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それどころか、バルジアンが咆哮をあげるたび、ころころとコボルト達が降ってくる

それを屠りながら、バルジアンが暴れている

バキッとかゴキっとか骨を砕く音と、コボルトの断末魔が絶え間なく湿地帯に響く

暫くすると、もう動くものは肩で息をしている血塗れのバルジアンと俺だけになっていた

「あっ…う…」

はずかしながら、俺は腰が抜けて立ち上がれなかった

ふー、ふーっ、と息が荒いバルジアンから隠れるようにコボルトの死骸の山の影に隠れる

いつしか、光魔法を使うのもやめていたので、あたりは暗く、バルジアンの息遣いしか聴こえない

衣擦れの音と、血生臭い臭いに満ちた異常な空間で、息をころす

バルジアンが正気だとはとても思えなかった。すごく、怖い


ぐりんと、バルジアンが此方に振り返った気配がした

張り詰める空気に、狂気に満ちた時間で、ぶるぶると体が震えてくる

バルジアンは、そうゆっくり、殊更ゆっくりと音を殺し、近づいてくる気配がする

まるで獲物を見つけた肉食獣のような慎重さで、近づいてきていたのに、何を思ったのか急に止まった気配で、そろりとコボルトの山から真っ暗闇を覗く

「ば…バルジアン様…?」

震える声で恐る恐る呼びかけると、後ろから引き倒され、驚いて光魔法を飛ばすと、腹の上に跨り、唇を舐めながら笑う半裸のバルジアンがいた

見事に筋肉質な胸筋は血で濡れており、蒼い宝石みたいな瞳がぎらぎらと興奮しきった様子で、上から見下ろしている

「ちょっ……、なにするんですか、バルジアン様……」

悪い冗談だと思い、起きあがろうとすると、再び押さえつけられる

目が、正気じゃない

痛いくらい手首を掴まれて、身動きがとれず、戸惑っているとバルジアンの綺麗な顔が近付いてきて唇をぺろぺろと子犬のように舐めてくる

くすぐったくて身を捩ると、ぐったりとしてバルジアンは気を失った

心臓がまだ、ばくばくとなっている

魔力切れだろう

ヒーリングをかけながら、口を押さえる

すっごく怖かったけど、バルジアンが、すっごくかっこよかった…。

バルジアンは一体、何をしようとしていたのか…

青くなってきている手首と、指の跡がついている腕も一緒にヒーリングする

「……いやいやいや、ないない…」

赤くなるほっぺたを擦りながら、湿地帯の岩の上にバルジアンを引きあげて頭を撫で撫でする

いつの間に、こんなに大きくなってたんだかなあ

あんなに、びぇえんと泣いてばっかりだった子供が今では、すやすやと穏やかな寝息をたてて、さっきまでの狂人のような暴れ方をしたのと同一人物説とは思えない





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