私は今日、好きな人の弟と婚約致しました

ゆきな

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「それで?」

ようやくドミニクが口を開いた時、キャンディスは彼が何を言いたいのか分からず、すぐには口を開けなかった。

すると彼は手にしていた皿から小さな菓子をつまみあげると、口に放り込んだ。
そしてほとんど咀嚼することなく飲み込んでしまうと、自嘲気味に小さく笑い声を上げた。

「まあ、答えなくても分かるさ。
俺のことを、婚約者を兄にとられた間抜けな奴だとでも思ったんだろう?」
「そんなこと、思ってないわ!」

キャンディスはカッとなって言い返したが、彼女の言葉はドミニクの心には届かなかったようだ。
彼はちょっと肩をすくめると、再び菓子を口に放り込んで

「どいつもこいつも皆、セオドア、セオドアってうるさいんだよ。
あいつのこと、完璧な天使か何かだとでも思ってるんじゃないのか?」

と、独り言のように呟いていたが、ふと顔を上げると、キャンディスに目をやった。

「あいつが……セオドアの本性が、天使なんかじゃなかったらどうする?」
「え?」
「セオドアだって本当は俺みたいに嫌な奴かもしれないじゃないか。
なにせ兄弟なんだからな」
「まさか……そんなセオドア様は想像もできないわ」

キャンディスは奇妙な話の流れに困惑しつつも、思いのままを口にした。
するとドミニクは、それでもまだ言い足りないというように何か言いかけたが、結局深く息を吐き出しただけで、言葉にはしなかった。

しかしそれではイライラはおさまらなかったのだろう。
皿の上の菓子をつまんだものの、力の入れすぎで潰れてしまった。
彼の口からイラついたため息が漏れる。

「お前も、俺よりセオドアと婚約したかったんだもんな。
相手が俺で残念だったな」
「なっ……」

キャンディスは思わず顔を赤くした。
自分でも何故だか分からないが、腹の底から怒りがふつふつと込み上げてきたのである。

そして気がつけば、声を荒げてしまっていた。

「別に残念なんかじゃないわよ!」
「……は?」

今度はドミニクがキョトンとしてこちらを見つめてくる。
彼の丸くなった目をまっすぐに見返しながら、キャンディスは強い口調で続けた。

「確かにセオドア様は完璧よ!
女性から見れば、理想の王子様よ!
でもだからって、あなたに良いところが1つもないわけじゃないでしょう」

確かに彼女も、ドミニクの婚約者という立場ながら、セオドアの優しさに惹かれてしまっている。
それは事実だ。

しかしドミニクと言葉を交わすようになり、一緒に過ごす時間が長くなってきた今、彼との婚約を解消してまでセオドアと婚約したいかと言えば、そうは思わなかった。

ほんの少し。
ほんの少しずつではあるが、彼の隣にいることに居心地の良さを感じ始めていたのである。

たとえそれが軽口の言い合いの時間であったとしても、彼女はそれに楽しさを覚え始めていたのだ。
しかし、そこでドミニクに

「なんだよ、俺の良いところって」

と聞かれると、思わず言葉に詰まってしまった。
この居心地の良さをなんと言葉にすれば良いのか分からなかったのである。
だから

「え?うーん……そうね」

と必死に頭を捻ったのだが、ドミニクは早くも不貞腐れてしまったようだった。

「……もう、いい」
「ち、違うの!言いたい事はあるんだけど、うまく言葉にできなくて……」

バタバタと手を振りながら訴えていると、不意にドミニクの手が動いた。
そして気がつけば、彼女の口に菓子が押し込まれていた。

「む……むぐ!」

もぐもぐしながら上目で睨んでやると、ずっと強張っていたドミニクの表情が、ふっと緩んだ。
それを見てキャンディスは、思わず声を上げた。

「その顔!」
「……は?」
「いつも仏頂面なのに、時々ふっと見せる笑顔!
それがあなたの素敵なところよ!
いつもそんなふうに笑っていれば、ドミニクもセオドア様みたいに人気者になれると思うんだけど」
「なんだよ、それ」

キャンディスの答えが気に食わなかったのだろうか。
ドミニクは、ふいっと顔を背けてしまった。
そこでキャンディスは慌てて言葉を続けた。

「あ、それに、ほら!
お菓子もくれるし。
今もくれたでしょう?
それにこの前持ってきてくれたチョコレートも美味しかったし……それから……」

それ以上は続けられなかった。
またしてもドミニクに、菓子を口に詰め込まれてしまったのである。

抗議しようと眉を吊り上げて彼を見上げたが、なんだか楽しそうに微笑むドミニクと目が合うと、何も言えなくなってしまった。

「まったく!
食べ物のことばかりだな、お前は。
甘い物をプレゼントしておけば、子どもみたいに機嫌が良い」
「そ、そんなことないわよ。
私だって、れっきとしたレディだもの!
お花だってドレスだって、喜んで頂きますわ」

ツンと澄まして言ってやると、ドミニクも調子を合わせるように丁寧な口調で答えた。

「分かった分かった。
でしたら今度は、レディに相応しい贈り物をいたしましょう」

ドミニクはクスクスと笑っていたが、ふとキャンディスと目が合うと、急に黙り込んだ。
目を細め、ゆっくりと手を伸ばしてくる。

また菓子でも押し込まれるのかと身構えたが、彼は何も持ってはいなかった。
彼の長い指が、そっと唇に触れてくる。
ドキリとしたキャンディスは、思わず目を見開いた。

その途端に、ハッとした様子で、彼は手を引っ込めた。
そしてさっさと背中を向けてしまうまでの、ほんの一瞬。
彼の頬が赤くなっているのが見えたような気がしたが、気のせいだったかもしれない。

とにかくキャンディスは、うるさく跳び跳ねる自分の心臓を鎮めるのに精一杯で、それ以外のことを気にかける余裕などまるでなかったのであった。
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