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第9章 修学旅行 京都編
373 ときめきの弁天堂
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藤城皐月と吉口千由紀、二橋絵梨花と岩原比呂志は先に轟門で拝観券を見せ、有料ゾーンに入った。栗林真理が御手洗いに向かって歩いていると、神谷秀真も後を歩いて来た。
「神谷君、何が見たかったの?」
「弁財天の祠があるんだ。僕は前から弁財天のことを気にしてるんだ」
「へぇ~。弁財天だから金運アップの御利益でもあるの?」
「僕は御利益には興味ない。奈良の天河辨財天に興味があるから、他の弁財天もちょっと気になるって感じ。それに清水寺の弁財天はいい雰囲気だから、写真を撮っておきたくて」
「写真撮るの、ほとんど神谷君に任せっきりになっちゃってるね。ごめん」
「いいよ。僕も好きに撮らせてもらってるから。かえって嬉しいくらいだ」
真理と秀真は田村堂の角で二手に分かれ、秀真は真っ直ぐ進んで弁天堂のところへ行き、真理は右に曲がって御手洗いに行った。
弁財天とはヒンドゥー教の女神、サラスヴァティーのことだ。サラスヴァティーは仏教に取り込まれて、弁財天と呼ばれるようになった。本地垂迹では、弁財天は市杵嶋姫命に比定されている。
秀真は祠の前に行き、賽銭を入れて神社の作法にのっとり手を合わせた。参拝が終わると、秀真は小声で真言を唱え始めた。
「オン・ソラソバテイエイ・ソワカ」
秀真はこの修学旅行で初めて社殿の前で真言を唱えた。今まではプライベートの神社巡りでも神前で祝詞を奏上したことがなかったので、秀真にしては思い切ったことをした。
これは修学旅行でテンションが上がっていたからできたことだ。人に聞かれないかとドキドキしながら3回真言を唱えると、儀式を終えたような達成感があった。
真理がトイレから出てくると、秀真がまだ弁天堂を見ていた。
「まだ行っていなかったの?」
「栗林さんのこと待ってた」
「先に行っちゃえばよかったのに。でも、ありがとう。せっかくだから弁天堂で私の写真を撮ってよ」
「……うん、いいよ。栗林さんでもそういうこと言うんだね」
「変かな? 神谷君って私のこと何だと思ってたの?」
「勉強ができるクールな少女」
「何それ。少女しか合ってないじゃない」
秀真は真理を連れて弁天堂の正面の端の前までやって来た。清水寺の弁天堂は弁天池と呼ばれる池の中の小島にある。よく手入れされた境内はお寺の中の神社といった感じがする。
「ちょっとここで待ってて。僕は撮影場所まで移動するから」
秀真は走って弁天堂の左にある橋の上まで行き、三重塔が背景に入るところで真理の写真を撮った。次に真理を秀真のいる橋の袂に立たせ、池の辺の樹の下からもう一枚写真を撮った。撮影を終え、秀真は真理を呼び寄せた。
「神谷君。私の写真、かわいく撮れた?」
「……うん」
秀真の撮った写真を見て、真理は嬉しそうに笑っていた。そんな真理を見ていると、秀真は胸がドキドキしてきた。
「みんなのとこに行こ」
「うん」
秀真と真理は皐月たちに遅れて轟門をくぐった。真理が秀真の先に立って歩いていた。
轟門を抜けると重厚な渡り廊下がある。梁に吊るされた釣灯籠はUFOのように金色に輝いていた。渡り廊下の正面の車寄に大きな錫杖と鉄の高下駄が置かれていた。
「これって弁慶が使っていた下駄なんだって」
「こんなの履いてたら動けないよね。特訓か修行でもしてたのかな?」
「栗林さんはそういう風に考えるんだ。僕はこんな重い下駄を履いて動ける弁慶って凄いって思っちゃった」
「神谷君って純粋なんだね」
真理に笑われて、秀真は頬を染めた。この頬の熱さの半分は子ども扱いをされた恥ずかしさだった。
錫杖の奥には出世大黒天の像が置かれていた。像の手前に賽銭箱が置かれていたが、この大黒天に仏像のような威厳はなかった。
「なんか怖いね。半笑いの目と口が怖い」
「そう? 僕は親しみやすいっていうか、面白いって思うけどな。もしかして栗林さんって怖がり?」
「まあ、そうかな……。この大黒天ってどうして肌が黒いの?」
「大黒天はインドのマハーカーラっていう神のことなんだけど、このマハーカーラの肌が黒かったから、出世大黒天はそれを忠実に再現したんじゃないかな。マハーカーラの肌が黒い理由は知らないけど」
「凄い! 神谷君、なんでそんなに詳しいの?」
「修学旅行前にみんなで予習しておこうって言ってたでしょ? 僕は宗教や歴史をスルーして、神仏だけを勉強しておいたんだ。自分も興味があるしね。でも宗教のこととか歴史のことはさっぱり分からない。時間が足りなかったな……」
「私は受験勉強ばかりしてた。……ごめんね」
「いいよ。今みたいに分からないことを聞いてくれると、こっちも知識を披露できる機会をもらえるから楽しい」
絵梨花だけでなく、真理にも褒められて秀真は生まれて初めて味わう歓びを感じていた。
「神谷君、何が見たかったの?」
「弁財天の祠があるんだ。僕は前から弁財天のことを気にしてるんだ」
「へぇ~。弁財天だから金運アップの御利益でもあるの?」
「僕は御利益には興味ない。奈良の天河辨財天に興味があるから、他の弁財天もちょっと気になるって感じ。それに清水寺の弁財天はいい雰囲気だから、写真を撮っておきたくて」
「写真撮るの、ほとんど神谷君に任せっきりになっちゃってるね。ごめん」
「いいよ。僕も好きに撮らせてもらってるから。かえって嬉しいくらいだ」
真理と秀真は田村堂の角で二手に分かれ、秀真は真っ直ぐ進んで弁天堂のところへ行き、真理は右に曲がって御手洗いに行った。
弁財天とはヒンドゥー教の女神、サラスヴァティーのことだ。サラスヴァティーは仏教に取り込まれて、弁財天と呼ばれるようになった。本地垂迹では、弁財天は市杵嶋姫命に比定されている。
秀真は祠の前に行き、賽銭を入れて神社の作法にのっとり手を合わせた。参拝が終わると、秀真は小声で真言を唱え始めた。
「オン・ソラソバテイエイ・ソワカ」
秀真はこの修学旅行で初めて社殿の前で真言を唱えた。今まではプライベートの神社巡りでも神前で祝詞を奏上したことがなかったので、秀真にしては思い切ったことをした。
これは修学旅行でテンションが上がっていたからできたことだ。人に聞かれないかとドキドキしながら3回真言を唱えると、儀式を終えたような達成感があった。
真理がトイレから出てくると、秀真がまだ弁天堂を見ていた。
「まだ行っていなかったの?」
「栗林さんのこと待ってた」
「先に行っちゃえばよかったのに。でも、ありがとう。せっかくだから弁天堂で私の写真を撮ってよ」
「……うん、いいよ。栗林さんでもそういうこと言うんだね」
「変かな? 神谷君って私のこと何だと思ってたの?」
「勉強ができるクールな少女」
「何それ。少女しか合ってないじゃない」
秀真は真理を連れて弁天堂の正面の端の前までやって来た。清水寺の弁天堂は弁天池と呼ばれる池の中の小島にある。よく手入れされた境内はお寺の中の神社といった感じがする。
「ちょっとここで待ってて。僕は撮影場所まで移動するから」
秀真は走って弁天堂の左にある橋の上まで行き、三重塔が背景に入るところで真理の写真を撮った。次に真理を秀真のいる橋の袂に立たせ、池の辺の樹の下からもう一枚写真を撮った。撮影を終え、秀真は真理を呼び寄せた。
「神谷君。私の写真、かわいく撮れた?」
「……うん」
秀真の撮った写真を見て、真理は嬉しそうに笑っていた。そんな真理を見ていると、秀真は胸がドキドキしてきた。
「みんなのとこに行こ」
「うん」
秀真と真理は皐月たちに遅れて轟門をくぐった。真理が秀真の先に立って歩いていた。
轟門を抜けると重厚な渡り廊下がある。梁に吊るされた釣灯籠はUFOのように金色に輝いていた。渡り廊下の正面の車寄に大きな錫杖と鉄の高下駄が置かれていた。
「これって弁慶が使っていた下駄なんだって」
「こんなの履いてたら動けないよね。特訓か修行でもしてたのかな?」
「栗林さんはそういう風に考えるんだ。僕はこんな重い下駄を履いて動ける弁慶って凄いって思っちゃった」
「神谷君って純粋なんだね」
真理に笑われて、秀真は頬を染めた。この頬の熱さの半分は子ども扱いをされた恥ずかしさだった。
錫杖の奥には出世大黒天の像が置かれていた。像の手前に賽銭箱が置かれていたが、この大黒天に仏像のような威厳はなかった。
「なんか怖いね。半笑いの目と口が怖い」
「そう? 僕は親しみやすいっていうか、面白いって思うけどな。もしかして栗林さんって怖がり?」
「まあ、そうかな……。この大黒天ってどうして肌が黒いの?」
「大黒天はインドのマハーカーラっていう神のことなんだけど、このマハーカーラの肌が黒かったから、出世大黒天はそれを忠実に再現したんじゃないかな。マハーカーラの肌が黒い理由は知らないけど」
「凄い! 神谷君、なんでそんなに詳しいの?」
「修学旅行前にみんなで予習しておこうって言ってたでしょ? 僕は宗教や歴史をスルーして、神仏だけを勉強しておいたんだ。自分も興味があるしね。でも宗教のこととか歴史のことはさっぱり分からない。時間が足りなかったな……」
「私は受験勉強ばかりしてた。……ごめんね」
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