに写真を送信した。これで彼女とは一期一会にならずにすんだ。
「お~い!」
五重塔から秀真が走ってきた。法隆寺の中を走る秀真を見ていると、皐月は妙に楽しくなる。自分たちと同じ年頃の僧侶も秀真と同じように伽藍の中を走っていたのだろう。そう思うと初めて法隆寺のことを身近に感じることができた。
「皐月もレプティリアン、見に来いよ。ギリギリ見えたぞ」
「ホントかよ? 行く行く」
皐月はレプティリアンの仏像が見えるとは全然思っていなかった。秀真のことだから少し見えただけで喜んでいるのだろう。それでも皐月は一目見てみたいと思っていた。
「ねえ、神谷さん。そのレプティリアンっていうのは何なの?」
「先生。五重塔に頭が蜥蜴みたいな仏像があるんです。レプティリアンはそういう生き物で、SF小説や陰謀論などによく出てくるんです」
皐月は秀真の常識的な説明に安堵した。いつもの秀真なら暴走し、陰謀論を熱く語り始めているだろう。さすがに大人が相手だと話が違ってくる。
「神谷さんが言っている仏像は鼠、鳥、馬の頭をした塑像のことだよね?」
「ガイドさん、知ってるんだ。あれってやっぱり宇宙人だと思う?」
「さぁ……私にはよくわからないな。でも有名みたいで、ガイドをしていると質問をされるの。法隆寺の謎だって答えるしかないのよね」
秀真の話がいきなり宇宙人に飛び、立花は少し引き気味だった。同じ界隈の人同士なら話が早くなるが、まだ立花が同類かどうかはわからない。この辺りが秀真の悪いところだが、同士にはたまらなく面白い。
「メソポタミアのウバイドでレプティリアンのフィギュリンが発掘されたんだけど、それが法隆寺の侍者像の顔と良く似ていて、そんなのが偶然で片付けられるはずがなく、絶対に何らかの関係が……」
「おい、秀真! 五重塔に行くぞ。時間がなくなっちゃうじゃんか」
「あっ……悪ぃ悪ぃ」
テンションの上がり過ぎた秀真を見るのは楽しい。皐月は笑いながら、秀真を立花や前島先生から引き剥がした。立花を前にして、秀真は張り切っていたようだ。
「先生。みんなの写真を撮るんだったら、僕と秀真の写真も撮ってよ」
「はいはい。じゃあ、金堂をバックに撮ろうか」
「立花さんも一緒に写ってくれると嬉しいな」
皐月はずうずうしく立花に声をかけた。彼女は快く了承してくれて、皐月と秀真の間に入ってもらった。皐月はいかにも陽キャのポーズを取り、秀真は陰キャを思わせる硬い表情で撮影した。
「ありがとう。じゃあ、僕たちは仏像を見てきます」
皐月と秀真は頭を下げて、五重塔へ駆けて行った。前島と立花はぼんやりと二人を眺めていた。
「先生。あの二人、面白い生徒さんですね」
「そうなのよ。私が今まで受け持った児童にはいないタイプの子たちなの。神谷さんはびっくりするくらい博識で、藤城さんが彼のことを師匠と慕っているんだって」
「へぇ~。私には藤城さんの方が師匠っぽく見えるんだけど」
「神谷さんは言いたいことを言っちゃう子で、藤城さんは相手に合わせて対応を変えられる子なの。二人はいいコンビね」
皐月と秀真の二人はいろいろな角度から五重塔を眺めていた。立花の視線は皐月を追っていた。
「立花さんが私のクラスの児童だったら、藤城さんに恋をしていたかもしれないわね」
「えっ? ちょっと先生、何を言っているんですか!」
「だってあなた、さっきから藤城さんばかり見ているじゃない」
「そんなこと……」
否定しながらも、立花は皐月を目で追い続けた。皐月と秀真が五重塔の北面に消えると、立花は前島を見た。
「藤城さんって綺麗な顔してますよね。目の保養になるな~。先生が羨ましい」
「そんな目で児童を見るわけがないでしょ。それにうちの子たちはみんな可愛いから」
「そうかな? 先生だって藤城さんと話している時、時々女に戻ってましたよ?」
いたずらな目で見られた前島は立花に共犯者のような親近感をおぼえた。藤城皐月と気が合う者同士、気持ちが通じ合わないはずがないことに、立花の言葉で気がついた。
「先生。私もみんなの写真を撮るのに協力します。藤城さんのスマホに送ればいいですよね?」
「彼のスマホじゃなくて、私のスマホに送ればいいでしょ?」
「あはっ。そうしま~す。前島先生と藤城さんと分けて送信します」
前島と立花も中門の石貼りを下りて、伽藍の中へと入って行った。
「先生。見学に行く前に、ガイドの立花さんと一緒に写真を撮ってもらえませんか? ねっ、いいでしょ?」
立花とは修学旅行で縁が切れてしまう。皐月は彼女のことを好きになっていたので、せめて写真だけでも残したかった。
「許可が必要なのは私じゃなくて、立花さんじゃないの? すみません、この子と一緒に写真を撮ってもらってもいいですか?」
「もちろん、いいですよ」
「やった! ありがとう」
皐月が喜んでいる横で、立花が少し照れくさそうにしていた。大学生の立花は皐月の知る年上の女性たちとは全然違うタイプだ。知的な彼女に皐月はほのかに恋心を抱き始めていた。
「立花さんのスマホで撮りましょうか。学校のカメラで撮影すると、他の男子に怒られちゃうから」
前島先生は立花からスマホを受け取り、廻廊を背景にして皐月たちの写真を撮ることにした。
「先生、格好良く撮ってよ」
「はいはい。藤城さんはまだ子供ね」
写真を撮り終えると、立花が困った顔をしていた。
「この写真、どうしよう。どこに送ったらいいですか?」
「ここに送って」
皐月はパスケースに入れてある自分のSNSのアカウントのQRコードを見せた。この手は昨日の清水寺で一度成功している。
「あなた、用意がいいわね。いつも連絡先を持ち歩いているの?」
前島先生に疑惑の目を向けられた。皐月は自分の行動を不自然だと自覚している。旅先で知り合った人とそれっきりになるのを惜しんで、連絡先を持ち歩くことにしていた。
「修学旅行だからに決まってるよ。ネットで持っていると便利な物を調べたら、QRコードって書いてあったんだ」
「へぇ~。今時の子はこういうのを持ち歩いているんだね」
「学校がスマホを持っていくのを禁止してるから悪いんだよ」
立花は前島先生からスマホを受け取り、皐月のスマホに写真を送信した。これで彼女とは一期一会にならずにすんだ。
「お~い!」
五重塔から秀真が走ってきた。法隆寺の中を走る秀真を見ていると、皐月は妙に楽しくなる。自分たちと同じ年頃の僧侶も秀真と同じように伽藍の中を走っていたのだろう。そう思うと初めて法隆寺のことを身近に感じることができた。
「皐月もレプティリアン、見に来いよ。ギリギリ見えたぞ」
「ホントかよ? 行く行く」
皐月はレプティリアンの仏像が見えるとは全然思っていなかった。秀真のことだから少し見えただけで喜んでいるのだろう。それでも皐月は一目見てみたいと思っていた。
「ねえ、神谷さん。そのレプティリアンっていうのは何なの?」
「先生。五重塔に頭が蜥蜴みたいな仏像があるんです。レプティリアンはそういう生き物で、SF小説や陰謀論などによく出てくるんです」
皐月は秀真の常識的な説明に安堵した。いつもの秀真なら暴走し、陰謀論を熱く語り始めているだろう。さすがに大人が相手だと話が違ってくる。
「神谷さんが言っている仏像は鼠、鳥、馬の頭をした塑像のことだよね?」
「ガイドさん、知ってるんだ。あれってやっぱり宇宙人だと思う?」
「さぁ……私にはよくわからないな。でも有名みたいで、ガイドをしていると質問をされるの。法隆寺の謎だって答えるしかないのよね」
秀真の話がいきなり宇宙人に飛び、立花は少し引き気味だった。同じ界隈の人同士なら話が早くなるが、まだ立花が同類かどうかはわからない。この辺りが秀真の悪いところだが、同士にはたまらなく面白い。
「メソポタミアのウバイドでレプティリアンのフィギュリンが発掘されたんだけど、それが法隆寺の侍者像の顔と良く似ていて、そんなのが偶然で片付けられるはずがなく、絶対に何らかの関係が……」
「おい、秀真! 五重塔に行くぞ。時間がなくなっちゃうじゃんか」
「あっ……悪ぃ悪ぃ」
テンションの上がり過ぎた秀真を見るのは楽しい。皐月は笑いながら、秀真を立花や前島先生から引き剥がした。立花を前にして、秀真は張り切っていたようだ。
「先生。みんなの写真を撮るんだったら、僕と秀真の写真も撮ってよ」
「はいはい。じゃあ、金堂をバックに撮ろうか」
「立花さんも一緒に写ってくれると嬉しいな」
皐月はずうずうしく立花に声をかけた。彼女は快く了承してくれて、皐月と秀真の間に入ってもらった。皐月はいかにも陽キャのポーズを取り、秀真は陰キャを思わせる硬い表情で撮影した。
「ありがとう。じゃあ、僕たちは仏像を見てきます」
皐月と秀真は頭を下げて、五重塔へ駆けて行った。前島と立花はぼんやりと二人を眺めていた。
「先生。あの二人、面白い生徒さんですね」
「そうなのよ。私が今まで受け持った児童にはいないタイプの子たちなの。神谷さんはびっくりするくらい博識で、藤城さんが彼のことを師匠と慕っているんだって」
「へぇ~。私には藤城さんの方が師匠っぽく見えるんだけど」
「神谷さんは言いたいことを言っちゃう子で、藤城さんは相手に合わせて対応を変えられる子なの。二人はいいコンビね」
皐月と秀真の二人はいろいろな角度から五重塔を眺めていた。立花の視線は皐月を追っていた。
「立花さんが私のクラスの児童だったら、藤城さんに恋をしていたかもしれないわね」
「えっ? ちょっと先生、何を言っているんですか!」
「だってあなた、さっきから藤城さんばかり見ているじゃない」
「そんなこと……」
否定しながらも、立花は皐月を目で追い続けた。皐月と秀真が五重塔の北面に消えると、立花は前島を見た。
「藤城さんって綺麗な顔してますよね。目の保養になるな~。先生が羨ましい」
「そんな目で児童を見るわけがないでしょ。それにうちの子たちはみんな可愛いから」
「そうかな? 先生だって藤城さんと話している時、時々女に戻ってましたよ?」
いたずらな目で見られた前島は立花に共犯者のような親近感をおぼえた。藤城皐月と気が合う者同士、気持ちが通じ合わないはずがないことに、立花の言葉で気がついた。
「先生。私もみんなの写真を撮るのに協力します。藤城さんのスマホに送ればいいですよね?」
「彼のスマホじゃなくて、私のスマホに送ればいいでしょ?」
「あはっ。そうしま~す。前島先生と藤城さんと分けて送信します」
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