この世界に絶望して死んだ俺は、精霊となって神と共に完璧な世界を創ることにする。

キミちゃん

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第一章:アナザーニューワールド

14 死んだわ

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 遙か彼方まで広がる牧草地帯。そこには静かに、そして穏やかに暮らす温和な種族の馬族達が暮らしていた。
 馬族の国は、国土が広大であるものの、大きな町や王族といった者もおらず、国としての法律やルールは存在していない。

 各地域に点々と集落や村が形成されており、その集落毎にルールがある程度で、それでも争いのような事は滅多に起こらなかった。馬族は皆、穏やかな性格であり、農業や小さな商業のみを行い、自然の摂理に従って生きている。

 そんな平和な馬族の国には、時として他種族が攻めてくることがあった。しかし、馬族は馬力が凄いため、その戦闘能力は高い。故に、国として軍などは持たないが、各自治体ごとに自警団や自衛隊などと言った防衛部隊が存在し、多種族の侵攻から守っている。

 そして今、そんな長閑で平和な国のとある場所で、広大な土地を颯爽……というよりも驚異的なスピードで駆け抜ける者がいた。


「あぁぁ、おぉぉぉー! どぉーまぁーでぇー! じぬ! 死ぬ! マジでおぢる! だのむから、ぞぐどをおどしでぐれーー!」


 そうブライアンである。
 俺は、その速さによる風圧でまともに喋る事ができず、言葉にならない決死のシャウトを草原に響かせている。

 通常サラブレッド馬の走行速度は、時速60から70キロ。
 ギネス記録でも最高速度は時速88キロである。
 しかし、馬族が馬化した時の速度はこれを大きく上回り、時速120から160キロであった。

 中でも人族とのクォーターのブライアンは、自分では気づいていないが、土の精霊の加護を持ち、重力を自然に操ることができるため、その速度は時速300キロを優に超えている。
 
 それに乗っている俺は、ボディも風除けもないスーパーカーに乗っている様なもので、乗馬経験があるなしにかかわらず、しがみ付くだけで精一杯であった。
 そんな暴れ馬に未だに振り落とされずにいるのは、偏にバスケで鍛えた下半身の筋肉と並外れた体幹の良さのおかげ。しかし既に俺の限界は超えていて、少しでも気を抜けば振り落とされる危険な状態であった。


「シン! もうすぐ目的の森に着くニャ! 頑張るニャ! 気を強く持つニャ! あと少しニャ!」


 俺のシャツの中にいるアズは、風の影響を受けておらず、必死に俺の心が折れないように元気づけていた。
 だが当の俺には、ブライアンの風を切る音しか聞こえておらず、全神経を筋肉に回しているため、その声は聞こえない。

 だがしかし、息も絶え絶えなデスタイムにもやがて終わりはくる。
 牧草地帯を抜けた先に、遠くからもその存在感が分かるほどの巨大な木が見え始めたのだ。
 そこは、その巨木を中心に樹海のような森が広がっている。流石にブライアンも、森の中をこのスピードで爆走する事は出来るはずもなく、もうすぐ減速……しなかった。


「おッ! おぉぉ! おうおう! うおぉぉぉぉぉ!!」


 ブライアンはあまりの快感から無心となっていた。故に、当然前など見てもいない。つまりどうなるかと言うと……。


 そのままの勢いで森に突っ込んで行った。


 ドォォーーーン!!


 ブライアンが、直線上に聳え立つ大きな木におもっきり衝突すると、とてつもない衝撃音が辺りに響き渡る。
 そして、森が見えた事で気が緩んだ俺は、ブライアンにしがみ付く力が緩めてしまった。その為、飛び降りる事もできずにダイレクトに特大な衝撃を受けると、空高くに舞い上がる。


「ギャーー!! ア“ア”ア“ーーーー!!」


 あ、死んだわこれ。


 俺は生まれてから転移するまでの思い出が脳裏に流れ始める。まさに走馬灯だ。そしてそのまま俺は、木々の枝葉をなぎ倒しながら吹っ飛んでいき、意識を手放した。

 しかしこの時幸運だったのは、太い枝等にぶつかることなく、大きな葉が連続した事。それと幸運な事に、背中のバックパックがうまくクッションになってくれて、直接木にぶつかる事が無かった。

 吹き飛ぶ勢いが次第に減速していくと、俺はそのまま落下し、タイミングよくバックパックに枝がひっかかる。その姿は、まるでベランダの物干し竿に引っ掛けてある洗濯物のようだった。

 とはいえ、あれだけの事故があったにも関わらず、致命傷となる傷は一切ない。
 あるのは、小さな枝による切り傷だけ。正に超幸運と言えよう。
 だが既に俺の脳は、意識をシャットダウンしているのであった。
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