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13 昔見た争い
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戦争、という言葉を聞くとアリシアは思い出すことがある。
さらさらした黒髪と、雲一つない空のような青い目。それは初めて自分が不老不死だと言うことを、自覚した出来事の記憶だった。
アリシアが学校に通い出して二年目、十四才になる頃。隣国と戦争が始まった。
何がきっかけなのか、どちらから仕掛けたのかも、色々な噂が飛び交いわからない。
その時学校に通っていた者は、家に戻るよりそのまま学校の寮にいた方が安全だ、という事で全校生徒が寮生活をすることになった。
一人で何でしなくてはいけない生活に、不安が残るアリシアが寮で何とか生活できたのは、恐れ多くも偶然仲良くなったこの国の第二王女のおかげである。
王女は、その高貴な身分からは想像がつかない程に面倒見がよく、アリシアが何か失敗しても朗らかに笑いながら手助けをしてくれた。アリシアと王女はそこから少しずつ仲良くなり、自分たちの部屋を行き来する程の交流を持つ事になる。
事が起こったのはアリシアが十五才になった時。
その日は王女の部屋で二人、ちょっとしたお茶会をしながら楽しく話していた。
すると突然、周りが騒がしくなり、不思議に思ったらしい王女は少し様子を見てくると言って部屋の外へ出ていった。アリシアはついていこうか迷ったのだが、窓から見てみればいいかと思い窓に近づき……大きな音と衝撃が来た、という認識を最後に意識を失った。
「何だこの小娘は! 私は第二王女を攫えと命令したはずだ!」
アリシアが意識を取り戻したのは大きな恐ろしい声が聞こえた時だった。
ぼんやりとした思考がその言葉を理解した瞬間、心臓が嫌なくらい脈打つ。震える瞼をうっすらと上げ周りを確認すると、赤銅色の鎧――戦争中の敵国の鎧――が見えた。全身に震えが広がるのを気力で抑え込む。
敵国が第二王女を攫おうとしていた。
それは先程の言葉からも、今誰かが怒鳴り散らしている言葉からも理解できる。
アリシアが王女と間違って連れてこられたのは、王女の部屋にいたからだろう。
勿論容姿はまるで違う。王女は溌剌とした雰囲気の美少女だ。
しかし、王女が狙いなら間違えた私はどうなるのだろうか。解放するわけが無いし、利用価値を考慮して牢屋に入れる事もないだろう。
アリシアはそこまで考え、敢えて目を逸らしていた現実に突き当たる。
――殺されるのではないか。
そう思った瞬間、震えが抑えられなくなりガタガタと体を揺らす。
アリシアが目を覚ましたのがわかったのであろう怒鳴り散らしていた隊長らしき人物は、舌打ちをしなから起きていたかと呟くと、面倒な事になったという空気を出しながら淡々と命令した。
「殺せ」
それからの事はわからない。
一人の隊員が何かを言って、そこから言い争いになっていた気がするが、霧がかかったように思い出せない。
アリシアが覚えているのは、その後。
黒髪の青年が、意志の強そうな青い目に辛そうな光を浮かべ
「俺を恨んでくれ」――と、言いながらアリシアの胸に剣を突き立てた事だけだった。
痛いとか苦しいとかいう感情を置き去りにするくらい、アリシアはただ、漠然と綺麗だと思った。
最期に見ているのがこの人で良かったと何故か心から感じていた。
それだけが記憶に焼き付いている。
そして、目を覚ました時アリシアは自分が死ねない体だと知る事になった。
「あれから百何年経ったのかしら、数えてないのよね」
指を折って数えてみるが、日にちや時間すらわからない時があったので想像でしか数えられない。
「百、二十? それとも三十? あら、そう考えると私の年齢って……」
この話は止めておこう、と独り言を言っているアリシアをバルトは悩むように見ている。
屋敷にバルトが来たのは、アリシアが住み始めて数年後なので大体の年数はバルトがわかるのだが……それとなく年齢を気にしている様子のアリシアには、伝えない方がいいだろうと黙ることにした。
「そろそろ記憶も薄れてきたような……年のせいかしら」
まだ何かを言っているアリシアは不自然な程沈黙している鎧の、月の無い夜のような黒色が薄れている記憶の中に残っている黒髪の色にどこか似ている、とほんのり思った。
さらさらした黒髪と、雲一つない空のような青い目。それは初めて自分が不老不死だと言うことを、自覚した出来事の記憶だった。
アリシアが学校に通い出して二年目、十四才になる頃。隣国と戦争が始まった。
何がきっかけなのか、どちらから仕掛けたのかも、色々な噂が飛び交いわからない。
その時学校に通っていた者は、家に戻るよりそのまま学校の寮にいた方が安全だ、という事で全校生徒が寮生活をすることになった。
一人で何でしなくてはいけない生活に、不安が残るアリシアが寮で何とか生活できたのは、恐れ多くも偶然仲良くなったこの国の第二王女のおかげである。
王女は、その高貴な身分からは想像がつかない程に面倒見がよく、アリシアが何か失敗しても朗らかに笑いながら手助けをしてくれた。アリシアと王女はそこから少しずつ仲良くなり、自分たちの部屋を行き来する程の交流を持つ事になる。
事が起こったのはアリシアが十五才になった時。
その日は王女の部屋で二人、ちょっとしたお茶会をしながら楽しく話していた。
すると突然、周りが騒がしくなり、不思議に思ったらしい王女は少し様子を見てくると言って部屋の外へ出ていった。アリシアはついていこうか迷ったのだが、窓から見てみればいいかと思い窓に近づき……大きな音と衝撃が来た、という認識を最後に意識を失った。
「何だこの小娘は! 私は第二王女を攫えと命令したはずだ!」
アリシアが意識を取り戻したのは大きな恐ろしい声が聞こえた時だった。
ぼんやりとした思考がその言葉を理解した瞬間、心臓が嫌なくらい脈打つ。震える瞼をうっすらと上げ周りを確認すると、赤銅色の鎧――戦争中の敵国の鎧――が見えた。全身に震えが広がるのを気力で抑え込む。
敵国が第二王女を攫おうとしていた。
それは先程の言葉からも、今誰かが怒鳴り散らしている言葉からも理解できる。
アリシアが王女と間違って連れてこられたのは、王女の部屋にいたからだろう。
勿論容姿はまるで違う。王女は溌剌とした雰囲気の美少女だ。
しかし、王女が狙いなら間違えた私はどうなるのだろうか。解放するわけが無いし、利用価値を考慮して牢屋に入れる事もないだろう。
アリシアはそこまで考え、敢えて目を逸らしていた現実に突き当たる。
――殺されるのではないか。
そう思った瞬間、震えが抑えられなくなりガタガタと体を揺らす。
アリシアが目を覚ましたのがわかったのであろう怒鳴り散らしていた隊長らしき人物は、舌打ちをしなから起きていたかと呟くと、面倒な事になったという空気を出しながら淡々と命令した。
「殺せ」
それからの事はわからない。
一人の隊員が何かを言って、そこから言い争いになっていた気がするが、霧がかかったように思い出せない。
アリシアが覚えているのは、その後。
黒髪の青年が、意志の強そうな青い目に辛そうな光を浮かべ
「俺を恨んでくれ」――と、言いながらアリシアの胸に剣を突き立てた事だけだった。
痛いとか苦しいとかいう感情を置き去りにするくらい、アリシアはただ、漠然と綺麗だと思った。
最期に見ているのがこの人で良かったと何故か心から感じていた。
それだけが記憶に焼き付いている。
そして、目を覚ました時アリシアは自分が死ねない体だと知る事になった。
「あれから百何年経ったのかしら、数えてないのよね」
指を折って数えてみるが、日にちや時間すらわからない時があったので想像でしか数えられない。
「百、二十? それとも三十? あら、そう考えると私の年齢って……」
この話は止めておこう、と独り言を言っているアリシアをバルトは悩むように見ている。
屋敷にバルトが来たのは、アリシアが住み始めて数年後なので大体の年数はバルトがわかるのだが……それとなく年齢を気にしている様子のアリシアには、伝えない方がいいだろうと黙ることにした。
「そろそろ記憶も薄れてきたような……年のせいかしら」
まだ何かを言っているアリシアは不自然な程沈黙している鎧の、月の無い夜のような黒色が薄れている記憶の中に残っている黒髪の色にどこか似ている、とほんのり思った。
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