生死のサカイ

柴王

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29、茜の遠い思い出

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「ふあー。おはようアオイ」

「ああ、おはようアカネ」



 寝起きの眠い目をこすりながら時計を見ると、時刻は午前7時。わたしは顔を洗ってからコーヒーを淹れる。



 秋津くんの依頼を達成した日、わたしは心身の疲労から倒れるように眠ってしまい、起きたのが次の日の夕方だった。一応次の依頼があったみたいだけど、アオイもその日はわたしに休むように言ってくれて、依頼人に会うのはその次の日、つまり今日ということになった。



「体の調子はどうだい? アカネ」



 わたしがアオイの向かいのソファーに座ると、アオイは読んでいたマンガから目を離して聞いてくる。



「もう、ばっちりだよ! むしろ前より何かしらが強くなった気がする!」



 わたしは無い力こぶを見せつけながら返事をする。



「そうか。それならなによりだ。今日の依頼にも全力で当たれそうだね」



 そう言うとアオイはまた目線をマンガに向け直す。



「そんなツーンとした態度とってもわたしはもう分かってるからね。アオイはほんとは依頼なんか関係なくわたしの体を心配してくれてるってね!」



 アオイはぷいっとわたしと逆方向に向いてマンガを読み続ける。



「またまた照れちゃって~」



 わたしはアオイのお腹をくすぐる。



「! やめろアカネ! はははは!」



 アオイは体をひねってわたしのくすぐりから脱出して逃げる。



「あ、待て待て!」



 わたしは逃げるアオイを追う。



「やめろ! こっちにくるな!」

「いやですー!」



 わたしたちは家の中を走り回る。今の家は昔わたしが両親と過ごしていた家なので、一人暮らしにしてはやたら広い。高校生が言うことじゃないけど、おにごっこには困らない。



「待てー! …………! あ、アオイ危ない!」



 わたしは後ろを見ながら走るアオイがタンスに突っ込みそうになっているのを見てアオイに声をかける。



「え? へぶっ!」



 が、時すでに遅しだった。アオイはわたしが聞いたこともないような声を発しながらタンスに衝突した。



「だ、大丈夫アオイ!?」



 わたしはすぐさまアオイに駆け寄る。



「うう……だい、じょう、ぶ、だ!」

「え?」



 アオイは反撃とばかりにわたしのお腹をくすぐる。



「よくもやってくれたな!」

「あははははは! ごめん、ごめんなさい!」



 アオイのくすぐりは1分以上続き解放されたときにはわたしはくたくたになっていた。



「はあ、はあ…………。…………ん?」

 わたしはわたしをくすぐっていたアオイの後ろに何かを見つける。



「なんだろ、これ?」



 わたしは立ち上がって確認する。どうやら、アオイがぶつかった時にタンスから落ちてきた物らしい。



「『かたたたきけん』? しかも二枚ある。…………これってたぶん、昔わたしがお父さんとお母さんにプレゼントしたものだよね。いつプレゼントしたんだっけ…………?」



 わたしはそこで、後ろから感じる冷たい視線に気がつく。



「アカネ…………!」

「あ、アオイ…………。ご、ごめんなさい…………!」



 アオイはわたしに背を向ける。



「絵本は後だ。さっそく依頼人に会いに行くよ、アカネ」

「はーい…………。」



 わたしは肩たたき券をとりあえず机の上に置いて、アオイに言われるがまま準備をして外に出かけることにした。
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