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正直に言えば、もう少しこのまま彼のぬくもりを感じていたかった。
しかし、改めて自分の乱れたドレスを見下ろすなり、そんなことは言ってられない状況だと気がついた。
慌ててドミニクから離れると、とにもかくにもキャンディスは着替えを済ませた。
幸いにもドミニクの屋敷には、未来の花嫁であるキャンディスの為にしつらえたばかりのドレスが何着かあったのである。
ようやく身なりを整え、心を落ち着かせたところで、改めてキャンディスとドミニクは向かい合って話をした。
「……グレース様を呼んできたのは、ドミニクだったのね」
「ああ。キャンディスを探していた時に、セオドアと一緒に歩いていたと教えてくれた人がいて、嫌な予感がしたからな。
あいつは俺が何を言っても聞きはしないから、グレース様に強く言われないとダメだと思ったんだ。
でも、まあ……グレース様の口から、あそこまで強い言葉が出てくるとまでは思わなかったが」
彼の言葉に、キャンディスは先ほどの、怒り狂ったグレースの顔を思い出して、思わず身を震わせた。
「いつも穏やかに微笑んでいらっしゃるところしか知らなかったから、あんなに怒鳴っているのを見て驚いたわ。
まあ、婚約者のあんな姿を見れば、怒鳴りたくなるのも当たり前だけど」
「そうだよな。
あの剣幕には驚いたけど……セオドアには良い薬になっただろ。
あそこまで言われたら、さすがのセオドアもおとなしくなるだろうさ」
「……そうね。もう浮気をしようなんて気は起きないでしょうね」
神妙な顔で頷くキャンディスに、ドミニクは手を伸ばしてくると、頭を優しく撫でた。
「まあ、なんにせよ、キャンディスが無事で良かった」
「ドミニク……」
「一刻も早く結婚式を挙げて、こんな家は出ような。
キャンディスがセオドアと同じ屋根の下で寝ているかと思うだけで、気が気じゃない」
ドミニクが真剣に自分のことを心配してくれていると思うと嬉しくて嬉しくて。
キャンディスは、つい微笑んでしまった。
そんな彼女を、ドミニクは不思議そうな顔で見つめてくるものだから、キャンディスは慌てて、緩んだ口元を手で隠しながら言った。
「そ、そんなに心配しなくても、もう大丈夫よ。
セオドア様はグレース様が見張っていて下さるもの。
それに、もし何かあっても、ドミニクが助けに来てくれるでしょう?」
上目で見つめると、ドミニクはそっぽを向いてしまった。
調子に乗って甘えたことを言いすぎただろうかと、一瞬ドキリとする。
が、それは杞憂だったらしい。
やがて彼が、ボソリと呟いたのだ。
「……当たり前だ。
ずっと前から我慢してたんだ。
なのに今さら他の男なんかにキャンディスを渡すものか」
「……ずっと前から?」
思いがけない言葉にドキリとしながら訊ねると、ドミニクはハッとしたように頬を赤らめた。
そして、つっけんどんな態度で言った。
「気づかなかったのか?鈍い女だな!」
「気づかなかったわよ!
だって、そんなそぶり見せたこと無かったじゃないの。
いつだって意地悪ばっかりしてきて……」
「それはお前がセオドアしか見てなくて、気づかなかったせいだろ」
ドミニクは、ふんと鼻を鳴らして腕組みをした。
「そもそも、俺がなんでお前に婚約を申し込んだのか、考えたことはなかったのか?」
そう言われて、キャンディスはハッとした。
確かに経済的に傾いたキャンディスの家と婚約するなんて、ドミニクの家にはメリットがないのである。
普通なら避けるべき相手のはずだ。
それなのに、彼は敢えてキャンディスに婚約の
申し入れをしてきた。
そえはつまり……
「ドミニクが私のことが好きだから、経済的なメリットなんて関係なく求婚してくれたってこと?」
思ったままを口にすると、ドミニクの耳が一気に赤く染まった。
しかし彼はこちらを見ることもせずに、そっぽを向いたままモゴモゴと呟いた。
「ま、まあ……そうだな」
「なんだ!だったら、もっと早く言ってくれれば良かったじゃない!」
「言えるか、そんなこと!
よりにもよって自分の兄に夢中な相手にだぞ!?」
「そう……そうよね。ごめんなさい」
キャンディスはクスクス笑いながら立ち上がると、ドミニクの隣に腰を下ろした。
彼はいまだに目を合わせてはくれないものの、素直に尻をずらして、彼女のスペースをあけてくれる。
キャンディスはその些細な優しさにニンマリしながら、ゆっくりと彼の肩に頭をもたせかけた。
「安心してね。
今、私が夢中なのは、あなただから」
「キャンディス……」
ドミニクがキャンディスの手に、そっと自分の手を重ねてくる。
それから顔を覗き込みながら、囁いた。
「愛してる……もう誰にも渡すものか」
「……うん。私も、愛してるわ」
キャンディスはくすぐったいような気持ちになりながら、彼に顔を寄せていった。
ドミニクが優しく唇を重ね合わせてくる。
甘くとろけるような時間が、ゆっくりと流れていった。
重ねられた2人の手は、いつまでも繋がれたままだ。
キャンディスの指にはめられた指輪が、祝福するように、時折光を放っていた。
おしまい
しかし、改めて自分の乱れたドレスを見下ろすなり、そんなことは言ってられない状況だと気がついた。
慌ててドミニクから離れると、とにもかくにもキャンディスは着替えを済ませた。
幸いにもドミニクの屋敷には、未来の花嫁であるキャンディスの為にしつらえたばかりのドレスが何着かあったのである。
ようやく身なりを整え、心を落ち着かせたところで、改めてキャンディスとドミニクは向かい合って話をした。
「……グレース様を呼んできたのは、ドミニクだったのね」
「ああ。キャンディスを探していた時に、セオドアと一緒に歩いていたと教えてくれた人がいて、嫌な予感がしたからな。
あいつは俺が何を言っても聞きはしないから、グレース様に強く言われないとダメだと思ったんだ。
でも、まあ……グレース様の口から、あそこまで強い言葉が出てくるとまでは思わなかったが」
彼の言葉に、キャンディスは先ほどの、怒り狂ったグレースの顔を思い出して、思わず身を震わせた。
「いつも穏やかに微笑んでいらっしゃるところしか知らなかったから、あんなに怒鳴っているのを見て驚いたわ。
まあ、婚約者のあんな姿を見れば、怒鳴りたくなるのも当たり前だけど」
「そうだよな。
あの剣幕には驚いたけど……セオドアには良い薬になっただろ。
あそこまで言われたら、さすがのセオドアもおとなしくなるだろうさ」
「……そうね。もう浮気をしようなんて気は起きないでしょうね」
神妙な顔で頷くキャンディスに、ドミニクは手を伸ばしてくると、頭を優しく撫でた。
「まあ、なんにせよ、キャンディスが無事で良かった」
「ドミニク……」
「一刻も早く結婚式を挙げて、こんな家は出ような。
キャンディスがセオドアと同じ屋根の下で寝ているかと思うだけで、気が気じゃない」
ドミニクが真剣に自分のことを心配してくれていると思うと嬉しくて嬉しくて。
キャンディスは、つい微笑んでしまった。
そんな彼女を、ドミニクは不思議そうな顔で見つめてくるものだから、キャンディスは慌てて、緩んだ口元を手で隠しながら言った。
「そ、そんなに心配しなくても、もう大丈夫よ。
セオドア様はグレース様が見張っていて下さるもの。
それに、もし何かあっても、ドミニクが助けに来てくれるでしょう?」
上目で見つめると、ドミニクはそっぽを向いてしまった。
調子に乗って甘えたことを言いすぎただろうかと、一瞬ドキリとする。
が、それは杞憂だったらしい。
やがて彼が、ボソリと呟いたのだ。
「……当たり前だ。
ずっと前から我慢してたんだ。
なのに今さら他の男なんかにキャンディスを渡すものか」
「……ずっと前から?」
思いがけない言葉にドキリとしながら訊ねると、ドミニクはハッとしたように頬を赤らめた。
そして、つっけんどんな態度で言った。
「気づかなかったのか?鈍い女だな!」
「気づかなかったわよ!
だって、そんなそぶり見せたこと無かったじゃないの。
いつだって意地悪ばっかりしてきて……」
「それはお前がセオドアしか見てなくて、気づかなかったせいだろ」
ドミニクは、ふんと鼻を鳴らして腕組みをした。
「そもそも、俺がなんでお前に婚約を申し込んだのか、考えたことはなかったのか?」
そう言われて、キャンディスはハッとした。
確かに経済的に傾いたキャンディスの家と婚約するなんて、ドミニクの家にはメリットがないのである。
普通なら避けるべき相手のはずだ。
それなのに、彼は敢えてキャンディスに婚約の
申し入れをしてきた。
そえはつまり……
「ドミニクが私のことが好きだから、経済的なメリットなんて関係なく求婚してくれたってこと?」
思ったままを口にすると、ドミニクの耳が一気に赤く染まった。
しかし彼はこちらを見ることもせずに、そっぽを向いたままモゴモゴと呟いた。
「ま、まあ……そうだな」
「なんだ!だったら、もっと早く言ってくれれば良かったじゃない!」
「言えるか、そんなこと!
よりにもよって自分の兄に夢中な相手にだぞ!?」
「そう……そうよね。ごめんなさい」
キャンディスはクスクス笑いながら立ち上がると、ドミニクの隣に腰を下ろした。
彼はいまだに目を合わせてはくれないものの、素直に尻をずらして、彼女のスペースをあけてくれる。
キャンディスはその些細な優しさにニンマリしながら、ゆっくりと彼の肩に頭をもたせかけた。
「安心してね。
今、私が夢中なのは、あなただから」
「キャンディス……」
ドミニクがキャンディスの手に、そっと自分の手を重ねてくる。
それから顔を覗き込みながら、囁いた。
「愛してる……もう誰にも渡すものか」
「……うん。私も、愛してるわ」
キャンディスはくすぐったいような気持ちになりながら、彼に顔を寄せていった。
ドミニクが優しく唇を重ね合わせてくる。
甘くとろけるような時間が、ゆっくりと流れていった。
重ねられた2人の手は、いつまでも繋がれたままだ。
キャンディスの指にはめられた指輪が、祝福するように、時折光を放っていた。
おしまい
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