婚約破棄された私が、再度プロポーズされた訳

ゆきな

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アリシアは、リアンが殴られなかったことに、ほっと胸を撫で下ろした。
そして思わず

「リアン様……良かった」

と呟いた。
それを聞いて、目を見開いたのはビクターだった。

「リアン……様?」

彼はリアンを上から下まで眺めてから、ようやく彼が誰なのか気がついたと見えて、分かりやすく青ざめた。
それから慌てて腕を離すと、いきなり頭を深く下げた。

「リアン様!無礼な振る舞いをしてしまい、申し訳ございませんでした。
まさか、あなただとは思いもよらず……」
「まあ、そうでしょうね。
こんな格好でしたから」

リアンはすました顔で、乱れた服を整えた。

「でも、相手が誰であれ、今のような乱暴は良くないと思いますよ」
「はあ……おっしゃる通りです」

本当にそう思っているのかは分からなかったが、とにかくビクターはそう言って、今度は小さく頭を下げた。

「乱暴するつもりは無かったのです。
ただ彼女と話をしようと思っただけで……」
「でも彼女の方は、嫌がっていたでしょう。
それを強引に馬車に乗せようとするなんて。
人さらいにでも間違われてしまいますよ」

リアンは心配そうな顔をしているアリシアに気がつくと、笑顔を見せた。
しかし、その笑顔は妙にわざとらしくて。

アリシアは、彼が何か企んでいるんじゃないかと思うと、嫌な予感に襲われた。
しかもその予感は、すぐに当たることとなってしまったのである。

リアンはいかにも芝居がかった声で言ったのだ。

「もう心配ないよ、アリシア」

と。

「え……」

ビクターとアリシアの、間の抜けた声が重なった。
2人は驚いたように互いを見てから、リアンを見て、そのあと再び互いを見た。

次に声を発したのはビクターだった。

「アリシアだと?まさか……」

と声を震わせながら、マジマジと見つめてくる。
アリシアはリアンを睨んだ。
彼は明らかに面白がって、わざと名前を言ったに違いなかった。

現に、ニヤニヤ笑いを浮かべながら、楽しそうにこちらを見ている。

アリシアは、リアンへの怒りと、ビクターへの疎ましさで頭が沸騰しそうなのを、何とか抑えた。

「本当にアリシアなのか。
これは驚いた。
なぜジェニファーだなんて名乗ったんだ」

ビクターは矢継ぎ早に言葉を重ねたが、アリシアが返事をするのも待たずに、彼女の前へと歩を進めた。
そして目を輝かせた。

「ジェニファーがアリシアだったのだとすれば……都合がいい。
やはりきみは私の運命の相手だったんだ」

ふらふらと近づいてくるビクターを見て、アリシアの頬は引きつった。
彼が何を言おうとしているのかを察して、頭がクラクラしてきてしまう。

思わず足がふらつきかけたのを、リアンが支えてくれた。
しかし、それに素直に感謝する気は起きなかった。
そもそもそんなことを言い始めたリアンが恨めしかったのだ。

とは言え、情けないことに、恐怖のあまり力が入らなくて。
今は仕方なく、リアンの腕にすがりつくようにして、なんとかしゃがみ込まずにいるのが精一杯だった。

ビクターは、アリシアとリアンの前に立ちはだかると、気味の悪い笑顔を浮かべて言った。

「アリシア、きみとの婚約破棄は無かったことにしよう。
改めて婚約をして……すぐにでも、結婚したい」

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