想いは歌に

komomo

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想いは歌に

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21時になると私はいつもの場所に行く。
色んな友達の家泊まり歩いて、もう家には何日も帰ってない…。

「また来たのかよ、家出少女。」
「少女じゃないもん!」
「どんなにメイクしたって分かんだよ。」
「ドキッとしちゃった?」
「するかバーカ。
さっさと補導される前に帰れよ。」
「ヤダ、別に誰も心配してないって。
私なんて死んだって平気平気」
「…お前、死んじゃっても平気とか、
今度冗談でも言ったら本気で怒るぞ。」
「はいはい。何熱くなってんの。」
「お前が思ってるより心配するやつだっていんだよ。もっと自分を大切にだな…」
「あーうるさい。わかりましたよ」
「ったく、今どきのやつは…。」
「うわっ、オッサンくさっ。」

ヨレヨレのTシャツにスウェットにサンダル。
ボサボサ頭に目深く被った帽子。
アコギギター1本。

「こんなオッサンの聞いてないで他行けば?」
「ね、本当。
こんなきっちゃないオッサンの聴いてあげる私優しい。」
「お前…汚いって、泣くよ俺も。
しかも優しいってそれ自分で言う?
はぁ…まあいいや。」

そう言っていつもと同じ曲を弾き語りはじめた。通る人はチラッと見るだけで誰も足を止めない。
でもね、私知ってる。
本当は多分30代前半。帽子で隠れてるけど、めっちゃイケメン。
あの日見ちゃったんだ。
誰にも言ってない、私だけの秘密
1か月前のあの日…。


「風つっよ!スカートめくれるし、髪もじゃもじゃだし、最悪!!わ、帽子!」
目の前に舞い上がってきた帽子を咄嗟に掴んだ。
「あっぶな!ありがとう、助かったよ」
「いえ、たまたまです…。」

慌ててかけてきたイケメン…のはずなのに、帽子被った途端、全体的にもさっとした…そう!オッサンに変わった。

「本当にありがとう、大事な帽子なんだ…」

被らない方がいいですよ、という言葉を飲み込んだ。知ってるのは私だけ、そんな優越感に浸ってた。


その日から、もう一度会いたいって思ってた。
漫画みたいに一目惚れなんて有り得ない。
でも、その有り得ないが起きる現実ってなんかいいじゃん。
もう一度会うのは思った以上に簡単だった。
いつも同じ場所に同じ時間にいたから…。

「またお前来たのかよ。早く家帰れよ。」
「帰ったってケンカばっかだもん。家にいない方がいいよ。」
「いいか、ケンカってのは相手がいるから出来んだぞ。」
「うわ、またオッサンくさ。」
「お前もそのうちわかるよ。」

仲良くなりたいと思ったけどなんか違う。
私も素直じゃないし照れくさいから、可愛くない言い方ばかりしちゃうし、いつも子供扱いするし、なんか思ってたのと違う。
でも、それも嬉しいと思っちゃうんだ。

「あれ、落ちたよ、写真」
「あっ」
「彼…女?いたんだ」
「もう会えないけどな」
「振られたのか、女々しいなあ!
写真なんかまだ持って」
「この世にいねえからもう会えないの」
「え…ごめ…」
「いいよ、もう何年も前だ。お前が最初に拾ってくれた帽子くれたの彼女なんだよ」

いつも同じ曲を歌う。
優しい声で誰かを想う歌。
そうか…、この写真の人を想って歌ってたんだ。だからこんなに切なく心に響くんだ…。

「これやる。俺もういらないから」
「えーー!ギターくれんの?!やった!
新しいの買うの?」
「まあ…な。で、弾けんのお前」
「弾けるわけないじゃん、教えてよ」
「気が向いたらな…」


〈ケンカってのは相手がいるからできんだぞ〉
その言葉の重みを嫌という程知った。
あれからオッサンはいつもの場所に来なかった…。

あそこへ行ってもオッサンはいないし、別に帰れって言われてたからとかじゃなくて、単につまらないから家に帰った。
オッサンに言われてたからじゃない、絶対!

なんだか家にいることが多くなった。ママにも前より優しく接することができてる気がする。そのせいかケンカも少なくなってた。

「ふあ…おはよ…。」
「おはよって、もうお昼になっちゃうわよ。」
「いいじゃん、夏休みなんだし。」
「まったく…帰ってきたし、夜ふらつかなくなったからいいけど…。
そうだちょっと!ギターの練習するのはいいけど、あんまり遅くまでやらないでよ。」
「ハイハイ。ねえ、お腹すいた。」
「昨日の残りのカレーよ。あっためる?」
「ん…自分でやる。」

キッチンでボーッとあっためてると、テレビの音が聞こえてきた。

「あー、ママこの人好きだったのよね」
「訃報?」
「そ、あんたが練習してる曲の人じゃない」
「え…?」
「歌ってる人知らなかったの?」

お鍋に火をかけてるのも気にせず、テレビにかじりついた。

「ちょっと!焦げちゃうじゃないの!」

ママの声なんか耳に入らなかった…。
ニュースでオッサンが有名なシンガーソングライターだと知った。
享年33歳。享年。享年って…。
やっぱりおっさんじゃなかったじゃん…。

「ガンだったんだー。この人熱愛報道で追いかけ回されて、そのせいで相手の子自殺しちゃったのよね。それから全然テレビで観なかったけど可哀想な人よね」
「自殺…」
「あら、ヤダあんた泣いてるの?知らなかったんじゃないの?この人」
「ご飯やっぱいいや…」

2階に駆け上がり、枕に顔を押し当てて声が聞こえないように大泣きした。

「弾けるようになって…今度会えたらビックリさせたかったのに…バカ!」

ケンカは相手がいるからできるって教えたくせに、オッサンがいなくなったら文句1つも言えないじゃん。
好き…って伝えられなかった…。


最初はね、一目惚れって言っても、ちょっとカッコイイって思ってただけだった。
だんだん気になっていって、死んでもなお愛されてる写真の彼女に嫉妬した。
会えなくなって、私もあの歌みたいに誰かを愛したい、愛されたいと思った。思ったのに!


…あれからどれくらいたったかな。
ねえ、オッサン
聴こえる?
私あの曲弾き語りできるようになったんだよ。

オッサンはさ、写真の彼女のこと思いながら歌ってたんだろうけど、私はオッサンのことが今でも浮かぶんだ…。

歌うこと教えてくれたのはオッサンなのに、
でも…どんなに歌ってもオッサンにはもう聴こえないんだね…。

〈ケンカってのは相手がいるからできんだぞ〉

恋はさ、相手がもういなくても
まだできるんだよ…。
想いだけはそう簡単に消えない…
ね、そうだったでしょ?オッサン。

今日も私は街中で1人
もう叶わない想いをあの恋の歌で歌う。
響け…響け!
空高くオッサンにも届くように響け…
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