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命の花
子の為に散らすは命の花
しおりを挟む領域内に明確な敵が居なくなると、化物の食指は剣合国軍や飛蓮に向いた。
首だけをキキキ! と回して獲物を一瞥するや、腰が抜けている彼等に嗤い掛ける。
「そ、そんな……。まさか……俺達まで!?」
「涼周殿……どうしちゃったっていうの……目を覚ましなよ!」
全てを殺し尽くしても飽きないだろう邪悪な面が、そこにはあった。
だが、そこから先に予想される悲劇を、父であるナイトが止める。
致命傷を負って尚、化物の前に立ちはだかり、自我を失った爪の斬撃を拳一つで払い除けながら、一歩一歩駆け寄っていった。
「おおおぉぉぉっ!!!」
「父上、なにを……!? その体では無茶です!?」
「と、殿!? お止めください! 涼周様はもう……」
「黙れっ!! いま俺が救わねば、誰が涼周を助けてやれる!! 誰がっ!!」
曲げられない圧倒的父性がナイトの中で爆発し、血を吐き出しながら猛進させる。
躊躇いのない無数の斬撃をものともせず、精神に作用する悪魔の嗤い声を怒号で掻き消し、自慢にして最強・鋼の肉体を躍動させる。
「ここで見捨てれば涼周は死ぬ!! 文字通り “死神” になってだ!! この俺が――ぐっ!?」
「「「殿ォォォーーー!?」」」
正面からの攻撃を全て弾くナイトの背中を、黒霧を介して魔力の爪が切り裂いた。
化物は冷酷な笑みを浮かべながら、足の止まったナイトを追撃する。
とっくに生命の限界を超えている相手であっても容赦せず、畳み掛けるような爪の斬撃を無数に繰り出しては、その悶え苦しむ様子に唇を嘗めるのだ。
「がはっ!? ……待ってろよ、涼周! そんな事は……俺が……俺が絶対にさせんからな!! 例え天地をひっくり返して天命に逆らってでも、お前の存在理由を――」
ナイトは命を捨てようとも諦めない。
今一度精神を集中させ、四方から迫り来る斬撃の全てを把握するや、化物の目に残る涼周の色を、希望の一欠片に咆哮を上げる。
「そんな汚物に……してたまるかぁぁーーー!!!」
最後の力を振り絞り、魔法大剣・王道を発動させた。
斬撃・悪霧を浄化する閃光が一帯を席巻し、化物の笑みに待ったをかける。
「――!?」
次の一瞬で、ナイトは化物までの距離を一気に詰めた。
盛大に面食らった化物は嗤う暇もなく、真顔となり、至近距離まで近付いたナイトに自らの爪を突き刺そうとする。
だが、先の閃光で邪気を削がれた為に弱体化を招いた化物の腕は、ナイトによって容易に掴まれてしまった。
「返してもらうぞ! 俺の子をォォ!!」
化物が危機感を覚えたと同時。今ならば問題ないと判断したナイトは、未だ敵意の冷めやまぬ化物を強く強く抱き締めた。我が子の無事を願う親の如く。
「!!? ヤ、ハナセ! ……ハナセェ!!」
「ふっはは! 暴れるな暴れるな。もう、それほどお前を、愛してやれなくなるんだ。嫌でも……最期までは抱き締めるぞ! お前は……俺の子供なんだからな」
「ゥゥーー!! ダマレ、ダマレダマレ!! ミンナコロス! コロシタイッ!!」
「そんなに殺して……何になる。無人の天下で……一人寂しく、飯を食らうのか?」
「コロシタイカラコロス!! シニタクナイカラ、コロシテク!!」
「……心配するな。誰もお前を、殺させない。お前はただ、優しく、笑っていればそれで良い。無理に殺す必要なんか無いのだ。お前には……その才能がある。溢れんばかりの “仁” と、“信” を持つ、俺の子だからな」
流れ出るジオ・ゼアイの血を顔面に擦り付けるように、化物の頭を抱き寄せるナイト。
動きを封じられた化物はナイトの腹にかぶりつき、凄まじい激痛を与えながら血肉を喰らうも、それでもナイトは抱き締める事を止めなかった。
半ば強制的に血を飲ませ、ジオ・ゼアイの血の力で涼周の魔力暴走を中和させようとした。沛国で始めて会った時にそれが可能だったのだから、命を懸けた今が不可能な訳はない。己の命を引き換えにしてでも、ナイトは親として子を守らんとした。
「ゥ…………オトウ……サン? オトウサン……ノ……チ」
得も言えぬ血の味を堪能した化物は、暫くして落ち着きを取り戻し、表情も和らいで涼周の色を見せ始めた。
脳裏に思い描かれる過去の邂逅が既視感を覚えさせ、肉体が驚天の至りにつき、目を白黒させた人間らしい色だった。
「どうだ、涼周。俺の血は……旨いか?」
「リョウ……シュウ……リョウシュウ。涼周……は……」
(姿が戻っていく!? 父上の想いが伝わったのか!?)
「涼……シュウハ……!? …………ダメ……ィヤ……イヤヤ!」
暴走していた魔力が治まりを見せ、爪も瞳も元に戻っていくのも束の間。
内から込み上げてくる地獄の感情に、涼周の心は再び支配されそうになる。
「失せろ……!!! 封印された魔獣ごときが、この子の姿でものを語るな……!!!」
ナイトは間髪入れず、魔力を纏わない素の威圧を以て、空間を抉るような重圧を化物だけに零距離で浴びせる。一人の親としての恫喝は、化物に物怖じを覚えさせた。
その余波は周囲に控えるナイツや飛蓮らにもビシビシ!! と伝わり、精神に直接作用して身を強張らせる程だった。
「…………もう大丈夫だ、涼周。よく……頑張ったな」
「ぅっ……うぅ……! おとーさん、涼周……涼周……!」
「言うな。言う程のものではない」
「……ごめんなさい。涼周が……約束、破ったから……! おとーさんやにぃにの事、信じて……待たなかったから……!! ……ごめんなさい……!!」
「“約束”……か。そういえば……していたな……」
「父上ッ!!」「ナイト殿!」「殿ォォッ!!」
涼周が泣き崩れ、つられる形でナイトが倒れると同時。離れた場所から固唾を呑んで見守っていたナイツ達が一斉に駆け寄った。
「ふっはは……すまんな、皆。……さすがにもう……無理だ」
「父上! 何を弱気な! まだ大丈夫です! 父上はこんな事で死にはしません!!」
「おいおい……息子よ。心臓抉られて魔力も尽きれば……如何に俺でも……」
「それは人間の話です! 父上は自分を人間だと思っているのですか!?」
「おい、ぶっ飛ばすぞ。こんなんでも一応人間だ。幾つも心臓がある訳ないだろう。……バカ言ってないで聞け。俺の死後は……」
「バカは父上です! 死んだ後の話なんか――」
「いいから、黙って聞け」
「っ!? ……はい」
諭すように睨まれて漸く、感情を爆発させたナイツは冷静の二文字を思い出した。
ナイトは事ここに至ってと言うのもおかしな話だが、死人の相を纏いながら語り出す。
「……俺の死後、ナイツは剣合国を継承し、涼周は梅朝を拠点に独立しろ。詳しい内容は、軍師に伝えてある。兄弟仲良く、支え合って……ナイツは西に……涼周は東へ向かえ。そしてお前達の手で、この世界を再統一するんだ」
「……世界統一。祖・アールアと同じように……」
「ふっはは……同じかどうかは、お前達による。出来うる事なら、修羅の道は俺が通ってやりたかったが……それも無理となった今、託すしかない。想像を絶する、過酷な道となるだろうが……頼んだぞ」
「……はい。わかりました。父上の志、確かに継承します!」
「よし。……涼周も」
「ぐすっ……ぅっ、んぅぅ。……おとーさん……!」
「涼周、泣くな。お前は何も悪くない。お前が悔やむ事なんて……最初から無かったんだ。……もし俺が生きて……お前が死んだら、俺は俺を絶対に許さん。だから生きて、命を繋いでくれ。そして溢れんばかりの『仁』と……全ての仲間へ向ける『信』を……この二文字を、決して忘れるな」
「……ぅぅ……うぅー! おとぅさん……!」
泣きじゃくるばかりの涼周を、姉の飛蓮があやしてやる。
優しく諭し、寄り添うように決意を促して漸く、涼周は理解した。
その光景に安堵したナイトは笑みを浮かべるや、静かにその時を悟る。
だが、このまま逝くのは彼に非ず。彼は最期の最後まで、ナイト節を貫こうとした。
「ふっはは! ……それにしても……ナイツをいつか泣かせてやる……と企んでいたのに……最期まで泣かんとは。……本当に、遊び甲斐のない息子め」
輝く筋肉1「コノムスコメェ~」
輝く筋肉2「アソビガイネェナァ~」
「…………もう一度言います。こんな時までバカな事しないでください」
「一度目は言ってないだろ。それに、馬鹿ではなくアホだ」
「ならアホな事しないでください」
「ふっはは……断る! それをやめたら、俺は俺でなくなるからな」
「……どういう事ですか、理解できません。なぜ父上は……」
この期におよんで何をしているのか、この大将は……と、他の者も思っただろう。
ナイツの疑問は至極当然のものだった。
それと同じく、対するナイトの主張もまた、彼の中では至極当然である。
「なぜかって? 決まっているだろう……敵も味方も笑わせたら……それは俺の勝ちだからだ。だから……笑え、ナイツ。せめてお前だけでも笑わねば、この戦は俺達の負けだ」
「っ! …………はぁ……。まったく、泣けと言ったり、笑え……と言ったり。やはり父上は……アホですよっ……! 世界一アホすぎてどうすれば良いか、理解できません……!」
(ふっ……やっとか)
常日頃から父親の為に泣いたら負けと思っている自分が、泣きながら笑うなんて芸当が出来るわけない。ナイツはそう思っていた。
然し今、そんなナイツの笑みに一筋の涙が滴った。
ナイトは満足げに微笑むと、ゆっくり天を仰ぎ見る。
(奥も……笑えよ。お前が嫌いな雨は……もう止んだ)
貴幽が逃げ帰ったからか、はたまたナイト節の力のお陰か。
戦場を冷たく包んだ雨は止み、雲の切れ間から射し込む陽光がナイトを照らす。
「……父上? 父上っ! 父上ェェェーーー!!!」
それが最期の最後となって、ナイトは逝った。
愛するキャンディとの “約束” を守りながら。
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