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第二章(謎解きのおわり)
安心してください、モブです。
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よく見れば、本屋にそろって入店してきた女の子たちは、みんな一様にグリーンのエプロンを掛けている。それは、太郎さんが掛けているのと同じものだ。
つまり、彼女たちも、この本屋の店員さんたちなのだった。
だけど、まだ営業時間中だというのにも関わらず、もう仕事終わりな素のテンションで、やってくるとは、一体何事だろうか。
呆気にとられたままの僕に気がつくと、太郎さんは、取ってつけたように説明をしてくれた。
「ああ、この子たち、ここのバイト」
いや、それは見りゃ分かります。
先陣を切ってレジまでやってきた、キレイめな見た目の女の子が、太郎さんの腕を強めに揺すりながら言った。
「たろちゃーん、上手く行ったみたいじゃーん」
その文末にハートマークが見えそうな甘い声だった。途端に太郎さんは、あからさまにデレっとした、だらしのない目つきになって、その女の子をじっと見つめている。
「フフッ……いや、でも、まだ告ってねーんだわ」
「ええええっ!?」
太郎さんにしがみつく女の子を筆頭に、悲鳴に近い叫び声が店内に響いた。
オイオイ、ここの本屋は、一体どうなってんだ? もしかして、僕が気づかなかったタイミングで、別世界に転生とかしてない?
「たろちゃん! せっかく私達がきっちり30分も余裕を持たせて時間あげたのに、まだ好きって言えてないのおー!?」
すると、さっきまで飄々とした佇まいをキープしていた太郎さんは、その顔を徐々に赤く染め始めた。
……え? 告白って、なんです? もしかして僕の預かり知らぬところで、サプライズイベントが計画されていたとか?
ほら、あの、陽キャカップルによくありがちな、意味不明に突然ダンスが始まって最終的に、プロポーズするみたいな……。
さすがに只事ではない空気を感じ取った僕は、一旦この場をそそくさと退散することにした。
「……あの、デジャ……じゃなくて太郎さん、僕、とりあえずハケますね」
その瞬間、本屋とは思えないくらい騒がしかった店内が急に静まり返った。
どのくらいの時間が過ぎ去ったことだろう……。
たぶん、一瞬に満たない程度だったはずだが、あまりにも僕に対する冷徹な女の子たちからの視線に耐えかねて、それは永遠みたいに長い時間に感じられた。
「……は? ……ハアアアアアアアア!?」
女の子たちの怒りの矛先が、何故だか僕に向いていると察して、思わず目線で太郎さんに助けを求めたが、太郎さんは、明後日の方向を向いている。
「……あなたねえ、たろちゃんが、何年あなたに片思いしてると思ってんの!? たろちゃんはねえー、もうかれこれ9年間くらいずっと、拗らせてんの!! その辛さがあなたに分かるの!?」
……ん? 何言ってんだ、この人……。
「それが、やっと……やっっと、気持ちを打ち明けるチャンスが来たっていうのに……たろちゃんの告白の邪魔すんの辞めてくれる!?」
たぶん彼女は何らかの怒りで、今周りが全く見えてない状態みたいだ。ちなみに、それ以外の女の子たちは、急にザワつき始めているし、太郎さんに至っては、両手で顔を覆ってしまっている。
「……ねえ、あかりちゃん、どっちかっていうと、邪魔してるのはアナタみたいよ……」
勇気ある一人が、その「あかりちゃん」とやらに声を掛けて、そっと肩に手を置くと、ようやく「あかりちゃん」は、目を覚ましてくれたようだ。
「あっ!? ……ヤダ、私ったら……」
そう慌てて言うなり、太郎さんのところに駆け寄って、必死に謝り続けている。
……いや、なんだ、この。文化祭の出し物みたいな寸劇は……。
つまり、彼女たちも、この本屋の店員さんたちなのだった。
だけど、まだ営業時間中だというのにも関わらず、もう仕事終わりな素のテンションで、やってくるとは、一体何事だろうか。
呆気にとられたままの僕に気がつくと、太郎さんは、取ってつけたように説明をしてくれた。
「ああ、この子たち、ここのバイト」
いや、それは見りゃ分かります。
先陣を切ってレジまでやってきた、キレイめな見た目の女の子が、太郎さんの腕を強めに揺すりながら言った。
「たろちゃーん、上手く行ったみたいじゃーん」
その文末にハートマークが見えそうな甘い声だった。途端に太郎さんは、あからさまにデレっとした、だらしのない目つきになって、その女の子をじっと見つめている。
「フフッ……いや、でも、まだ告ってねーんだわ」
「ええええっ!?」
太郎さんにしがみつく女の子を筆頭に、悲鳴に近い叫び声が店内に響いた。
オイオイ、ここの本屋は、一体どうなってんだ? もしかして、僕が気づかなかったタイミングで、別世界に転生とかしてない?
「たろちゃん! せっかく私達がきっちり30分も余裕を持たせて時間あげたのに、まだ好きって言えてないのおー!?」
すると、さっきまで飄々とした佇まいをキープしていた太郎さんは、その顔を徐々に赤く染め始めた。
……え? 告白って、なんです? もしかして僕の預かり知らぬところで、サプライズイベントが計画されていたとか?
ほら、あの、陽キャカップルによくありがちな、意味不明に突然ダンスが始まって最終的に、プロポーズするみたいな……。
さすがに只事ではない空気を感じ取った僕は、一旦この場をそそくさと退散することにした。
「……あの、デジャ……じゃなくて太郎さん、僕、とりあえずハケますね」
その瞬間、本屋とは思えないくらい騒がしかった店内が急に静まり返った。
どのくらいの時間が過ぎ去ったことだろう……。
たぶん、一瞬に満たない程度だったはずだが、あまりにも僕に対する冷徹な女の子たちからの視線に耐えかねて、それは永遠みたいに長い時間に感じられた。
「……は? ……ハアアアアアアアア!?」
女の子たちの怒りの矛先が、何故だか僕に向いていると察して、思わず目線で太郎さんに助けを求めたが、太郎さんは、明後日の方向を向いている。
「……あなたねえ、たろちゃんが、何年あなたに片思いしてると思ってんの!? たろちゃんはねえー、もうかれこれ9年間くらいずっと、拗らせてんの!! その辛さがあなたに分かるの!?」
……ん? 何言ってんだ、この人……。
「それが、やっと……やっっと、気持ちを打ち明けるチャンスが来たっていうのに……たろちゃんの告白の邪魔すんの辞めてくれる!?」
たぶん彼女は何らかの怒りで、今周りが全く見えてない状態みたいだ。ちなみに、それ以外の女の子たちは、急にザワつき始めているし、太郎さんに至っては、両手で顔を覆ってしまっている。
「……ねえ、あかりちゃん、どっちかっていうと、邪魔してるのはアナタみたいよ……」
勇気ある一人が、その「あかりちゃん」とやらに声を掛けて、そっと肩に手を置くと、ようやく「あかりちゃん」は、目を覚ましてくれたようだ。
「あっ!? ……ヤダ、私ったら……」
そう慌てて言うなり、太郎さんのところに駆け寄って、必死に謝り続けている。
……いや、なんだ、この。文化祭の出し物みたいな寸劇は……。
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