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「とある舞踏会でのことです。
招待客の中にモーリス様をお見かけしたものですから、声をかけたのですが、その時に一緒にいたのがマデリン嬢でした。
おふたりは、その……」
「はっきり言って頂いて構いませんわ。婚約破棄を言い渡されたのですから、ある程度は察しがついております」
言い淀むウォーレンに先を促すと、彼は苦々しい顔で続けた。
「おふたりは、身を寄せ合いながら会話を楽しんでいました。
私が見たところ、モーリス様はマデリン嬢の気を引こうと必死なように見えましたね。
もちろん私が声をかけると、すぐにそんな素振りは見せなくなりましたが。
しかし、彼が席を外した際にマデリン嬢に聞いたところによると、高価な贈り物もいくつかしているようでした」
「余程マデリン様が気に入ったということなのね。私という婚約者がいるのに……」
「そのことなのですが、どうやらモーリス様は、外国で事情をあまり知られていないのを良いことに、婚約していることは伏せていたようです」
「まあ……」
シェリナはもう言葉も出てこなかった。
モーリスは誠実な人だと思っていたのに、こんな形で裏切られることになるとは、想像もしていなかった。
ウォーレンは気落ちするシェリナの肩に、そっと手をかけた。
「黙っていたことを、お詫びしなければなりません」
「そんな!ウォーレン様が悪いわけではありませんもの」
そう言って、出来るだけ明るい顔をして見せたつもりだったが、どうやら上手くいかなかったらしい。
ウォーレンはほっとするどころか、困ったように眉をひそめてしまう。
しかしこれ以上、彼に気をつかうほど、今のシェリナには気持ちに余裕がなかった。
そこで、ピンと背筋を伸ばすと
「すぐに帰宅して、父に話をしなければなりません。
いくらモーリスに、新たに好きな方が出来たからと言っても、そこで私1人が悲しんで終わる問題ではありませんもの。
家同士の約束ごとですから、彼が好き勝手に主張を通せばおしまいというわけにはいきません」
と、きっぱり言ってから、頭を下げた。
「ウォーレン様、お話して頂きありがとうございます。面倒な事に巻き込んでしまったことを、私の方こそお詫び致します。
動揺していたとは言え、つらつらと愚痴をこぼしてしまい、申し訳ございませんでした」
「そんなこと構いませんよ。そんな他人行儀な言い方はしないで下さい」
「え……」
シェリナはビックリして、気の利いた返事もできなかった。
ほとんど口を聞いたこともないウォーレンが、そんなふうに言ってくれるとは思わなかったのである。
しかし彼も、シェリナの態度から、何かを察したのだろう。
慌てた様子で
「いや、その……悲しんでいる人を助けるのは当たり前のことですから。気になさらないで下さい、と申し上げたかったのです」
と付け加えてから、すっくと立ち上がると、シェリナに手を差し出した。
「さあ、ではすぐにお宅にお送りします」
「ありがとうございます。でも、私も馬車を待たせておりますので、送って頂かなくて大丈夫ですわ」
「いえ、ぜひご一緒させて下さい」
困惑しながらも彼に手を引かれて、シェリナは立ち上がる。
ウォーレンは彼女の手を、慣れた仕草で自分の腕に絡ませると、素早く歩き始めた。
「私も、あなたのお父上にお話したいことがあるのです」
招待客の中にモーリス様をお見かけしたものですから、声をかけたのですが、その時に一緒にいたのがマデリン嬢でした。
おふたりは、その……」
「はっきり言って頂いて構いませんわ。婚約破棄を言い渡されたのですから、ある程度は察しがついております」
言い淀むウォーレンに先を促すと、彼は苦々しい顔で続けた。
「おふたりは、身を寄せ合いながら会話を楽しんでいました。
私が見たところ、モーリス様はマデリン嬢の気を引こうと必死なように見えましたね。
もちろん私が声をかけると、すぐにそんな素振りは見せなくなりましたが。
しかし、彼が席を外した際にマデリン嬢に聞いたところによると、高価な贈り物もいくつかしているようでした」
「余程マデリン様が気に入ったということなのね。私という婚約者がいるのに……」
「そのことなのですが、どうやらモーリス様は、外国で事情をあまり知られていないのを良いことに、婚約していることは伏せていたようです」
「まあ……」
シェリナはもう言葉も出てこなかった。
モーリスは誠実な人だと思っていたのに、こんな形で裏切られることになるとは、想像もしていなかった。
ウォーレンは気落ちするシェリナの肩に、そっと手をかけた。
「黙っていたことを、お詫びしなければなりません」
「そんな!ウォーレン様が悪いわけではありませんもの」
そう言って、出来るだけ明るい顔をして見せたつもりだったが、どうやら上手くいかなかったらしい。
ウォーレンはほっとするどころか、困ったように眉をひそめてしまう。
しかしこれ以上、彼に気をつかうほど、今のシェリナには気持ちに余裕がなかった。
そこで、ピンと背筋を伸ばすと
「すぐに帰宅して、父に話をしなければなりません。
いくらモーリスに、新たに好きな方が出来たからと言っても、そこで私1人が悲しんで終わる問題ではありませんもの。
家同士の約束ごとですから、彼が好き勝手に主張を通せばおしまいというわけにはいきません」
と、きっぱり言ってから、頭を下げた。
「ウォーレン様、お話して頂きありがとうございます。面倒な事に巻き込んでしまったことを、私の方こそお詫び致します。
動揺していたとは言え、つらつらと愚痴をこぼしてしまい、申し訳ございませんでした」
「そんなこと構いませんよ。そんな他人行儀な言い方はしないで下さい」
「え……」
シェリナはビックリして、気の利いた返事もできなかった。
ほとんど口を聞いたこともないウォーレンが、そんなふうに言ってくれるとは思わなかったのである。
しかし彼も、シェリナの態度から、何かを察したのだろう。
慌てた様子で
「いや、その……悲しんでいる人を助けるのは当たり前のことですから。気になさらないで下さい、と申し上げたかったのです」
と付け加えてから、すっくと立ち上がると、シェリナに手を差し出した。
「さあ、ではすぐにお宅にお送りします」
「ありがとうございます。でも、私も馬車を待たせておりますので、送って頂かなくて大丈夫ですわ」
「いえ、ぜひご一緒させて下さい」
困惑しながらも彼に手を引かれて、シェリナは立ち上がる。
ウォーレンは彼女の手を、慣れた仕草で自分の腕に絡ませると、素早く歩き始めた。
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