話せない魔女と見えない魔王

福々 ゆき

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押して引かない

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 此処は魔界を統べる恐ろしい魔王様のお城。
 魔女は本にあった言葉に目をとめた。

 『押して駄目なら引いてみろ』
 この一文を見た時、これしかない! と思うほど衝撃を受けた。
 ……受けていたのだが。

 (魔女は魔王のそばで美味しそうにケーキを頬張っている)

 おかしい。何故自分は魔王様にケーキを貰っているのだろうか。引くのではなかったかと魔女は首を傾げた。
 「美味いか?」
 美味しいです! 魔王様と一緒だと更に美味しいです!
 口元に笑みを浮かべた魔王に話しかけられた瞬間、先程まで考えていた事は霧散した。
 魔王様の前では些細なことだ。
 
 「そうか! 良かった。毒竜から良い紅茶を貰ったから、それも飲むといい」
 同意したように魔王の手を握る魔女に、魔王は機嫌良さそうに笑顔を向けている。
 
 幸せだ……。


 「何か、魔王様今日はやけに魔女に構ってるな」
 魔狼は頬を紅潮させている魔女と、いつもより距離が近いような魔王を見てそう思った。
 「まあ、そうだな。魔王様は魔女が離れるのが寂しいのだろう」
 「成る程なぁ、さみし……え? 魔王様が? んん?」
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