婚約破棄された私が、再度プロポーズされた訳

ゆきな

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あまりの態度に、御者の男も驚いたのだろう。

「ビクター様、あまり手荒なことは……」

とオロオロしながら声をかけてくれたが

「うるさい、黙っていろ!
クビにされたいのか!」

と睨みつけるものだから、男もそれ以上は何も言えない様子だ。

「さあ、大丈夫だから乗って!」

と、強引に腰に手を回してくるビクターの顔を、困り果てて見ながら、アリシアはまだ彼と婚約していた頃のことを思い出していた。

彼は使用人達に厳しい男だった。
普段は、必要なことしか話さないほど口数が少なく、物静かな性格なのに、気に入らないことがあると豹変するのだ。

アリシアが目の前にいても全く関係なかった。
2人でいる時、用意された飲み物が指示と違っていると激昂し、グラスを床に叩きつけたこともあった。
その時の、使用人の娘の真っ青な顔は、今でも忘れられない。

アリシアをはじめ、貴族達には流石にそのような態度をとっているのは見たことが無かったけれど。
アリシアとしては、使用人達にも、そういう態度をとって欲しくは無かった。

その上結婚すれば、妻となる自分への態度も変わるかもしれないと思うと、恐怖でしかなくて。
どうにかして結婚を取りやめにできないものかと、頭を悩ませていたのである。

そこへ、幸運なことにビクターの方から婚約破棄の申し出があったものだから、喜んで承諾したというのに。
どうして今になってこんなことになったのだろう。

アリシアは何とか彼の腕を振り払おうと、もがき続けた。
ジェニファーが平民だと思っているからと言って、こんなに乱暴な振る舞いをすることが許せなかった。

仮にもプロポーズをした相手を、こんな強引なやり方で従わせようとするなんて。
アリシアはいっその事こと、殴り飛ばしてやろうかとさえ思ったが、腕を掴まれているせいで、それも出来なくて。

「離して下さい!話なら、ここで聞きますから!」

と、必死に身をよじりながら、目をきつく閉じて叫んだのだったが。

突然、ビクターの手が、自分の腕を離したことに気がついた。
不思議に思って、恐る恐る目を開ける。

すると、目に入ったのは、ビクターの腕をつかんでいるリアンの姿だった。

「女性には、もう少し優しくした方が良いですよ。
嫌がってるじゃないですか」

リアンは、ビクターの腕をがっちりと握ったまま、笑顔を浮かべた。
しかし、それを聞いたビクターは、目をぎらつかせると

「なんだお前は!」

と、大声を上げた。
そして無理やりに腕を振り解いてしまうと、

「あっちに行け!邪魔をするな!」

と、リアンの肩を押した。
リアンは目を丸くして、触れられた肩をさすりつつも、冷静さを失わない声で、言った。

「落ち着いてください。
すっかり頭に血が昇ってしまってるじゃないですか」
「うるさい!」

かっとなったビクターは、いきなり拳を振り上げると、リアンに殴りかかって行った。
しかし、それが当たる寸前に、リアンの手がビクターの腕を押さえつけた。

そして彼は呆れたように呟いた。

「まったく……。
服装が変わったくらいで、私が誰なのか分からなくなってしまうんですか?」

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