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エスコートしてくれていた従兄弟がどこかへ行ってしまったせいで、すっかり壁の花になっていた、あの夜。
キャンディスは『壁の花』の言葉通り、1人ポツンと壁際に佇んでいた。
つまらない、無駄な時間ばかりが流れていく。
しかし、まさか従兄弟を置いて1人で帰るわけにもいかず、もじもじと扇をいじっては溜め息をつくのを繰り返していたのだったが。
不意に、指の間をすり抜けて、扇が床へ落ちてしまった。
「あっ……」
慌てて屈み込み、指を伸ばす。
しかし驚いたことに、彼女よりも早く扇を拾い上げた者があったのである。
「はい、どうぞ」
優しく微笑みながら扇を差し出してくれた青年。
彼こそが、セオドア・ヘンズリー侯爵令息だった。
柔らかそうな金髪に、きらきら輝く水色の瞳。
まるで絵に描いたような王子様といった風貌のセオドアは、年頃の若い女性の憧れの君である。
もちろんそれはキャンディスも例外ではなく、舞踏会でも茶会でも、彼が来たと聞けば遠巻きに眺めていたものだ。
しかしまさかその彼が、今、目の前にいるとはとても信じられなかった。
「あ、ありがとうございます……」
なんとかお礼を言ったは良いが、明らかに声は上擦ってしまう。
恥ずかしくて消え入りたいくらいだったが、セオドアがちっとも気にしていない様子なのを見ると、ほんの少しだけ救われた気がした。
「僕はセオドア・ヘンズリー。
キミは……」
「キャンディス・リッジウェイですわ」
「キャンディス様ですね。
お1人ですか?」
「ええ。従兄弟と一緒に来たのですが、彼ったらどこかへ行ってしまって」
「そうでしたか。僕と同じですね。
僕の方も一緒に来たパートナーがどこかへ行ってしまって……」
セオドアは爽やかに笑った。
なんと涼やかな、美しい瞳なのだろう。
よく晴れた日の空のような、透き通った水色の瞳に、キャンディスは見惚れてしまった。
そこへ、急ぎ足に女性がやって来るのが見えた。
「もう、セオドア様ったら!
あちこち探しましたのよ」
「それはすみませんでした。
僕もちょうどキミを探していたところですよ。
でも、会えて良かったです」
彼女がセオドアの連れの女性か。
キャンディスは軽くお辞儀をしながら、横目で女性を盗み見た。
セオドアにはまだ婚約者はいない。
そこで彼目当ての娘達がこぞって夜会のエスコートをお願いするものだから、セオドアは会う度に違う女性を連れていた。
この女性も、そんな娘達の1人なのだろう。
「ねえ、セオドア様。
ダンスをしたら、暑くなってしまいましたわ。
庭園に涼みに行きましょうよ」
女性がセオドアの腕にしがみつきながら、甘い声を出した。
せっかくセオドアと話せたというのに、その貴重な時間もこれでおしまいか。
キャンディスは少ししょんぼりしながらも、これ以上引き止めるわけにもいかず、立ち去ろうとしたのだが。
「あ、キャンディス様。
少しお待ちを」
と、意外な事にセオドアに呼び止められたのである。
そしてこともあろうに、彼はキャンディスに向かって手を差し出したのだ。
「僕と一曲踊って頂けませんか?」
キャンディスは『壁の花』の言葉通り、1人ポツンと壁際に佇んでいた。
つまらない、無駄な時間ばかりが流れていく。
しかし、まさか従兄弟を置いて1人で帰るわけにもいかず、もじもじと扇をいじっては溜め息をつくのを繰り返していたのだったが。
不意に、指の間をすり抜けて、扇が床へ落ちてしまった。
「あっ……」
慌てて屈み込み、指を伸ばす。
しかし驚いたことに、彼女よりも早く扇を拾い上げた者があったのである。
「はい、どうぞ」
優しく微笑みながら扇を差し出してくれた青年。
彼こそが、セオドア・ヘンズリー侯爵令息だった。
柔らかそうな金髪に、きらきら輝く水色の瞳。
まるで絵に描いたような王子様といった風貌のセオドアは、年頃の若い女性の憧れの君である。
もちろんそれはキャンディスも例外ではなく、舞踏会でも茶会でも、彼が来たと聞けば遠巻きに眺めていたものだ。
しかしまさかその彼が、今、目の前にいるとはとても信じられなかった。
「あ、ありがとうございます……」
なんとかお礼を言ったは良いが、明らかに声は上擦ってしまう。
恥ずかしくて消え入りたいくらいだったが、セオドアがちっとも気にしていない様子なのを見ると、ほんの少しだけ救われた気がした。
「僕はセオドア・ヘンズリー。
キミは……」
「キャンディス・リッジウェイですわ」
「キャンディス様ですね。
お1人ですか?」
「ええ。従兄弟と一緒に来たのですが、彼ったらどこかへ行ってしまって」
「そうでしたか。僕と同じですね。
僕の方も一緒に来たパートナーがどこかへ行ってしまって……」
セオドアは爽やかに笑った。
なんと涼やかな、美しい瞳なのだろう。
よく晴れた日の空のような、透き通った水色の瞳に、キャンディスは見惚れてしまった。
そこへ、急ぎ足に女性がやって来るのが見えた。
「もう、セオドア様ったら!
あちこち探しましたのよ」
「それはすみませんでした。
僕もちょうどキミを探していたところですよ。
でも、会えて良かったです」
彼女がセオドアの連れの女性か。
キャンディスは軽くお辞儀をしながら、横目で女性を盗み見た。
セオドアにはまだ婚約者はいない。
そこで彼目当ての娘達がこぞって夜会のエスコートをお願いするものだから、セオドアは会う度に違う女性を連れていた。
この女性も、そんな娘達の1人なのだろう。
「ねえ、セオドア様。
ダンスをしたら、暑くなってしまいましたわ。
庭園に涼みに行きましょうよ」
女性がセオドアの腕にしがみつきながら、甘い声を出した。
せっかくセオドアと話せたというのに、その貴重な時間もこれでおしまいか。
キャンディスは少ししょんぼりしながらも、これ以上引き止めるわけにもいかず、立ち去ろうとしたのだが。
「あ、キャンディス様。
少しお待ちを」
と、意外な事にセオドアに呼び止められたのである。
そしてこともあろうに、彼はキャンディスに向かって手を差し出したのだ。
「僕と一曲踊って頂けませんか?」
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