美しき未亡人は毒の花

ゆきな

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微笑みの仮面の下で

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「伯母様、この髪型おかしくないかしら?
最近の流行りらしいのだけれど、なんだか似合っていない気がして……」

何度も鏡を覗き込んでは髪を撫で付けるデイジーに、アリッサはにっこりと笑った。

「大丈夫、よく似合っているわよ」
「本当?でも……」
「本当よ」

デイジーの言葉を遮って、アリッサはバサバサと扇を振った。

「デイジーったら、クリス様がいらっしゃるからってそんなにソワソワして!」
「だ、だって!
伯母様が急に、今晩の夕食にクリス様もいらっしゃるなんて言うから!」

デイジーは真っ赤になって叫ぶと、またしても鏡を覗き込み、あれこれと髪をいじくり回す。

「もっと早く教えて下さればいいのに!
そうしたら、もっと支度にも気合いを入れて……」

ぶつぶつ言いながら顔をしかめるデイジーを眺めながら、アリッサはこっそりため息をついた。
そして小声で

「あんたなんかが今更頑張っても、たかが知れてるでしょう」

と呟いた。

「え?なあに?伯母様」
「いいえ、なんでもありませんよ」

アリッサが扇の裏で隠れて舌を出した時、使用人がクリスの到着を告げた。

「ああ、大変!
もういらっしゃったの!?」

バタバタとデイジーが駆けていく後を、アリッサはゆっくりと追いかけて行った。
クリスと打ち合わせた内容を一つひとつ思い出しながら。

「大丈夫、絶対にうまくいくわ。
あの子は単純だもの」

パチンと扇を閉じると、アリッサは部屋の中に入って行った。
中ではすでにデイジーとクリスがなにやら楽しそうにお喋りをしている。

アリッサがチラリとクリスを見ると、彼は心得顔で小さく頷いてみせた。
それからアリッサの前に進み出てくると、丁寧にお辞儀をした。

「今晩はお招きありがとうございます」
「ようこそいらっしゃいました、クリス様。
お会いできて嬉しいですわ」

アリッサは、隣で目をキラキラさせているデイジーの腕に手をかけて、続けた。

「まあ、クリス様にお会いできて嬉しいのは、私よりデイジーの方でしょうけど」

この言葉にデイジーは耳まで真っ赤になってしまった。

「お、伯母様!」
「あらあら、この子ったら。
いいじゃないの、本当のことでしょう?」
「そ、それは……」

デイジーが恥ずかしそうに上目でクリスを見ると、彼は小さく笑った。

「私もデイジー様にお会いできて、嬉しいですよ。
今日は朝からずっと、なんだか落ち着かなかったくらいです」
「……私も、です」

デイジーとクリスがクスクスと笑い合うのを見て、アリッサはパンと手を打った。

「まあ大変!
私、急ぎの手紙を書かなければならないのを、すっかり忘れていたわ。
申し訳ないけれど、少し部屋に戻らせて頂きますわね」

それからアリッサはデイジーに頷いてみせた。

「クリス様のお相手をよろしくね」

そして素早く部屋を出ると、早足に自室に戻った。

これで、あとはクリスに任せておけばいい。
彼なら必ず、うまくやるに違いない。

アリッサは思わず緩んだ頬を隠すこともせず、ただひたすらに歩き続けた。
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