38 / 62
38
しおりを挟む
さて、その翌週のことである。
アルデン公爵の舞踏会に出席する為に、身支度を整えていたナディアだったが
「これで大丈夫なのかしら……。
着慣れないドレスだから、不安だわ」
先程から何度も何度も鏡を覗き込んでは、クルクルと回り、背中側まで確認するのを繰り返していた。
頭のてっぺんから爪先まで、全て新調したばかりの物を身につけているせいか、妙に緊張してしまって。
鏡の向こうからこちらを見つめてくる自分の顔が、やけに青白く見える。
しかし、ここでやめるわけにはいかない。
ナディアが気合いを入れ直すように、頭のリボンをきつく結び直したところで、ノックの音がして、メイドが声をかけてきた。
「お嬢様、お迎えの馬車が到着しました。
ただ、いらっしゃったのはハロルド様ではなく、レナード様なのですが……」
不思議そうな顔になる彼女に、ナディアは笑顔を浮かべて答えた。
「いいのよ。
今日はハロルドに用事があるから、代わりにレナード様が迎えにきて下さったの。
ハロルドとは会場で落ち合うことになっているのよ」
「そうでしたか。失礼致しました」
ナディアは頷いて立ち上がると、玄関まで歩いて行った。
すると待っていたレナードは、ナディアを見るや否や、満足そうに言ったのである。
「ああ、今夜は一段と綺麗ですね。
ドレスも良くお似合いです」
「本当ですか?
なんだか、まるで私じゃないみたいで……少し恥ずかしいです」
「いえいえ、とても素敵ですよ。
これならハロルドも、あなたから目が離せなくなるに違いない」
レナードはにっこりと微笑んだ。
ナディアは頬を赤く染めたが、彼の言葉についつい期待を膨らませてしまった。
ハロルドも同じように思ってくれるだろうか。
何か一言だけでも褒めてくれたら、嬉しいのだけれど。
馬車に揺られている最中はもちろん、アルデン公爵の屋敷に到着してもなお、ナディアは緊張のあまり指を震わせていた。
そのせいで無意識に指をもじもじと動かしてしまう。
が、不意にその手をレナードに取られて、ドキリとしてしまった。
「大丈夫。さあ、深く息を吸って」
言われるがまま、ゆっくりと息を吸う。
そして小さく頷いてみせると、
「では、行きましょうか」
レナードは繋いだ手を優しく引いて、歩き出した。
導かれるがまま、ゆっくりとナディアもついて行く。
ホールに入って行くと、いつになく人々の視線を感じて、つい俯きそうになってしまった。
すかさずレナードが声をかけてくれる。
「恥ずかしがらないで、顔を上げてください。
自信を持って」
彼の優しい声に従って、しゃんと顔を上げると、ほとんど全員の視線が自分へと突き刺さるような気さえした。
まるで見たことのない人を見るかのような皆の目に耐えながら、なんとか胸を張って歩き続ける。
「誰だ、あれ。
あんな女性、見たことあるか?」
すぐ近くで誰かが囁いているのが聞こえてきて、振り向いたレナードと顔を見合わせたナディアは、思わずクスッと笑った。
どうやらレナードとナディアの作戦は、上手くいっているらしい、とようやく実感したのである。
アルデン公爵の舞踏会に出席する為に、身支度を整えていたナディアだったが
「これで大丈夫なのかしら……。
着慣れないドレスだから、不安だわ」
先程から何度も何度も鏡を覗き込んでは、クルクルと回り、背中側まで確認するのを繰り返していた。
頭のてっぺんから爪先まで、全て新調したばかりの物を身につけているせいか、妙に緊張してしまって。
鏡の向こうからこちらを見つめてくる自分の顔が、やけに青白く見える。
しかし、ここでやめるわけにはいかない。
ナディアが気合いを入れ直すように、頭のリボンをきつく結び直したところで、ノックの音がして、メイドが声をかけてきた。
「お嬢様、お迎えの馬車が到着しました。
ただ、いらっしゃったのはハロルド様ではなく、レナード様なのですが……」
不思議そうな顔になる彼女に、ナディアは笑顔を浮かべて答えた。
「いいのよ。
今日はハロルドに用事があるから、代わりにレナード様が迎えにきて下さったの。
ハロルドとは会場で落ち合うことになっているのよ」
「そうでしたか。失礼致しました」
ナディアは頷いて立ち上がると、玄関まで歩いて行った。
すると待っていたレナードは、ナディアを見るや否や、満足そうに言ったのである。
「ああ、今夜は一段と綺麗ですね。
ドレスも良くお似合いです」
「本当ですか?
なんだか、まるで私じゃないみたいで……少し恥ずかしいです」
「いえいえ、とても素敵ですよ。
これならハロルドも、あなたから目が離せなくなるに違いない」
レナードはにっこりと微笑んだ。
ナディアは頬を赤く染めたが、彼の言葉についつい期待を膨らませてしまった。
ハロルドも同じように思ってくれるだろうか。
何か一言だけでも褒めてくれたら、嬉しいのだけれど。
馬車に揺られている最中はもちろん、アルデン公爵の屋敷に到着してもなお、ナディアは緊張のあまり指を震わせていた。
そのせいで無意識に指をもじもじと動かしてしまう。
が、不意にその手をレナードに取られて、ドキリとしてしまった。
「大丈夫。さあ、深く息を吸って」
言われるがまま、ゆっくりと息を吸う。
そして小さく頷いてみせると、
「では、行きましょうか」
レナードは繋いだ手を優しく引いて、歩き出した。
導かれるがまま、ゆっくりとナディアもついて行く。
ホールに入って行くと、いつになく人々の視線を感じて、つい俯きそうになってしまった。
すかさずレナードが声をかけてくれる。
「恥ずかしがらないで、顔を上げてください。
自信を持って」
彼の優しい声に従って、しゃんと顔を上げると、ほとんど全員の視線が自分へと突き刺さるような気さえした。
まるで見たことのない人を見るかのような皆の目に耐えながら、なんとか胸を張って歩き続ける。
「誰だ、あれ。
あんな女性、見たことあるか?」
すぐ近くで誰かが囁いているのが聞こえてきて、振り向いたレナードと顔を見合わせたナディアは、思わずクスッと笑った。
どうやらレナードとナディアの作戦は、上手くいっているらしい、とようやく実感したのである。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
163
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる