愛のある政略結婚のはずでしたのに

ゆきな

文字の大きさ
10 / 39

10

しおりを挟む
まさかウォーレンが本気だとは思ってもみなかったシェリナだったが、結局彼は家にまでついてきた。
そして意外すぎる訪問者に驚いた顔になったシェリナの父、トーマス・ブライス伯爵に、ウォーレンは深々と頭を下げた。

「突然、しかもこのような夜分遅くに押しかけてしまい、申し訳ございません。
しかし、話をするには早い方がよろしいかと思ったものですから」
「いやいや、構いませんよ。確かに少し驚きましたがね」

トーマスは口髭を撫でながら頷いて、皆に座るように促した。
シェリナはトーマスの隣に、そしてウォーレンは2人の向かいに腰を下ろす。

「それにしても、あなたがシェリナと親しくして下さっていたとは知らなかった」

とトーマスは言ってから、シェリナに顔を向けた。

「そんなこと話してくれたことは無かったじゃないか、シェリナ?」
「お父様。ウォーレン様は以前から私と親しくして下さっていたわけではないのよ。ただ今日は……」

この説明は必要なことと分かってはいても、まだ気持ちの整理がついていない出来事ゆえに、シェリナは一瞬言い淀んだ。
膝に置いた両手に、思わず力がこもる。
ごくりと喉をならしてから、シェリナは口を開いた。

「モーリスが婚約を破棄したい、と言い出したのよ。
ウォーレン様がその理由に心当たりがある、とおっしゃって。
お父様に説明しようと、ご親切について来て下さったの」

早口に言って、ふうっと息を吐く。
少しの不自然な沈黙の後、口を開いたのはトーマスだった。

「婚約を破棄したい?モーリスが、そう言ったのか」
「ええ、お父様」
「それは本気で言ったのか?喧嘩をしたとか、冗談まじりにとか、そういうことではないんだな?」
「少なくとも私には、そのようには見えませんでしたわ」
「それはまた……急な話だな。いったい何が理由なんだ」

トーマスがため息をつきながら、深く椅子に腰かける。
その問いに答えたのは、ウォーレンだった。

「その先は私の方から説明致します。シェリナ様は話すのがお辛いでしょうし、私が直接見聞きしたこともありますので」

そう前置きして、ウォーレンは先程シェリナに話したことを、再度トーマスにも繰り返した。

イーストウッド国で、モーリスがマデリンに言い寄っていたのを見たこと。
高価な贈り物もしているらしいということ。
さらには、シェリナという婚約者がいることを隠しているということも。

トーマスは始めこそ深刻な顔で聞いていたものの、すぐに呆れ顔に変わり、ウォーレンが口を閉ざすや否や

「モーリスが、こんなに馬鹿な男だったとは……信じられん!」

と吐き出すように言った。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

『完璧すぎる令嬢は婚約破棄を歓迎します ~白い結婚のはずが、冷徹公爵に溺愛されるなんて聞いてません~』

鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎる」 その一言で、王太子アルトゥーラから婚約を破棄された令嬢エミーラ。 有能であるがゆえに疎まれ、努力も忠誠も正当に評価されなかった彼女は、 王都を離れ、辺境アンクレイブ公爵領へと向かう。 冷静沈着で冷徹と噂される公爵ゼファーとの関係は、 利害一致による“白い契約結婚”から始まったはずだった。 しかし―― 役割を果たし、淡々と成果を積み重ねるエミーラは、 いつしか領政の中枢を支え、領民からも絶大な信頼を得ていく。 一方、 「可愛げ」を求めて彼女を切り捨てた元婚約者と、 癒しだけを与えられた王太子妃候補は、 王宮という現実の中で静かに行き詰まっていき……。 ざまぁは声高に叫ばれない。 復讐も、断罪もない。 あるのは、選ばなかった者が取り残され、 選び続けた者が自然と選ばれていく現実。 これは、 誰かに選ばれることで価値を証明する物語ではない。 自分の居場所を自分で選び、 その先で静かに幸福を掴んだ令嬢の物語。 「完璧すぎる」と捨てられた彼女は、 やがて―― “選ばれ続ける存在”になる。

婚約破棄と言われても、どうせ好き合っていないからどうでもいいですね

うさこ
恋愛
男爵令嬢の私には婚約者がいた。 伯爵子息の彼は帝都一の美麗と言われていた。そんな彼と私は平穏な学園生活を送るために、「契約婚約」を結んだ。 お互い好きにならない。三年間の契約。 それなのに、彼は私の前からいなくなった。婚約破棄を言い渡されて……。 でも私たちは好きあっていない。だから、別にどうでもいいはずなのに……。

婚約者が私にだけ冷たい理由を、実は私は知っている

潮海璃月
恋愛
一見クールな公爵令息ユリアンは、婚約者のシャルロッテにも大変クールで素っ気ない。しかし最初からそうだったわけではなく、貴族学院に入学してある親しい友人ができて以来、シャルロッテへの態度が豹変した。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

再会の約束の場所に彼は現れなかった

四折 柊
恋愛
 ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。  そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

処理中です...