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ようやく一通り挨拶も済んだところで、ナディアはげっそりとしながら、椅子に腰を下ろした。
それを隣でハロルドが冷たく見下ろしている。
「まだ来たばかりだというのに、なにをそんなに疲れているんだ」
「だ、だって……ハロルド様は大勢に囲まれるのにも慣れていらっしゃるでしょうけど、私は違うんですもの。
もうこれだけで、力を使い果たした気分です……」
「……ったく」
なんと言われても、しばらく立ち上がれそうにない。
緊張していたせいで、のどがカラカラだ。
ひいひい言いながら、ナディアは喘いでいたのだったが、不意に目の前にグラスが差し出されたものだから、驚いて顔を上げた。
まさか冷たい態度を取りながらも、ナディアを気遣ったハロルドが飲み物を持ってきてくれたのかと思ったのである。
しかし、そんなはずはなかった。
立っていたのは、見たことのない青年だった。
深い緑色の瞳をまっすぐにこちらに向けて微笑んでいる。
「顔色が悪いですよ。
良かったら、どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
おずおずとグラスを受け取ると、ナディアは頬を赤らめた。
そしてグラスに口をつけながら、いったい誰なのだろうかと、横目で青年を見る。
すると視線に気が付いたらしい彼が、あまりに優しく微笑んできたものだから、思わずむせそうになってしまった。
「レナード……来てたのか」
ハロルドが言うと、レナードと呼ばれた青年は、視線をハロルドにうつした。
柔らかそうな黒髪が、ふわりと揺れる。
レナードが見慣れない服を着ていることに、ナディアは気が付いた。
「先週から、またこっちに来ているんだ。
会えなくて寂しかったかい?」
「まさか、そんなわけないだろう」
ハロルドは冷たく言い返す。
その様子に、ナディアはびっくりしてしまった。
実際の性格はさておき、ナディア以外の人の前では、いつも天使のように物腰柔らかに振る舞っているというのに。
キョトンとして見ていると、レナードは振り返ってにっこり笑った。
「あなたが噂の、ナディア様ですね?
私は……」
「レナード・トランストン公爵令息。リンデン王国から来ている男だ」
ハロルドが遮って言うと、レナードは口をへの字に曲げた。
「なんで先に言っちゃうんだよ!
良いところだったのに」
「お前に言わせると、余計なことまでペラペラと喋りそうだったから、代わってやったんだろうが」
いつになく乱暴な物言いではあるが、ハロルドはどこか楽しげに見えた。
きっと心置きなく付き合える貴重な友人なのだろう。
そう思って微笑ましく思っていると、ハロルドに睨まれて、慌てて緩んだ口元を引き締めた。
それを隣でハロルドが冷たく見下ろしている。
「まだ来たばかりだというのに、なにをそんなに疲れているんだ」
「だ、だって……ハロルド様は大勢に囲まれるのにも慣れていらっしゃるでしょうけど、私は違うんですもの。
もうこれだけで、力を使い果たした気分です……」
「……ったく」
なんと言われても、しばらく立ち上がれそうにない。
緊張していたせいで、のどがカラカラだ。
ひいひい言いながら、ナディアは喘いでいたのだったが、不意に目の前にグラスが差し出されたものだから、驚いて顔を上げた。
まさか冷たい態度を取りながらも、ナディアを気遣ったハロルドが飲み物を持ってきてくれたのかと思ったのである。
しかし、そんなはずはなかった。
立っていたのは、見たことのない青年だった。
深い緑色の瞳をまっすぐにこちらに向けて微笑んでいる。
「顔色が悪いですよ。
良かったら、どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
おずおずとグラスを受け取ると、ナディアは頬を赤らめた。
そしてグラスに口をつけながら、いったい誰なのだろうかと、横目で青年を見る。
すると視線に気が付いたらしい彼が、あまりに優しく微笑んできたものだから、思わずむせそうになってしまった。
「レナード……来てたのか」
ハロルドが言うと、レナードと呼ばれた青年は、視線をハロルドにうつした。
柔らかそうな黒髪が、ふわりと揺れる。
レナードが見慣れない服を着ていることに、ナディアは気が付いた。
「先週から、またこっちに来ているんだ。
会えなくて寂しかったかい?」
「まさか、そんなわけないだろう」
ハロルドは冷たく言い返す。
その様子に、ナディアはびっくりしてしまった。
実際の性格はさておき、ナディア以外の人の前では、いつも天使のように物腰柔らかに振る舞っているというのに。
キョトンとして見ていると、レナードは振り返ってにっこり笑った。
「あなたが噂の、ナディア様ですね?
私は……」
「レナード・トランストン公爵令息。リンデン王国から来ている男だ」
ハロルドが遮って言うと、レナードは口をへの字に曲げた。
「なんで先に言っちゃうんだよ!
良いところだったのに」
「お前に言わせると、余計なことまでペラペラと喋りそうだったから、代わってやったんだろうが」
いつになく乱暴な物言いではあるが、ハロルドはどこか楽しげに見えた。
きっと心置きなく付き合える貴重な友人なのだろう。
そう思って微笑ましく思っていると、ハロルドに睨まれて、慌てて緩んだ口元を引き締めた。
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