美しき未亡人は毒の花

ゆきな

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嫌な予感

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リオネルは憤然と馬車に乗り込むと、どっかり腰を下ろした。
馬車が耐えられずに大きく揺れる。
彼の機嫌の悪さを察したらしい御者の声が、外からおずおずと聞こえてきた。

「あの……このまま真っ直ぐにお帰りになりますか?」
「ああ、そうだな。頼む」

ぶっきらぼうに言って、リオネルは背もたれに寄りかかり、すっかり暗くなった窓の外を見た。
闇の中を見つめていると、寄り添うデイジーとクリスの姿がぼんやりと浮かんでくるようだ。

今までずっと、誰よりも近くでデイジーを見つめてきたのは自分だったというのに。

「よりによって、あんなやつに……!」

怒りに任せて扉に拳を叩きつける。
と同時に、軋んだ音を立てて、ゆっくりと馬車が動き出した。

この拳を、クリスの横っ面にぶつけてやれたら、どれだけすっきりすることだろう。
いっそのこと、このまま彼の帰りを待ち伏せて、本当に殴りつけてしまおうか。

いや、そんなことをしたところで、デイジーの心が自分に向けられるわけではない。
むしろ、軽蔑されるだけだ。

自虐的な笑みを浮かべながら、ため息をついたリオネルは、ふと思いついて窓の外を見た。
しかし目当てのものは見つからない。

彼は素早く窓を開けると、御者に声をかけた。

「ちょっと止めてくれ!」
「は、はい!」

馬が文句を言うように小さくいなないて、足を止める。
リオネルは再び暗闇の中に目を凝らしながら御者に言った。

「俺の馬車以外に、馬車は止まっていないか?」
「え?えーっと……」

辺りを見回しているのだろう。
しばしの沈黙の後、御者の男の声が続いた。

「見当たりませんね。
そもそも私共が到着した時にも、他にお客の馬車はなかったですし、リオネル様がお屋敷の中に入られている間も誰も来なかったですよ」
「……そうか」

リオネルは、あることに思い当たると、両の手を握りしめた。

あること、というのは、クリスが自分の馬車を帰したのだろうということだ。
つまり彼は今晩、この屋敷から帰るつもりはない。

「と、いうことは……」

リオネルは嫌な予感に襲われた。
クリスが強引にデイジーに口付けた様子が思い出される。

彼が客間で一晩を過ごすつもりだとは思えなかった。
デイジーの寝床に潜り込むつもりに違いない。

そう考えつくや否や、リオネルは扉を開き、馬車から飛び降りていた。
御者の驚いた声が彼を追いかけてきていたが、それに答えている余裕すらない。

まさかデイジーは、婚約したとはいえ、結婚前に体の関係を持つことを良いとは考えないだろう。
しかしクリスに強引に迫られれば、彼女の性格では逆らえない。

自分が助けなければ。

リオネルはそう決意して必死に足を動かした。
頭の隅で、もし彼女が喜んでクリスを受け入れたら、という考えが浮かんだが、すぐにかき消した。

とにかく一刻も早くデイジーの元に戻らなければ。
そのことしか彼の頭にはなかったのである。
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