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第四部 サムスピジャポン編
96 ハンゾウの最期
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「ハンゾウ……すぐ楽にしてやるでござる。」
静かなる怒りを胸に、神気を解放したイモコの髪は、その怒りを表すように逆立っていた。
まさに怒髪天を衝くとはこの事だろう。
なぜここまでイモコは怒っているのか?
それは傀儡化というものをよく知っているからだった。
傀儡化する際、それは意思が強い者程、長時間苦痛を受け続けるのである。
例え魅了化された状態であっても、それは変わらない。
イモコとハンゾウは昔からの知り合いであり、共に何度も死線を潜ってきた戦友だった。
その為、イモコはハンゾウがどれほどこの国を思っているのか、そしてその意思がどれだけ強いのかを知っている。
そんなハンゾウが傀儡化を施されたのであれば、それはどれ程の地獄であっただろうか。
傀儡化するには精神を破壊しなければならない。
つまりハンゾウは、あらゆる苦しみと痛みの末に傀儡化されたという事なのだ。
それを許せる程、イモコの心は優しくない。
「……僕チンを殺すでごじゃる。」
「ハンゾウ! お主、意識が!?」
ハンゾウとの戦いの中、突然ハンゾウの顔が人の顔に戻る。
それはイモコの良く知る素顔だった。
それに驚いたイモコは、一瞬だけ動きが止まると、そこにハンゾウが投げた手裏剣が刺さる。
「ぐっ! 卑怯でござる!」
イモコが受けた傷はかすり傷程度のものであったが、すぐ体に違和感を感じた。
そしてそれが何か直ぐに理解する。
【毒】だ。
「油断したでごじゃるな。」
「この位、お主か受けた痛みに比べたら、屁でもないでござるよ!」
余裕の笑みを浮かべるハンゾウに、イモコは再度接近してその体を斬りつけた。
そして再びハンゾウは蘇る。
如何にステータスに差があろうとも、変わり身の術が使える内はハンゾウを倒すことはできない。
だが今の一撃で、イモコは不思議な手ごたえを感じた。
さっきまでとは何か違う物を斬った感触が手に残る。まるでロゼの呪いの鎖を斬った時のような……
(まさか! 体内にある魔石との繋がりでござるか!?)
イモコは気づいた。
もしそれが事実であるならば、ハンゾウの精神を解放する事が可能かもしれない。可能性の域を出ない予想ではあるが、可能性がある限り、それに一縷の望みをかける価値はあった。
イモコは目を閉じる。そして意識をハンゾウに集中させた。
するとハンゾウの体から、今まで見えなかった邪悪な何かが見える。それはまるで蠢く虫のような存在。それが今ハンゾウと魔石を繋いでいる呪いの正体だ。
そこからイモコは何度もハンゾウを斬り伏せていく。
当然ハンゾウもただやられている訳ではなく、土遁の術、水遁の術、火遁の術……あらゆる術や技を駆使して反撃した。
だが神気を解放したイモコにダメージを与えられる訳がない。その全てはイモコの刀によって、その身もろとも斬り伏せられてしまう。
……とはいえ、イモコとて決して楽なわけではなかった。
ハンゾウから受けた毒は、未だにその体を蝕んでいる。神気によって少しづつ回復はしているが、それでも常人であればもがき苦しむ程の痛みに耐えながら戦っていたのだ。その様子を微塵たりとも見せずに。
イモコはただハンゾウを斬っていたわけではない。
ハンゾウを斬る度、心眼によって見える呪いも一緒に斬り伏せていた。
身代わりの術を使っていても、呪いまでは身代わりにできないようで、ハンゾウに少しづつだが意識が戻ってきているように感じた。
「残り1……でごじゃる。」
今まで殆ど口を開かなかったハンゾウが、短い言葉を口にする。その言葉を聞いて、イモコは確信した。
間違いなくハンゾウの傀儡化は弱まっていると。……であれば助けられるかもしれない。
「もう少しの我慢でござる。」
イモコはそれだけ口にし、再びハンゾウを斬り伏せようと接近するも、なんとハンゾウはそのまま動く事をせずにイモコにその身を斬られた。
イモコの手に確かに感じる手応え。
今の一撃でハンゾウと魔石の繋がりを完全に断ち切った。
「見事でごじゃる。お蔭で意識が戻ったでごじゃるよ。」
「ハンゾウ! お主!」
ハンゾウの言葉を聞き、イモコは倒れ込むハンゾウを抱きかかえた。どうやらハンゾウは完全に傀儡化から解放されたようだ。その姿は蛙顔ではなく、高齢の人間の顔である。
「最後に人として死ねる事を嬉しく思うでごじゃるよ。イモさん。」
「何を言うでござるか! 傀儡化から解放されたのであれば、これからも生きていけるでござるよ!」
珍しく弱気なハンゾウを見て、イモコは勇気づけようとするが……
「相変わらず優しいでごじゃるな。イモさんは。しかし、僕チンの命はもうわずか。魔石から命が供給されなくなった今、後は朽ちるだけでごじゃる。」
(はっ!?)
その時イモコはその言葉の意味を理解した。確かに魔石と呪いで繋がっている限り傀儡化からは逃れられない。だが、それと同時に心臓の代わりに動いていた生命活動もまた、魔石との繋がりによって維持されているもの。それであれば……
イモコは悟った。
もうハンゾウは助からないと。
すると言葉の代わりに、その瞳から涙が零れ落ちる。
「涙は大将軍には似合わないでごじゃる。いつも通り、勇ましく胸を張るでごじゃるよ。そして僕チンの最後の雄姿を見届けるでごじゃる。奴に……妲己に一矢報いるでごじゃる。」
ハンゾウはそういうと、現在カリーと交戦を続けている妲己の下へ移動する。その姿が消えた瞬間、ハンゾウは妲己の背中にくっついた状態で現れた。
「ハンゾウ!? なぜ妾に触れられるでありんすぇ?」
妲己は突然現れたハンゾウが自身に触れられた事に驚いていた。
なぜならば、妲己の体には何人も触れる事ができないカラクリがある。それこそが、いくらカリーが攻撃してもダメージを負わなかった秘密だった。
「お主のこの術を破る為、僕チンはやっと手に入れたでごじゃるよ。この封魔の札を。」
ハンゾウはサイトウの記憶を手に入れた時、妲己の本当の力を知った。その為、傀儡化される前に、自らの体に妲己の力を破る札を仕込んでいたのである。
「離れるでありんす! 虫けら風情が!」
必死にハンゾウを振り払おうとするが、ハンゾウは離れない。既に封魔の札はハンゾウと妲己の間に張りついているため、どうやっても二人の体が離れることはなかった。
「さよなら……イモさん」
その言葉と同時に大爆発するハンゾウ。
「ハンゾウぅぅぅぅぅーー!」
それを見て叫ぶイモコ。
そして爆風が消えた後、そこに残っていたのは服がボロボロになってしまった妲己だけだった。
だが見た目以上に妲己にダメージはない。
その身を犠牲にしてまで行った自爆であったが、妲己の体には届かなかったのだ。
しかしそれは、ハンゾウも分かっていた事。
なぜならば、ハンゾウが狙ったのは妲己の着ている服であったからだ。
その服こそ、空蝉の効果が付与されたもので、あらゆる攻撃を無効化させるもの。
当初ハンゾウは妲己の本体をそこに感じても、そこには存在していないと思っていた。
これは半分当たっており、半分間違っている。
妲己は間違いなくそこにいたのだ。
ただ、その体の中身だけが亜空間に置かれていたのである。
つまりいくら妲己を攻撃しても妲己の体には傷一つ付けることはできない。
それ故にその服を破壊するためにハンゾウが用意したのが、封魔の札だ。
その札によって服の存在をこの世界につなぎ止め、そしてそれを爆発によって破壊したのである。
あっぱれハンゾウ。
彼は最後の一撃によって、仲間達に戦う手段を与えてくれた。
その死は決して無駄ではない。
そして虫けらだと思っていた雑魚に、無敵の衣装を破壊された妲己は怒り狂う。
「おのれ、おのれ、おのれ!! 虫けらの分際でよくも妾のお気に入りの服を……!」
「おいおい、さっきまでの余裕はどうしたよ、絶世の美女さん?」
怒りに我を失ったように叫ぶ妲己を見て、カリーが挑発をする。
「妾に向かって舐めた口をきくなでありん……す?」
【羅刹斬】
カリーからの挑発を受け、目線をそっちに映した瞬間、妲己の胴体が上と下で真っ二つになった。
その後ろには刀を振り抜いたイモコが立っている。
「地獄で後悔するでござる。腐れ外道。」
飛び散る血潮。
そこに「チンッ」という剣を鞘に納めた音が鳴り響く。
ここにハンゾウの仇は討たれた。
ーーーそう誰もが思った次の瞬間だった……。
静かなる怒りを胸に、神気を解放したイモコの髪は、その怒りを表すように逆立っていた。
まさに怒髪天を衝くとはこの事だろう。
なぜここまでイモコは怒っているのか?
それは傀儡化というものをよく知っているからだった。
傀儡化する際、それは意思が強い者程、長時間苦痛を受け続けるのである。
例え魅了化された状態であっても、それは変わらない。
イモコとハンゾウは昔からの知り合いであり、共に何度も死線を潜ってきた戦友だった。
その為、イモコはハンゾウがどれほどこの国を思っているのか、そしてその意思がどれだけ強いのかを知っている。
そんなハンゾウが傀儡化を施されたのであれば、それはどれ程の地獄であっただろうか。
傀儡化するには精神を破壊しなければならない。
つまりハンゾウは、あらゆる苦しみと痛みの末に傀儡化されたという事なのだ。
それを許せる程、イモコの心は優しくない。
「……僕チンを殺すでごじゃる。」
「ハンゾウ! お主、意識が!?」
ハンゾウとの戦いの中、突然ハンゾウの顔が人の顔に戻る。
それはイモコの良く知る素顔だった。
それに驚いたイモコは、一瞬だけ動きが止まると、そこにハンゾウが投げた手裏剣が刺さる。
「ぐっ! 卑怯でござる!」
イモコが受けた傷はかすり傷程度のものであったが、すぐ体に違和感を感じた。
そしてそれが何か直ぐに理解する。
【毒】だ。
「油断したでごじゃるな。」
「この位、お主か受けた痛みに比べたら、屁でもないでござるよ!」
余裕の笑みを浮かべるハンゾウに、イモコは再度接近してその体を斬りつけた。
そして再びハンゾウは蘇る。
如何にステータスに差があろうとも、変わり身の術が使える内はハンゾウを倒すことはできない。
だが今の一撃で、イモコは不思議な手ごたえを感じた。
さっきまでとは何か違う物を斬った感触が手に残る。まるでロゼの呪いの鎖を斬った時のような……
(まさか! 体内にある魔石との繋がりでござるか!?)
イモコは気づいた。
もしそれが事実であるならば、ハンゾウの精神を解放する事が可能かもしれない。可能性の域を出ない予想ではあるが、可能性がある限り、それに一縷の望みをかける価値はあった。
イモコは目を閉じる。そして意識をハンゾウに集中させた。
するとハンゾウの体から、今まで見えなかった邪悪な何かが見える。それはまるで蠢く虫のような存在。それが今ハンゾウと魔石を繋いでいる呪いの正体だ。
そこからイモコは何度もハンゾウを斬り伏せていく。
当然ハンゾウもただやられている訳ではなく、土遁の術、水遁の術、火遁の術……あらゆる術や技を駆使して反撃した。
だが神気を解放したイモコにダメージを与えられる訳がない。その全てはイモコの刀によって、その身もろとも斬り伏せられてしまう。
……とはいえ、イモコとて決して楽なわけではなかった。
ハンゾウから受けた毒は、未だにその体を蝕んでいる。神気によって少しづつ回復はしているが、それでも常人であればもがき苦しむ程の痛みに耐えながら戦っていたのだ。その様子を微塵たりとも見せずに。
イモコはただハンゾウを斬っていたわけではない。
ハンゾウを斬る度、心眼によって見える呪いも一緒に斬り伏せていた。
身代わりの術を使っていても、呪いまでは身代わりにできないようで、ハンゾウに少しづつだが意識が戻ってきているように感じた。
「残り1……でごじゃる。」
今まで殆ど口を開かなかったハンゾウが、短い言葉を口にする。その言葉を聞いて、イモコは確信した。
間違いなくハンゾウの傀儡化は弱まっていると。……であれば助けられるかもしれない。
「もう少しの我慢でござる。」
イモコはそれだけ口にし、再びハンゾウを斬り伏せようと接近するも、なんとハンゾウはそのまま動く事をせずにイモコにその身を斬られた。
イモコの手に確かに感じる手応え。
今の一撃でハンゾウと魔石の繋がりを完全に断ち切った。
「見事でごじゃる。お蔭で意識が戻ったでごじゃるよ。」
「ハンゾウ! お主!」
ハンゾウの言葉を聞き、イモコは倒れ込むハンゾウを抱きかかえた。どうやらハンゾウは完全に傀儡化から解放されたようだ。その姿は蛙顔ではなく、高齢の人間の顔である。
「最後に人として死ねる事を嬉しく思うでごじゃるよ。イモさん。」
「何を言うでござるか! 傀儡化から解放されたのであれば、これからも生きていけるでござるよ!」
珍しく弱気なハンゾウを見て、イモコは勇気づけようとするが……
「相変わらず優しいでごじゃるな。イモさんは。しかし、僕チンの命はもうわずか。魔石から命が供給されなくなった今、後は朽ちるだけでごじゃる。」
(はっ!?)
その時イモコはその言葉の意味を理解した。確かに魔石と呪いで繋がっている限り傀儡化からは逃れられない。だが、それと同時に心臓の代わりに動いていた生命活動もまた、魔石との繋がりによって維持されているもの。それであれば……
イモコは悟った。
もうハンゾウは助からないと。
すると言葉の代わりに、その瞳から涙が零れ落ちる。
「涙は大将軍には似合わないでごじゃる。いつも通り、勇ましく胸を張るでごじゃるよ。そして僕チンの最後の雄姿を見届けるでごじゃる。奴に……妲己に一矢報いるでごじゃる。」
ハンゾウはそういうと、現在カリーと交戦を続けている妲己の下へ移動する。その姿が消えた瞬間、ハンゾウは妲己の背中にくっついた状態で現れた。
「ハンゾウ!? なぜ妾に触れられるでありんすぇ?」
妲己は突然現れたハンゾウが自身に触れられた事に驚いていた。
なぜならば、妲己の体には何人も触れる事ができないカラクリがある。それこそが、いくらカリーが攻撃してもダメージを負わなかった秘密だった。
「お主のこの術を破る為、僕チンはやっと手に入れたでごじゃるよ。この封魔の札を。」
ハンゾウはサイトウの記憶を手に入れた時、妲己の本当の力を知った。その為、傀儡化される前に、自らの体に妲己の力を破る札を仕込んでいたのである。
「離れるでありんす! 虫けら風情が!」
必死にハンゾウを振り払おうとするが、ハンゾウは離れない。既に封魔の札はハンゾウと妲己の間に張りついているため、どうやっても二人の体が離れることはなかった。
「さよなら……イモさん」
その言葉と同時に大爆発するハンゾウ。
「ハンゾウぅぅぅぅぅーー!」
それを見て叫ぶイモコ。
そして爆風が消えた後、そこに残っていたのは服がボロボロになってしまった妲己だけだった。
だが見た目以上に妲己にダメージはない。
その身を犠牲にしてまで行った自爆であったが、妲己の体には届かなかったのだ。
しかしそれは、ハンゾウも分かっていた事。
なぜならば、ハンゾウが狙ったのは妲己の着ている服であったからだ。
その服こそ、空蝉の効果が付与されたもので、あらゆる攻撃を無効化させるもの。
当初ハンゾウは妲己の本体をそこに感じても、そこには存在していないと思っていた。
これは半分当たっており、半分間違っている。
妲己は間違いなくそこにいたのだ。
ただ、その体の中身だけが亜空間に置かれていたのである。
つまりいくら妲己を攻撃しても妲己の体には傷一つ付けることはできない。
それ故にその服を破壊するためにハンゾウが用意したのが、封魔の札だ。
その札によって服の存在をこの世界につなぎ止め、そしてそれを爆発によって破壊したのである。
あっぱれハンゾウ。
彼は最後の一撃によって、仲間達に戦う手段を与えてくれた。
その死は決して無駄ではない。
そして虫けらだと思っていた雑魚に、無敵の衣装を破壊された妲己は怒り狂う。
「おのれ、おのれ、おのれ!! 虫けらの分際でよくも妾のお気に入りの服を……!」
「おいおい、さっきまでの余裕はどうしたよ、絶世の美女さん?」
怒りに我を失ったように叫ぶ妲己を見て、カリーが挑発をする。
「妾に向かって舐めた口をきくなでありん……す?」
【羅刹斬】
カリーからの挑発を受け、目線をそっちに映した瞬間、妲己の胴体が上と下で真っ二つになった。
その後ろには刀を振り抜いたイモコが立っている。
「地獄で後悔するでござる。腐れ外道。」
飛び散る血潮。
そこに「チンッ」という剣を鞘に納めた音が鳴り響く。
ここにハンゾウの仇は討たれた。
ーーーそう誰もが思った次の瞬間だった……。
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