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第9章 修学旅行 京都編
390 それぞれの信仰心
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「じゃあ、藤城さんは何を思って神社やお寺に手を合わせているの?」
藤城皐月は二橋絵梨花から踏み込んだことを質問された。皐月は絵梨花のことを人の心にここまで立ち入ってくるような子だとは思っていなかった。絵梨花はいつもクラスメイトと一定の距離を取っていて、慎重な振る舞いで衝突を避けていた印象があった。
「俺は……ここにお参りさせてもらって、ありがとうっていう感じ。二橋さんは?」
「私は一応、どんな神様仏様が祀られているかは意識しているけど、やっぱりよくわからないで手を合わせている。自分のことは祈らないで、家族の健康を祈っているかな。真理ちゃんは?」
突然話を振られて栗林真理はビクッとした。
「うわ~っ、絵梨花ちゃんみたいに立派なこと言われたら、恥ずかしくて言いにくいな……。私は普通にお願い事をしてるよ。でも何の神様とかは意識していない。吉口さんは?」
真理は吉口千由紀にも自分と同じ質問に答えてもらおうとした。
「私も栗林さんと同じ。そもそもあまり信仰心がないから、本気でお願い事をするわけじゃないんだけどね。気休めみたいな感じかもしれない」
学校の教室で友だち同士がこんな話をすることはまずない。修学旅行で京都にいるという特殊な状況が皐月たちを高揚させていた。
皐月はみんなの神様への思いが聞けて興奮していた。女子たちも気持ちが高ぶっているように見えた。
「そろそろ本殿でお参りしようか。みんなのオリジナルなやり方で」
気がつけば本殿の前には断続的に参拝客が手を合わせに来ていた。清水寺のように混み過ぎない環境が心地よかった。
皐月は拝殿を前にして姿勢を正し、深く二度頭を下げた。手を合わせて胸の高さまで上げ、右手を少しずらして二度手を打った。パン、パンといい音が鳴った。今日はいい調子だと思った。
もう一度手を合わせ直して、ここに来られたことを主祭神の素戔鳴尊を意識しつつも、祇園の地の神、その奥にあるこの世界を作った神に感謝した。最後に深くお辞儀をして、拝殿の前を離れた。
神谷秀真と岩原比呂志が姿を見せないので、皐月たちは本殿の前で秀真と比呂志抜きの写真を撮ることにした。
絵梨花から皐月と二人の写真を撮りたいと言われ、皐月は千由紀や真理ともそれぞれツーショットの写真を撮った。真理と二人の写真なら持っているが、絵梨花や千由紀とはまだ二人で写った写真を撮ったことがない。
皐月は積極的な絵梨花、はにかむ千由紀にときめいてしまった。だが、真理の目があるのではしゃぐことはできなかった。
華やかな舞殿の前でも写真を撮った。舞殿は八坂神社の景観を象徴する舞台で、祇園のお茶屋や置屋、料亭などの名が書かれた300張を超える奉納提灯が軒下に吊り下げられている。夜になると提灯に明かりが灯り、祇園らしい情緒を醸し出す。
「うちの置屋が提灯を奉納したら『百合』って書いた提灯になるんだな。なんか変な感じ」
「私のお母さんが奉納したら『凛』の一文字だよ。もっと変」
「『りん子』ならカッコイイじゃん」
芸妓を親に持つ皐月と真理は舞殿の奉納提灯を見上げながら、今が修学旅行だということを忘れて、幼馴染に戻っていた。
「皐月。祇園に行きたくないって言うの、遅いよ」
「そうだよな……ちょっと鈍かったかも。やっぱ男と女は感じ方が違うんだな」
「私だって祇園の花街を見てみたいって気持ちはあるよ。でも、ちょっと辛いかな」
「うん。親の仕事が恥ずかしいってわけじゃないけど、花柳界にはあまり近づきたくない」
皐月たちが本殿や舞殿のまわりで思い思いのことをしていると、秀真と比呂志がさっき参拝した美御前社の隣にある、悪王子社でお参りをしていた。班長の千由紀が怒った。
「神谷君、岩原君、遅い!」
「ごめん。ちょっと疫神社にお参りしていたら、他の神社も一通り見てみたくなっちゃって……」
「全部見て来たの?」
「いや、まだ命婦稲荷社と玉光稲荷社は見ていない。でも他は全部見た。でも見てまわっただけで、全部に手を合わせてきたわけじゃないよ。これでも急いでまわってきたんだから」
「もう……」
「この埋め合わせは必ずするから、ごめんね。最後に命婦稲荷社と玉光稲荷社に行ってきてもいい?」
「いいけど、私たち先に出口まで行っているからね。本殿にもお参りして来てね」
「ありがとう。遅れないようにするから」
皐月は秀真の下手な嘘に笑いそうになった。秀真のことだから、全ての境内社に手を合わせて来たに違いない。修学旅行に来ても、自分の趣味に全振りする秀真のことを少し羨ましく思った。
藤城皐月は二橋絵梨花から踏み込んだことを質問された。皐月は絵梨花のことを人の心にここまで立ち入ってくるような子だとは思っていなかった。絵梨花はいつもクラスメイトと一定の距離を取っていて、慎重な振る舞いで衝突を避けていた印象があった。
「俺は……ここにお参りさせてもらって、ありがとうっていう感じ。二橋さんは?」
「私は一応、どんな神様仏様が祀られているかは意識しているけど、やっぱりよくわからないで手を合わせている。自分のことは祈らないで、家族の健康を祈っているかな。真理ちゃんは?」
突然話を振られて栗林真理はビクッとした。
「うわ~っ、絵梨花ちゃんみたいに立派なこと言われたら、恥ずかしくて言いにくいな……。私は普通にお願い事をしてるよ。でも何の神様とかは意識していない。吉口さんは?」
真理は吉口千由紀にも自分と同じ質問に答えてもらおうとした。
「私も栗林さんと同じ。そもそもあまり信仰心がないから、本気でお願い事をするわけじゃないんだけどね。気休めみたいな感じかもしれない」
学校の教室で友だち同士がこんな話をすることはまずない。修学旅行で京都にいるという特殊な状況が皐月たちを高揚させていた。
皐月はみんなの神様への思いが聞けて興奮していた。女子たちも気持ちが高ぶっているように見えた。
「そろそろ本殿でお参りしようか。みんなのオリジナルなやり方で」
気がつけば本殿の前には断続的に参拝客が手を合わせに来ていた。清水寺のように混み過ぎない環境が心地よかった。
皐月は拝殿を前にして姿勢を正し、深く二度頭を下げた。手を合わせて胸の高さまで上げ、右手を少しずらして二度手を打った。パン、パンといい音が鳴った。今日はいい調子だと思った。
もう一度手を合わせ直して、ここに来られたことを主祭神の素戔鳴尊を意識しつつも、祇園の地の神、その奥にあるこの世界を作った神に感謝した。最後に深くお辞儀をして、拝殿の前を離れた。
神谷秀真と岩原比呂志が姿を見せないので、皐月たちは本殿の前で秀真と比呂志抜きの写真を撮ることにした。
絵梨花から皐月と二人の写真を撮りたいと言われ、皐月は千由紀や真理ともそれぞれツーショットの写真を撮った。真理と二人の写真なら持っているが、絵梨花や千由紀とはまだ二人で写った写真を撮ったことがない。
皐月は積極的な絵梨花、はにかむ千由紀にときめいてしまった。だが、真理の目があるのではしゃぐことはできなかった。
華やかな舞殿の前でも写真を撮った。舞殿は八坂神社の景観を象徴する舞台で、祇園のお茶屋や置屋、料亭などの名が書かれた300張を超える奉納提灯が軒下に吊り下げられている。夜になると提灯に明かりが灯り、祇園らしい情緒を醸し出す。
「うちの置屋が提灯を奉納したら『百合』って書いた提灯になるんだな。なんか変な感じ」
「私のお母さんが奉納したら『凛』の一文字だよ。もっと変」
「『りん子』ならカッコイイじゃん」
芸妓を親に持つ皐月と真理は舞殿の奉納提灯を見上げながら、今が修学旅行だということを忘れて、幼馴染に戻っていた。
「皐月。祇園に行きたくないって言うの、遅いよ」
「そうだよな……ちょっと鈍かったかも。やっぱ男と女は感じ方が違うんだな」
「私だって祇園の花街を見てみたいって気持ちはあるよ。でも、ちょっと辛いかな」
「うん。親の仕事が恥ずかしいってわけじゃないけど、花柳界にはあまり近づきたくない」
皐月たちが本殿や舞殿のまわりで思い思いのことをしていると、秀真と比呂志がさっき参拝した美御前社の隣にある、悪王子社でお参りをしていた。班長の千由紀が怒った。
「神谷君、岩原君、遅い!」
「ごめん。ちょっと疫神社にお参りしていたら、他の神社も一通り見てみたくなっちゃって……」
「全部見て来たの?」
「いや、まだ命婦稲荷社と玉光稲荷社は見ていない。でも他は全部見た。でも見てまわっただけで、全部に手を合わせてきたわけじゃないよ。これでも急いでまわってきたんだから」
「もう……」
「この埋め合わせは必ずするから、ごめんね。最後に命婦稲荷社と玉光稲荷社に行ってきてもいい?」
「いいけど、私たち先に出口まで行っているからね。本殿にもお参りして来てね」
「ありがとう。遅れないようにするから」
皐月は秀真の下手な嘘に笑いそうになった。秀真のことだから、全ての境内社に手を合わせて来たに違いない。修学旅行に来ても、自分の趣味に全振りする秀真のことを少し羨ましく思った。
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