3 / 14
ダンスの相手は
しおりを挟む
突然のバイオレットの言葉に、リオネルは凍りついたように動かなくなってしまった。
慣れない人混みに緊張しているのだろうか。
不思議に思いながら、デイジーは首を傾げた。
けれど、今夜はせっかくの社交界デビューという記念すべき日なのだ。
こうして待っていても、ダンスに誘ってくれる人は現れそうにないのだから、せめてリオネルとくらい踊りたい。
「そうね、踊りましょうよ。リオネル」
デイジーは彼に手を差し伸べながら微笑んだ。
その言葉に、彼は驚いたように眉を上げたものの、ぎこちなく手をこちらに伸ばしてくる。
どうやら嫌ではないらしい。
ホッとしながら、その上に自身の手を重ねようとしたのだが。
「えっ……」
突然横から現れた男性に手を取られて、デイジーは呆然としてしまった。
驚いて顔を上げると、そこにいたのは、切れ長の黒い瞳をいたずらっぽく輝かせた、デイジーより少し年上らしい青年だ。
スラリとした背格好に、端正な顔立ちの彼は、デイジーたちばかりでなく、辺りの女性達の視線をあっという間に独り占めにしていた。
「あ、あの……」
手を握られて真っ赤になった頬を隠すこともできずに、デイジーはおずおずと青年を見上げた。
すると彼は眩しいほどの笑顔を浮かべながら、
「これは突然、失礼致しました。
ですが、とても美しい方だと思ったものですから。
チャンスを逃したくなかったのです」
と涼やかな声で言うと、握ったままのデイジーの手に優しく唇をつけてから、上目で続けた。
「私はクリス・ロングと申します」
「デ……デイジー・ガルシアですわ」
思わず声がうわずってしまったことが恥ずかしくて目を伏せたが、クリスは構わず言葉を続けた。
「どうか、私と一曲踊っては頂けませんか?」
まるで白馬に乗った王子様だわ、とデイジーは、返事をすることすら忘れて思った。
隣で、リオネルとバイオレットが怪訝な顔でクリスを見ていることなど、今のデイジーは気づきもしない。
ただ、震える声で
「……はい。是非」
と言うのが精一杯だった。
「ちょっと、デイジー」
バイオレットが言いかけた、その時。
「あら、ごめんなさいね。
すっかり話し込んでしまって……」
ちょうど戻ってきたアリッサが、一同を見回して微笑んでみせた。
ところが彼女は、クリスに目を向けたところで、ハッとしたように目を見開いたのである。
クリスも眉を上げ、じっとアリッサを見つめている。
2人の様子に戸惑いながら、デイジーは言った。
「あの、伯母様……もしかしてクリス様とお知り合いですか?」
「……え?」
アリッサは我に返ったようにデイジーに目をやったあと、再びクリスをチラリと見てから、頷いた。
「え、ええ、そうなのよ。
私もクリス様と同じセルディニア国にいたのですからね。
と言っても、何度かご挨拶をさせて頂いたくらいだけれど」
「そうだったのですね」
デイジーが頷くと、クリスはアリッサに向かって丁寧に頭を下げた。
「お久しぶりです、アリッサ様。
お元気そうで何よりです」
それから彼はデイジーに向き直ると、顔を覗き込むようにして微笑んだ。
そして、そっと手を握りしめた。
「それでは、デイジー様。
参りましょう」
慣れない人混みに緊張しているのだろうか。
不思議に思いながら、デイジーは首を傾げた。
けれど、今夜はせっかくの社交界デビューという記念すべき日なのだ。
こうして待っていても、ダンスに誘ってくれる人は現れそうにないのだから、せめてリオネルとくらい踊りたい。
「そうね、踊りましょうよ。リオネル」
デイジーは彼に手を差し伸べながら微笑んだ。
その言葉に、彼は驚いたように眉を上げたものの、ぎこちなく手をこちらに伸ばしてくる。
どうやら嫌ではないらしい。
ホッとしながら、その上に自身の手を重ねようとしたのだが。
「えっ……」
突然横から現れた男性に手を取られて、デイジーは呆然としてしまった。
驚いて顔を上げると、そこにいたのは、切れ長の黒い瞳をいたずらっぽく輝かせた、デイジーより少し年上らしい青年だ。
スラリとした背格好に、端正な顔立ちの彼は、デイジーたちばかりでなく、辺りの女性達の視線をあっという間に独り占めにしていた。
「あ、あの……」
手を握られて真っ赤になった頬を隠すこともできずに、デイジーはおずおずと青年を見上げた。
すると彼は眩しいほどの笑顔を浮かべながら、
「これは突然、失礼致しました。
ですが、とても美しい方だと思ったものですから。
チャンスを逃したくなかったのです」
と涼やかな声で言うと、握ったままのデイジーの手に優しく唇をつけてから、上目で続けた。
「私はクリス・ロングと申します」
「デ……デイジー・ガルシアですわ」
思わず声がうわずってしまったことが恥ずかしくて目を伏せたが、クリスは構わず言葉を続けた。
「どうか、私と一曲踊っては頂けませんか?」
まるで白馬に乗った王子様だわ、とデイジーは、返事をすることすら忘れて思った。
隣で、リオネルとバイオレットが怪訝な顔でクリスを見ていることなど、今のデイジーは気づきもしない。
ただ、震える声で
「……はい。是非」
と言うのが精一杯だった。
「ちょっと、デイジー」
バイオレットが言いかけた、その時。
「あら、ごめんなさいね。
すっかり話し込んでしまって……」
ちょうど戻ってきたアリッサが、一同を見回して微笑んでみせた。
ところが彼女は、クリスに目を向けたところで、ハッとしたように目を見開いたのである。
クリスも眉を上げ、じっとアリッサを見つめている。
2人の様子に戸惑いながら、デイジーは言った。
「あの、伯母様……もしかしてクリス様とお知り合いですか?」
「……え?」
アリッサは我に返ったようにデイジーに目をやったあと、再びクリスをチラリと見てから、頷いた。
「え、ええ、そうなのよ。
私もクリス様と同じセルディニア国にいたのですからね。
と言っても、何度かご挨拶をさせて頂いたくらいだけれど」
「そうだったのですね」
デイジーが頷くと、クリスはアリッサに向かって丁寧に頭を下げた。
「お久しぶりです、アリッサ様。
お元気そうで何よりです」
それから彼はデイジーに向き直ると、顔を覗き込むようにして微笑んだ。
そして、そっと手を握りしめた。
「それでは、デイジー様。
参りましょう」
1
あなたにおすすめの小説
【完結】嘘も恋も、甘くて苦い毒だった
綾取
恋愛
伯爵令嬢エリシアは、幼いころに出会った優しい王子様との再会を夢見て、名門学園へと入学する。
しかし待ち受けていたのは、冷たくなった彼──レオンハルトと、策略を巡らせる令嬢メリッサ。
周囲に広がる噂、揺れる友情、すれ違う想い。
エリシアは、信じていた人たちから少しずつ距離を置かれていく。
ただ一人、彼女を信じて寄り添ったのは、親友リリィ。
貴族の学園は、恋と野心が交錯する舞台。
甘い言葉の裏に、罠と裏切りが潜んでいた。
奪われたのは心か、未来か、それとも──名前のない毒。
ひみつの姫君
らな
恋愛
男爵令嬢のリアはアルノー王国の貴族の子女が通う王立学院の1年生だ。
高位貴族しか入れない生徒会に、なぜかくじ引きで役員になることになってしまい、慌てふためいた。今年の生徒会にはアルノーの第2王子クリスだけではなく、大国リンドブルムの第2王子ジークフェルドまで在籍しているのだ。
冷徹な公爵令息のルーファスと、リアと同じくくじ引きで選ばれた優しい子爵令息のヘンドリックの5人の生徒会メンバーで繰り広げる学園ラブコメ開演!
リアには本人の知らない大きな秘密があります!
愛していたって許されないことがある
keima
恋愛
おしどり夫婦として有名な王都議会議員ミハエル・ド・ロゼルとその妻ジジ。
しかしある日ミハエルは妻から離婚してほしいと告げられる。
突然のことにただただ困惑するミハエル。
一方、ジジからの指名で彼女の担当弁護官となったレオンは離婚の本当の理由とミハエルの過去の秘密に気づき……
「第3者意見司法機関 婚約破棄・婚姻訴訟対策課」第10弾
【本編完結】アルウェンの結婚
クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中
恋愛
シャトレ侯爵家の嫡女として生まれ育ったアルウェンは、婚約者で初恋の相手でもある二歳年上のユランと、半年後に結婚を控え幸せの絶頂にいた。
しかし皇帝が突然の病に倒れ、生母の違う二人の皇子の対立を危惧した重臣たちは、帝国内で最も権勢を誇るシャトレ侯爵家から皇太子妃を迎えることで、内乱を未然に防ごうとした。
本来であれば、婚約者のいないアルウェンの妹が嫁ぐのに相応しい。
しかし、人々から恐れられる皇太子サリオンに嫁ぐことを拒否した妹シンシアは、アルウェンからユランを奪ってしまう。
失意の中、結婚式は執り行われ、皇太子との愛のない結婚生活が始まった。
孤独な日々を送るアルウェンだったが、サリオンの意外な過去を知り、ふたりは少しずつ距離を縮めて行く……。
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~【after story】
けいこ
恋愛
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~
のafter storyです。
よろしくお願い致しますm(_ _)m
【完結】婚約破棄したのに「愛してる」なんて囁かないで
遠野エン
恋愛
薔薇の散る夜宴――それは伯爵令嬢リリーナの輝かしい人生が一転、音を立てて崩れ落ちた始まりだった。共和国の栄華を象徴する夜会で、リリーナは子爵子息の婚約者アランから突然、婚約破棄を告げられる。その理由は「家格の違い」。
穏やかで誠実だった彼が長年の婚約をそんな言葉で反故にするとは到底信じられなかった。打ちひしがれるリリーナにアランは冷たい背を向けた直後、誰にも聞こえぬように「愛してる」と囁いて去っていく。
この日から、リリーナの苦悩の日々が始まった。アランは謎の女性ルネアを伴い、夜会や社交の場に現れては、リリーナを公然と侮辱し嘲笑する。リリーナを徹底的に傷つけた後、彼は必ず去り際に「愛してる」と囁きかけるのだ。愛と憎しみ、嘲りと甘い囁き――その矛盾にリリーナの心は引き裂かれ、混乱は深まるばかり。
社交界の好奇と憐憫の目に晒されながらも、伯爵令嬢としての誇りを胸に彼女は必死に耐え忍ぶ。失意の底であの謎めいた愛の囁きだけがリリーナの胸にかすかな光を灯し、予測不能な運命の歯車が静かに回り始める。
もしもゲーム通りになってたら?
クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが
もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら?
全てがゲーム通りに進んだとしたら?
果たしてヒロインは幸せになれるのか
※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。
※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。
※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。
※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる