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善意ではない

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 此処は魔界を統べる恐ろしい魔王様のお城。
 魔導師が沈んだ様子で訪ねて来た。この前同じような事があったような……?

 控えめでいつも前髪とフードで顔を隠している魔導師は膝を抱えて座り込んだ。
 「はあ……もうお終いです……この世の終わり……」
 何だか壮大で深刻そうな様子だ。

 「勇者様は聖女様の事が好きだったなんて……」
 勘違いが起きている気がする。
 魔女は首を傾げつつも、一応魔導師を慰めた。

 「ですが! 聖女様は聖騎士様がお好きなんです……! 私はどうしたら……ぐすっ」

 勇者は魔導師が好き(勇者は魔導師が聖騎士を好きだと思ってる)
 魔導師は勇者が好き(魔導師は勇者が聖女を好きだと思ってる)
 聖女と聖騎士はお互いが好き
 一部盛大にすれ違っているが、結局誰もが両想いではないだろうか。

 魔女がどうしたらいいか迷っていると、通りかかった吸血鬼が陽気な声で言った。
 「簡単ですよぉ? 人は好意に弱いんです。毎日愛を伝えればいずれ応えてくれますよ」

 「そ、そんな事が起きるんですか!? 今すぐ帰ります! ありがとうございました!」
 つまり、諦めなければ魔王様も……!?
 良いことを聞いた! と目を輝かせた魔導師と魔女はそれぞれの目的に向かって駆け出した。


 その場に残って居るのは酔っ払いの吸血鬼だけ。
 「ふふふ、言ってみただけですが……おや? 誰も居ません。せっかちさんですねぇ」
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