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しおりを挟むお互い疲弊の色が濃くなってきたところに、またコボルトが降ってきて攻撃をしかけてくる
湿地のためか、汗でびしょびしょになっているところに、コボルトがまた降ってくる
コボルト自体は強くないし、バルジアンも最初は余裕の表情だった。でも絶え間なく続く隠れての攻撃に疲労と苛つきが堆積されていく
恐らくだが、バルジアンの魔法の最たるものは、肉体強化なのだろう。回復魔法は肉体強化の最たる魔法。だから、あんな小さい頃でも凶悪に強かったのだ
だから、戦いに入ると、ずっと魔法を使わないといけないはめになる。
あれだけの強化、普通はオーバーキルなのだが、バルジアンの弱点は、長時間の戦闘だ
つまり、バルジアンの魔力が尽きた時、前回のようなふにゃふにゃ期がきてしまったら、全滅する危険性がある
やはりバルジアンの言う通り、本拠点を決めて、探索していき脱出を試みた方が良いだろうか
「はあ…はぁ…」
バルジアンの息も上がってきていて、顔色も悪い
しかし、本拠点にするにはコボルトがひっきりなしに現れるし、湿地帯であんまり良くない
元の茎のところに戻るには、湿地帯を進み過ぎている
戻るにしても、バルジアンの体力がもつかわからない
俺が戦うという手もあるが、あいにくおれは、ずっと光魔法を使って辺りを照らしたままなので、手が開かない
八方塞がりだ。じわじわと狩られてるのはこちらの方かもしれない
「クルー、あと1時間」
バルジアンの顔色が悪い。真っ青になっていて、魔力切れを起こしかけているのだろう
「あと1時間しかもたない」
バルジアンの言葉に目を瞑る。仕方ないだろう。仕方ない。ずっとぶっ続けて戦い続けているのだから
あと、1時間で、この湿地帯を抜けれるだろうか?賭けになるが
「……進みましょう」
バルジアンが下唇を噛む。俺の我儘で、バルジアンにこんな危険な真似をさせてしまった。
「ごめんなさい、バルジアン様」
「謝るな」
しつこいコボルト達をいなすバルジアンの後を泣きながら着いていく
「なんとか、なるから…」
バルジアンが言い終わった時、一匹のコボルトが俺の手を引っ掻き、光魔法が消えて、あたりが真っ暗になる。暫くすると周りが一斉に光り、沢山の目が現れた
また再びコボルトの群れに囲まれたのだ
「大丈夫、大丈夫…、クルー、絶対に動かないで」
細い息のバルジアンに、何度も何度も謝る
バルジアンが倒れていくのに、コボルト達が群がっていく
「バル…!!」
「来るな!絶対動くな!!」
バルジアンに駆け寄ろうとすると、鋭い叫びにピタリと止まる
コボルト達の目が、一斉にこちらに向いたのだ
冷や汗が背中を流れる
「がっ……ぐっ……」
バルジアンのいた所が山になり、短い悲鳴が聴こえる
どうしよう、どうしたらいいんだ、攻撃できる魔法、ないんだ。俺は攻撃できる魔法が使えない
ぐらぐらとコボルト達の山が揺れて、やがて、ぴたりと止まる
しんと静かになった辺りに、ごくりと吐息すら潜める
そろりと光魔法を戻すと、バルジアンがいた所のコボルトの山は動かない
それは獣の唸り声だった
コボルト達の山がふっとび、咆哮をあげながら、バルジアンが両腕を振り回し、コボルトを噛みちぎり、踏み潰す
狂ったような憤怒の表情は、ふだんのへにゃりとしたバルジアンとはかけ離れて、まるで野生の手負の獣だ
噛まれたあとなのか、血が出ていたところも、すぐに塞がり、正気を失ったバルジアンはコボルト達を力任せに圧死させていく
あまりの迫力に、コボルト達も動けなくなっているようだ
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