私は今日、好きな人の弟と婚約致しました

ゆきな

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結局その日は、ドミニクからドレスについて何か言われることはないまま1日が終わってしまった。

それから、もう数日が経っている。
時間の流れは、徐々にキャンディスの心の傷を癒してくれていた。
時間が経つにつれ、あのひねくれたドミニクが素直に褒め言葉をかけてくれなくても不思議はないと思えるようになったのである。

それに今日はドミニクから誘われて、彼の家に遊びに行くことになっている。
2人でのんびりお茶とお菓子を楽しめば、先日のことなど忘れてしまえるだろう、と期待していた。

さて、こうして意気揚々とやってきたキャンディスだったのだが。
ドミニクの屋敷に入り、使用人の後に続いて客間に一歩入ったところで、凍りついたように体が動かなくなってしまった。

なんとか平静を装って、使用人に礼を言って退室させたは良いものの、目はテラスに釘付けだった。
テラスの柵にもたれるようにして並んで立ち、笑顔を浮かべていたのは、ドミニクとグレースだったのである。

夢でも見ているのかと思った。
いつもの意地悪い笑顔などではなく、優しく微笑むドミニクに、頷きながら瞳を輝かせているグレース。
それはまるで先日の夜会の光景そのままに思えたから。

テラスにいるせいで扉が開く音が聞こえなかったのだろう。
じっと見詰めるキャンディスには気づく様子もなく、2人は話し続けている。

そこへ再び扉が開く音がして振り向くと、ひょいとセオドアが顔を覗かせた。

「キャンディス、来てたんだね」
「こ、こんにちは」

キャンディスは頬をひきつらせながらも、なんとか笑顔を浮かべ、ちらりとテラスを見た。
それにつられてセオドアもテラスに顔を向けたが、その光景は彼にとっては何でもないことのようで、小さく、ああと呟いただけだった。

「グレースが到着したと聞いて来たんだ。
いないと思ったら、テラスにいたのか」

と独り言のように言ってから、セオドアはキャンディスの顔を笑顔で覗き込んできた。

「ちょっと珍しい外国のお菓子が手に入ってね。
せっかくだからグレースと食べようと思って呼んだんだ。
よかったら、キャンディスたちも一緒に食べようよ。
大勢の方がお茶会は楽しいしさ」
「ありがとうございます。
でも、お邪魔なのでは……」
「そんなことないって!
さあ、そうと決まれば、あの2人も呼んでこよう。
せっかく愛しの婚約者が来たというのに、2人とも全然気がついてないみたいだし」

そう言って歩き出すセオドアに、思わずキャンディスは声をもらした。

「あっ……」
「え?」

何事かと、セオドアが足を止めて振り返る。

キャンディスは咄嗟に、今あの2人の元へ行くのは邪魔なのではないかと思ってしまったのである。
しかしそれが引き留めた理由だなどと言うのは憚られて、意味をなさない言葉をモゴモゴと口にしながら俯いてしまう。

そんなキャンディスを不思議そうに眺めながら、セオドアは首を傾げた。

「どうしたの?
なにかあった?」
「い、いえ。そういうわけでは……」

そう言いながらも、ついつい目はテラスの2人に向いてしまう。
するとセオドアもしばらくテラスに目をやっていたが、やがてポツリと呟いた。

「なんだか、楽しそうだね。
ドミニク……あんな顔もするんだ」
「そ、そうですよね。珍しい……」
「あんなに楽しそうだと、入るのをためらっちゃうね」

サラリと言ってから、セオドアは何か思いついたというように勢いよくキャンディスに顔を向けた。

「あ、もしかして、それでこんなところで見てたの?」

キャンディスは言葉に詰まった。
しかしセオドアは明るい笑い声を上げて

「そんなの気にしなくて大丈夫だよ!
キャンディスはドミニクの婚約者なんだから、堂々と入っていけば良いんだ。
確かにグレースは元の婚約者だけど、そんなの……」

と言いかけたが、セオドアはふいに表情を曇らせると、口ごもった。

それから、急に手を伸ばしてきたかと思うと、キャンディスの腕をつかみ、カーテンの影へと彼女を押し込んできた。
何事かと顔を上げると、思いがけないほど近くに彼の顔がある。

「しー……ちょっと、話したいことが」

唇に人差し指を押し当てながら、チラチラとテラスに目をやる仕草を見れば、どうやら彼は、ドミニクとグレースに見られにくい位置に来たかったのだと気がついた。
たしかに、この位置ならばテラスからは見えないだろう。

しかしカーテンと壁に阻まれて、ただでさえ身動き出来ない中、セオドアに顔を覗き込まれているとくれば、キャンディスの体は自然と強張ってしまった。

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