首輪のわ

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発情期でもないのに、この手はなんだろうか?

身体に這い回る神宮寺の不埒な手を叩く

「おい、ちょっと待て、いままでもおかしいと思っていたが、発情期じゃないんだが」

「しぃちゃん、発情期だけじゃないぞ?楽しいのは」

ニヤリと笑う美貌の男は手を止めようとしない。制服のボタンを一つ一つ丁寧に見せつけるように外し、噛み跡を舌で舐め上げる

「ちょっと、待て、嫌だ!嫌だっ!!」

発情期でない時は全力で抵抗する。逃げれるか逃げれないかは五分五分だ

発情期ならば逃げることも出来ないが

「あ!叔父さん、叔父さんが呼んでたんだよ!番になったなら話があるって!」

不服そうな神宮寺だったが、のそりと立ち上がり俺の制服のボタンをかけ直し、自らの着衣も整えている

こんな事に応じるとは思っていなかったので
唖然とする俺を抱き上げて、神宮寺は華やかに笑った

「そうだ。番になったんだから、ちゃんとしないとな?叔父様にもきちんとご挨拶をしないと」

「ん?いや、え?違う話だと思うけど……」

言いながら内心不安になる。何故ならば叔父さんは断然、番賛成派、神宮寺の味方、数ヶ月だけとはいえ、甥に無体な事をされるのを見て見ぬふりをするかもしれない

「あ、いや、違う、きっと違う。番だからって何も変わらないじゃ……」

神宮寺がいつになく真剣な顔で見下ろすからドキリとする

神宮寺らしからぬ爽やかな、優しい匂いが漂う

「ちゃんとしたい…、いつまでも逃げないでくれ…」

超越した美形に、こんな事を囁かれたらどうなるのか?

心臓がバクバクと嫌な音を立てる

いや、騙されてはいけない、神宮寺の番は3ヶ月迄なのだから

「だ、騙されない、今までの番達にも、ちゃ…ちゃんとしたのか?」

奈津の辛そうな顔が想い浮かぶ

色々な元チビシリーズを見るに、絶対してないだろうと睨む

「しぃちゃんはさあ、俺の何を知ってるの?あの番達も理由があると思わないの?何でわざわざ多人数と番うのか理由があると思わないの?別に番にならなくても遊びならヒートを楽しむだけでもいいと思わない?」

「な、何か理由があるのか?」

「あるよ、しぃちゃん以外は全員、政略的な番なんだよ。噛まなきゃ人身御供にならないだろう?もう今後は断るけど。しぃちゃんは最低とか思ってるんだろうけど、本人達は希望して来ているし、あんなの施しだよ。子供を産めば尚良しで将来的にも金銭的には援助されるし悪い話ではないと思うけど」

施しと言い切る神宮寺に唖然とする。そりゃあ、オメガは就職に不利だし、アルファに捨てられて、経済的に困窮しているオメガも社会問題になるぐらいだしそうなのかもしれないけれど

「いや、でも…やっぱり好きな人は1人だと思うし…」

「それが奈津なの?何で好きなの?」

なんとなく、寒気がした。逆光で神宮寺の表情は見えないが、悍ましいような、恐ろしいような気持ち悪さが込み上げてくる

抱き上げている神宮寺の手に、指に力が入っている

「何で、何でだろう…?いい、匂いがした。ずっと一緒にいたいって思った…」

「ふーん、匂いね。それは俺の匂いだよ。錯覚を起こしたんだ。運命が一番目に認識してしまったんだ。断言するけれど、3ヶ月後には奈津が好きなんて気持ち霧散するよ」

匂いと聞いた瞬間、神宮寺の空気が和らぎ、ホッとする

神宮寺に抱かれたまま、手をぎゅうと握り込む。この気持ちが錯覚だと神宮寺は言う

運命の錯覚なんて有りえるんだろうか?

でも確かに神宮寺に対して奈津と一緒にいる時と錯覚する時がある

ヒート中、奈津の名前を戮とどちらかわからず声が枯れるまで叫んでいた

神宮寺なのか奈津なのか解らない時があった

「もう奈津に近づくな。これは命令だからな。次、近付いたら死ぬほど後悔させるから」

神宮寺が優しい顔で、本気で脅してくる。握っていた手が震えた

でも、錯覚だとしても心の中にある気持ちをどうすればいいんだろう

奈津に会いたい、触れたいーー

「奈津が、酷い目にあうだけだからね?」

神宮寺の言葉にだらりと手を下げた

前回だって自分は奈津を守れなかった。神宮寺にいいようにされた。今も番になってしまい逆らえない

「しぃちゃん、泣かないで…ちゃんと認識が正しくなるまで付き合うから。ほら、叔父さんが心配するよ?」

理事長室の前までいつの間に来たのか涙を拭う

啄むように顔中にキスをしてくる神宮寺を振り払った

「…認識ってなんだよ…、もうわけがわからない…」

「………そうやって、わかっている癖に運命をすり替えた所だよ」

神宮寺は顔を真っ直ぐ向けたまま理事長室の扉をノックする

大きな重たそうな扉に響く音に、中から明るい返事がきこえて、気持ちが暗くなる

叔父さんは、厄介払いが出来ると喜んでいるはず。何の話かは知らないが、いまから出される神宮寺からの提案は全て承諾されるだろう

「俺は、番になんてなりたくない……」

「諦めろ。もう番だ」

俺の言葉に神宮寺は冷たい目で睥睨してくる。こんなに冷たくて怖いのに、どこか甘やかな空気を出してくる

微妙な空気の俺たちを叔父さんは明るく出迎え

案の定、俺の親権を神宮寺に譲り、2人の番を認める書類に嬉々としてサインしていた

「番として神宮寺家の人間になった紫苑には屋敷に入ってもらおうと考えています。妊娠の可能性もありますし」

神宮寺の言葉に愕然とした。考えていなかったわけではないが、妊娠、子供が出来る可能性があるのだ

薄い自分の腹をさすりゾッとする

「が、学校は最後まで通いたい…」

「ダメだ。さっきので確信した。誰とも会わせない。勉強ならリモートで受ければいい」

「まあそうだね。体育とか妊娠していたら危険だから神宮寺くんの言う通りにしなさい。しぃちゃん良かったね」

くその役にも立たない叔父さんを睨みつけると、素知らぬ顔をされた。

「神宮寺…学校だけは通いたい…」

「……話は後だ。帰るぞ」

神宮寺は短く言うと、俺を肩に担ぎ上げる

屈辱的な扱いに、背中をバシバシ叩いたが、神宮寺はびくともしない

神宮寺は3ヶ月後について言及しないが、タイムリミットがある番契約の筈が、最近の神宮寺の言動が俺を不安にさせる

まるで、3ヶ月後も続きがあるかのように振る舞っていて、それに確信があるかのようなのだ

部屋に着くと、神宮寺のベッドに放り投げられた

「……本当に奈津に近づかない、喋らない、関わらないと約束できるなら、通ってもいいが」

神宮寺の言葉に俯く。このままいけば奈津に二度と会えないし、約束してしまえば近づくことも出来ない

「……俺、番契約了承ちゃんとしたわけじゃない」

「番にしてくれと頼んだのは誰だ?」

「あれは、あれはヒートでっ!戮、何でそんなに奈津に近づけないようにするんだ?」

「……なんでだと?」

神宮寺が壁を殴り、部屋に響いた物音にびびってしまった。怒りで震える神宮寺は綺麗な顔だけに迫力が凄まじい

そのままのしかかられて、顔を間近に近づけて睨みつけてくる

「番が!目の前で!他の男を選ぶんだぞ!?番契約が…成されているのに……」

顔の真横にある神宮寺の手が怒りで震えている

怖すぎて、ぽろっと涙が出た

「俺にどうしろってんだよ?!2ヶ月後には臭いとか言われて放り出されるのに、好きになれとでも言うのか!?なんで放っておいてくれない!?俺は…戮を好きになりたくない」

情けない顔を覆い、泣きじゃくると神宮寺はふらりと身体を起こした

「……ああ、俺の躾が悪かったのか。ごめんな、しぃちゃん、俺が甘やかしてばかりで、ちゃんと躾けないから信じていいか迷って、こんな事になったんだ…」

笑いながら言う神宮寺は、早口で焦点があっていなかった。怖くなって身体を起こそうとすると、ベッドに縫い止められた

「………もう二度と、そんな事は言えない、いい子になろうね?」

神宮寺の伸びてくる大きな手と、冷たく美麗に笑う顔に怖気が走った






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