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第7章 大人との恋
324 大須に住みたい
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満と藤城皐月は万松寺通を右に曲がった。スギ薬局の隣にある焼きそば屋から美味しそうな匂いがしてきた。ソースの焼ける匂いはどうして食欲をそそるのだろう。
右手にある台湾名物屋台には大勢の人がいた。ここの唐揚げは人気があるようだ。その隣の階段のところにも行列ができていた。2階にある喫茶店の客だ。
「ねえ、ここってなんかメッチャ面白いね。全部の店に入ってみたい」
「そんなこと言ったら大須に住まなきゃいけなくなっちゃうよ」
「スーパーもあるし、生活できるじゃん。いいな……マジでここに住みたい」
「じゃあ一緒に住む? 私も大須に住んでみたいって思ってるんだよね。このサノヤっていうスーパーはテレビ愛知の夕方の5時スタっていう番組によく出ているよ」
サノヤの前には地元民の自転車がずらりと並んでいた。駐輪場はなくて、商店街の道の真ん中に自転車が止められている。そこには店の人がついていて、客の出入りを手伝って通行人の妨げにならないようにしていた。
大須は少し歩いただけでも服を売っている店がたくさん見つかる。明日美と豊橋に服を買いに行った時は、どの店で買おうかと探すのに苦労したが、大須には選ぶのに苦労するほど多くの店がある。さすがは古着の聖地と呼ばれるだけのことはある。
衣料品店だけではなく、商店街の中には何カ国かわからないくらい、世界各国のエスニック料理店がある。大須には外国人観光客以外にも、留学生や労働者が多く住んでいるので、ハラルの食材の店もある。
食べ歩きのできる飲食店もたくさんある。唐揚げやスイーツなど、流行の最先端の店には長い行列ができるほどだ。店の入れかわりも激しいので、流行が終われば消え、新しい流行の店が現れる。
そうかと思えば昔ながらの飲食店や純喫茶も残っている。秋葉原のような電気街やコンカフェがあり、池袋のような漫画やアニメのショップもある。
大須にはアイドルだっている。浅草のような演芸場もあれば、小さな映画館もある。生活に根差した八百屋や乾物屋などもある。
それら雑多な店が区画で別れておらず、サラダボウルのように入り混じっている。お酒の飲める店はあまりないので、夜でも治安が良い。大須商店街とはそんな素敵な場所だ。
「色々な店があって面白いな。でも、ここってなんか雰囲気が他の町と違う気がするんだけど……」
「大須商店街の中にはね、全国チェーンの店があまりないんだよね。地元発のチェーン店はあるよ。スギ薬局とか寿がきやとかコメダ珈琲店とか。そういうところが名古屋っぽくていいんだよね」
満と皐月は通り沿いにあるアパレルショップに入り、皐月に似合いそうな服を探した。ざっと店の傾向を掴んで、合いそうになかったらすぐに次の店に移った。そんなことを繰り返しているうちに、皐月はお腹が空いてきた。時間も正午を回っていた。
「ねえ、腹減った。お昼っていつ食べる?」
「そうだね……もう食べようか。ランチなんだけどね、私の行きたい店に付き合ってもらってもいいかな? 食事代は出すから」
「もちろんいいけど、食事代はもらってるから、満姉ちゃんに出してもらわなくてもいいよ。食事を奢ってもらったらママに怒られる」
「いいよ。こっちが付き合わせちゃうんだから。預かってる食事代は服にまわそうよ。これは百合姐さんに了解をもらってるんだから、皐月は心配しなくてもいいよ。それにせっかく欲しい服が見つかっても、お金が足りないとかだったらイヤでしょ?」
「そりゃそうだけどさ……そんなに高い服じゃなくてもいいんだよ?」
「別に服は一着じゃなくて、欲しい服があったら何着も買えばいいじゃない。いろんな店を見てたら、絶対にお金が足りないって思うから。ここはお姉さんの言うことを聞いておきなさい」
満はショップのはしごを中断し、皐月を連れて歩きだした。あらゆる店を全て素通りし、東仁王門通から車の通れない細い小径に入った。
狭い路地にも古着屋や飲食店が営業していた。満はその中の一軒の、古びた外観の謎の店に入った。店の名前は『ローゼン・プリンセス』。小さな看板はまるで目立たなくて、知る人ぞ知るといった店だ。
小さな店だった。中はクラシックな雰囲気に統一されていた。店の中にはシックで清楚なロリータ服を着たかわいい女性たちがいて、満と皐月を優しく迎え入れてくれた。
「わぁ! 満ちゃん、お帰り~」
「今週もまた来たよ~」
店内はほぼ満席だった。客は全員女性客で、満のようにロリータの服を着た人が何人もいた。
「今日はかわいい男の子を連れているね。弟君?」
皐月は満よりも華やかな店員を見て茫然としていたが、店員と目が合うと心臓がドキドキした。入屋千智や明日美とは別次元の魅力で、現実離れをしたかわいさだ。
「彼氏だよ~。私の唯一の男の恋人。紹介するね。彼は皐月君」
「はじめまして。皐月です」
緊張で少し声が震えたことをごまかそうと、小さく咳払いをした。
「どうもはじめまして。私は美来です。よろしくね」
美来が微笑みかけてきたので、皐月も目いっぱい頑張って爽やかな笑顔を作った。ビビっているのをバレたくなかった。
「満ちゃん、今日はどうして皐月君と一緒に来たの?」
「皐月が修学旅行に行くって言うから、大須に服を買いに来たの」
「修学旅行か~。皐月君の中学は私服オッケーなんだ。いいな~」
「違うよ~。皐月は小学生だって」
「嘘! 小学生? じゃあ6年生なんだ。そっか~、中3にしては若いなって思ったんだよね」
皐月は少なくとも中学生に見られたことが嬉しかった。今はまだプラス1~2歳くらいに見られているが、少なくとも高校生には見られるようになって、明日美に似合う年齢に見られたいと思っている。
満と美来の話をしている間、皐月は店内の様子を観察した。美来以外のキャストは他の客と話をしたり、配膳をしたりして忙しそうにしている。キャストの子も女性の客もみんなかわいい。
二人の話が終わって注文を聞かれた。満はカルボナーラと、ノンアルコールの花梨のカクテルを頼んだ。
満の口にした花梨という言葉で、皐月は同じ修学旅行実行委員をしている江嶋華鈴のことを思い出した。いつも飾り気のない服を着ている華鈴でも、満や美来のようなロリータを着たらかわいくなるんだろうと思った。
右手にある台湾名物屋台には大勢の人がいた。ここの唐揚げは人気があるようだ。その隣の階段のところにも行列ができていた。2階にある喫茶店の客だ。
「ねえ、ここってなんかメッチャ面白いね。全部の店に入ってみたい」
「そんなこと言ったら大須に住まなきゃいけなくなっちゃうよ」
「スーパーもあるし、生活できるじゃん。いいな……マジでここに住みたい」
「じゃあ一緒に住む? 私も大須に住んでみたいって思ってるんだよね。このサノヤっていうスーパーはテレビ愛知の夕方の5時スタっていう番組によく出ているよ」
サノヤの前には地元民の自転車がずらりと並んでいた。駐輪場はなくて、商店街の道の真ん中に自転車が止められている。そこには店の人がついていて、客の出入りを手伝って通行人の妨げにならないようにしていた。
大須は少し歩いただけでも服を売っている店がたくさん見つかる。明日美と豊橋に服を買いに行った時は、どの店で買おうかと探すのに苦労したが、大須には選ぶのに苦労するほど多くの店がある。さすがは古着の聖地と呼ばれるだけのことはある。
衣料品店だけではなく、商店街の中には何カ国かわからないくらい、世界各国のエスニック料理店がある。大須には外国人観光客以外にも、留学生や労働者が多く住んでいるので、ハラルの食材の店もある。
食べ歩きのできる飲食店もたくさんある。唐揚げやスイーツなど、流行の最先端の店には長い行列ができるほどだ。店の入れかわりも激しいので、流行が終われば消え、新しい流行の店が現れる。
そうかと思えば昔ながらの飲食店や純喫茶も残っている。秋葉原のような電気街やコンカフェがあり、池袋のような漫画やアニメのショップもある。
大須にはアイドルだっている。浅草のような演芸場もあれば、小さな映画館もある。生活に根差した八百屋や乾物屋などもある。
それら雑多な店が区画で別れておらず、サラダボウルのように入り混じっている。お酒の飲める店はあまりないので、夜でも治安が良い。大須商店街とはそんな素敵な場所だ。
「色々な店があって面白いな。でも、ここってなんか雰囲気が他の町と違う気がするんだけど……」
「大須商店街の中にはね、全国チェーンの店があまりないんだよね。地元発のチェーン店はあるよ。スギ薬局とか寿がきやとかコメダ珈琲店とか。そういうところが名古屋っぽくていいんだよね」
満と皐月は通り沿いにあるアパレルショップに入り、皐月に似合いそうな服を探した。ざっと店の傾向を掴んで、合いそうになかったらすぐに次の店に移った。そんなことを繰り返しているうちに、皐月はお腹が空いてきた。時間も正午を回っていた。
「ねえ、腹減った。お昼っていつ食べる?」
「そうだね……もう食べようか。ランチなんだけどね、私の行きたい店に付き合ってもらってもいいかな? 食事代は出すから」
「もちろんいいけど、食事代はもらってるから、満姉ちゃんに出してもらわなくてもいいよ。食事を奢ってもらったらママに怒られる」
「いいよ。こっちが付き合わせちゃうんだから。預かってる食事代は服にまわそうよ。これは百合姐さんに了解をもらってるんだから、皐月は心配しなくてもいいよ。それにせっかく欲しい服が見つかっても、お金が足りないとかだったらイヤでしょ?」
「そりゃそうだけどさ……そんなに高い服じゃなくてもいいんだよ?」
「別に服は一着じゃなくて、欲しい服があったら何着も買えばいいじゃない。いろんな店を見てたら、絶対にお金が足りないって思うから。ここはお姉さんの言うことを聞いておきなさい」
満はショップのはしごを中断し、皐月を連れて歩きだした。あらゆる店を全て素通りし、東仁王門通から車の通れない細い小径に入った。
狭い路地にも古着屋や飲食店が営業していた。満はその中の一軒の、古びた外観の謎の店に入った。店の名前は『ローゼン・プリンセス』。小さな看板はまるで目立たなくて、知る人ぞ知るといった店だ。
小さな店だった。中はクラシックな雰囲気に統一されていた。店の中にはシックで清楚なロリータ服を着たかわいい女性たちがいて、満と皐月を優しく迎え入れてくれた。
「わぁ! 満ちゃん、お帰り~」
「今週もまた来たよ~」
店内はほぼ満席だった。客は全員女性客で、満のようにロリータの服を着た人が何人もいた。
「今日はかわいい男の子を連れているね。弟君?」
皐月は満よりも華やかな店員を見て茫然としていたが、店員と目が合うと心臓がドキドキした。入屋千智や明日美とは別次元の魅力で、現実離れをしたかわいさだ。
「彼氏だよ~。私の唯一の男の恋人。紹介するね。彼は皐月君」
「はじめまして。皐月です」
緊張で少し声が震えたことをごまかそうと、小さく咳払いをした。
「どうもはじめまして。私は美来です。よろしくね」
美来が微笑みかけてきたので、皐月も目いっぱい頑張って爽やかな笑顔を作った。ビビっているのをバレたくなかった。
「満ちゃん、今日はどうして皐月君と一緒に来たの?」
「皐月が修学旅行に行くって言うから、大須に服を買いに来たの」
「修学旅行か~。皐月君の中学は私服オッケーなんだ。いいな~」
「違うよ~。皐月は小学生だって」
「嘘! 小学生? じゃあ6年生なんだ。そっか~、中3にしては若いなって思ったんだよね」
皐月は少なくとも中学生に見られたことが嬉しかった。今はまだプラス1~2歳くらいに見られているが、少なくとも高校生には見られるようになって、明日美に似合う年齢に見られたいと思っている。
満と美来の話をしている間、皐月は店内の様子を観察した。美来以外のキャストは他の客と話をしたり、配膳をしたりして忙しそうにしている。キャストの子も女性の客もみんなかわいい。
二人の話が終わって注文を聞かれた。満はカルボナーラと、ノンアルコールの花梨のカクテルを頼んだ。
満の口にした花梨という言葉で、皐月は同じ修学旅行実行委員をしている江嶋華鈴のことを思い出した。いつも飾り気のない服を着ている華鈴でも、満や美来のようなロリータを着たらかわいくなるんだろうと思った。
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