好きだったあの子は異世界に

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 大好きだった幼馴染のあの子。でも、もうこの世界にはいない。
 死んだとかじゃなくて、違う世界に行った。何でそんなこと知っているかって?

 それは、目の前で転移したからだよ。あの子が、突然目の前に魔法陣が浮かんだと思えば、一瞬にして消えてしまって……その光景を俺は見ていたんだ。
 だから、俺は決めた。
 あの子に会えるなら、その世界行こうと。行こうと思って行けるものじゃないけど、いつか行けるだろうから。
「―――ねぇ、朱音。待ってて」
 必ず会いに行くよ。君がいない世界で生きるなんて俺には無理だ。
 でもね、君には既に恋人がいると思う。だって、あんなにも優しくて可愛い子なんだもん。絶対そうに違いない。 だけど、好きなんだ。だから、いつか会った時には守らせてね。

「はあ…………その世界行けるための魔法陣が見つからない」
 ここは俺と……朱音が行ってた学校の教室だ。朱音は行方不明扱い。朱音がいないから寂しい。
 正面にいるのが俺の友達、那珂川翔。翔は笑って、
「え、お前まだ探してたのかよ。良い加減諦めろよ」
 こう言う。
「そんな軽く扱って良い問題じゃないって!」
 俺は机を思いっきり叩く。すると、周りの女子がこっちを見た。翔は驚いている。俺は気にしないので続けるが、一応恥ずかしいので椅子に座る。
 視線が落ち着いた頃、俺は翔に説明した。
 この世界の魔法陣は見つかってない。
 そもそも、この世界に魔法がないらしい。あるとすれば、漫画や小説の世界だけみたい。つまり、異世界への行き方はないということ。
「そりゃそうだろ。あるとでも思ってたのか?」
「うん……」
「厨二かよw」
「うるさいなぁ! そういう翔も探してるくせに!!」
「ばっ!! ちげーし!!!」
 こんな感じで毎日過ごしている。
 俺達はまだ知らない。これから起こることを……。
「えぇ~!? 今日から転校生が来るんですか!?」
 朝礼にて担任の先生が言った言葉を聞いて驚く皆。
「ああ、そうだぞ。ほら、入ってこい」
 ガラガラっとドアを開けて入ってきたのは、黒髪ロングの美少女だった。身長は高く、スタイルも良い。胸は大きくもなく小さくもないくらいだ。顔立ちは整っていて綺麗である。
 男子達はざわつき始める。
「うおぉぉおおおっ!!! めっちゃ美人じゃん!!」
「マジタイプなんだけどwww」
 などと言う声が上がる中、俺は1人静かに考えていた。
(あれ? どこかで見たような気がする)
 彼女は教卓の前に立つと自己紹介を始めた。
「初めまして。私の名前は白雪美羽です。よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げる彼女を見て、俺は思い出す。
(ああっ!!! 少し前、街で助けた女の子じゃないか!! 転校したとか言っていたけど、まさか同じ学校に来るとは思わなかった!! しかも同じクラス! それにしても可愛いなぁ……)
 俺は彼女の姿に見惚れていた。そして気付いたことがある。それは彼女がこちらを見ていることに。目が合うと微笑んでくれたのだ。俺はドキッとした。心臓がバクバク鳴っている。
(何これ? ドキドキしてきた……これは朱音以来だ……)
 朱音以外に経験したことの無い感覚に戸惑っていたその時、翔が話しかけてきた。
「おい祐介! どうしたんだよぼーとして。何かあったのか?」
「べ、別に何もないけど」
 そう言いながら彼女をチラッと見るとまた目があった。今度はニコッと笑う。その笑顔はとても可愛かった。俺の顔が熱くなる。
「やっぱり変だぞお前……まあ良いや。それよりさっきの話聞いてたか?」
「話って?」
「転校生のことだ。俺達の隣の席になるんだってよ」
「へえ~」
 俺達が喋っているうちに先生は移動していた。そして、俺の隣の席をポンッと叩いてこう言った。
「じゃあ、ここに座ってくれ」
「はい」
 返事をした彼女が歩いてくる。そして、俺の隣に座った。
 近い……。良い匂いが漂ってくる。香水かな?  俺が顔を赤くしている時、翔はニヤニヤしながら見つめてくる。
「ふぅん……なるほどねぇ~」
「な、何だよ」
「いや、何でもないよ」
「そっか。なら良いんだけど」
「……」
「……」
 俺達は黙り込む。それから授業が始まった。隣を見ると、教科書を見ながら真剣に聞く姿が見えた。その姿もまた可愛い。つい横顔に見入ってしまう。
 すると、視線に気付いたのか、彼女がこちらを見た。慌てて目を逸らす俺。美羽にクスッと笑われた。
「……!」
 笑われた。恥ずかしくて顔がさらに赤くなったのが自分でもわかる。でも、懲りずに何回も隣を見てしまう。
 隣が気になりすぎて授業に集中できなかった。

 授業が終わった。俺は席を立ち翔の元に行こうとしたが、美羽に話しかけられる。
「ねえ、祐介さん。少し良いかしら」
「えっ? はい、良いですよ」
 教室がざわつく。
 緊張して敬語になってしまった。
「そんなに固くならないでください」
「ごめんなさい」
「謝らないで下さい。では行きましょう」
「どこにですか?」
「屋上です」
「わ、わかりました」
 教室を出て行く2人を皆見ていた。翔はニヤけていた。
―・―・―・―・―・― 
 屋上に着いた。ここには誰もいない。
 風が強く吹いている。美羽は風に靡く髪を手で抑えている。
 俺はというと、ずっとドキドキしていてそれどころではない。
「ねえ、祐介さん」
「ひゃいっ!」
 美羽は口に手を当てクスッと笑う。どこかのお嬢様みたいだ。俺が見惚れていると、美羽は話し始めた。
「祐介さんは魔法陣を探していると聞きました。幼馴染の子を探すために」
「え……?」
 俺はさっきまで見惚れていた美羽に衝撃的な話を聞かされる。
 どうしてそれを? もしかして誰かから聞いた? 疑問が湧き上がってきたから、とりあえず質問をする。まずはなぜ知っているかだ。次に、誰から聞いたかだ。最後に何故このタイミングでこの話をしたかだ。
 この3つを聞かないと、落ち着いて話が出来ない。
 だから、最初にこの三つを聞いた。
 俺が思うに、俺が街で助けた女の子だったからだ。つまり、あの時に話したことを聞いていたことになる。
そして、美羽が言うには、俺はもう1人の女の子を助けるために来たと言っていたらしい。
 でも、そんなたまたま出会った人に話す内容じゃないから推測は違っていた。
「私は教室に入る前に貴方達の会話が聞こえました。その時、私にもお手伝いできないかと思って。転移できる魔法陣と朱音様を知っていたし……それに私、貴方達と話せる時間は少ないので」
 朱音に少し引っ掛かるがそれよりも気になることがあった。
「ちょっと待って! 貴方達ってことは、翔もいるってこと!?」
「ええ、いますよ」
 俺は後ろを振り向いた。そこには、ドアに隠れながらこちらを見る翔がいた。翔にも聞かれていたようだ。
(なんで盗み聞きしてんだよ……)
(いやぁ、「俺も探すの手伝うぜ!!」とか言っても「余計なお世話」とか言われそうだしさぁ?)
(それはそうだけど……)
「まあまあ、とりあえず続きを聞いてください」
「あっはい」
 美羽に促されて再び前を向き直した。美羽の話はまだ続く。俺は彼女の話を聞くことにした。
 美羽の話によると、彼女は異世界から来たと言う。そして、今知っていることを全て話してくれた。朱音と同じ世界にいること。朱音は転移者として聖女になっていること。その世界は戦争が絶えないこと。朱音は勇者と共に魔王を倒しに行ったこと。美羽はそこまでしか知らなかった。美羽は姫らしいが、急に転移されてしまった朱音の友達や両親のフォローをするためにここに来たこと。残念ながら両親は信じてもらえなかったが祐介達が信じていたのでここに来たということ……。
 その話を聞いた時、俺の頭の中には一つの考えが浮かぶ。もしかすると、その戦争で俺の幼馴染が死んだかもしれないということ。
 でも、まだ死んだと決まったわけじゃない。
「なあ、翔……」
「なんだ?」
「朱音は死んでないよな……?」
 美羽と翔に目線をやる。
「……」
 美羽は何も言わなかった。
 俺はショックを受ける。朱音が死んでいないこと祈った。美羽があ、と言う。美羽は沈黙を破った。
「私、もう帰らなきゃ……」
「美羽さん、俺も連れて行ってください」
「俺も!」
 祐介と翔は決心したようだ。
 美羽は一瞬戸惑ったが、すぐに微笑んでくれた。
「邪魔にならないようによろしくお願いしますね」
 2人は笑顔になった。こうして、3人で協力することになった。
 今日の授業が全て終わった後、また屋上来ること約束した。
―・―・―・―・―・― 
 祐介と翔と美羽は魔法陣の中に入り、転移した。
 美羽はまず王城に向かった。国王は見知らぬ祐介と翔を保護した。
 美羽が祐介と翔を異世界に連れて来たことを国民は驚く。なぜなら、姫である美羽が男を連れて帰ってきたからだ。
 祐介と翔はすぐに朱音を探そうとしたが、まずはこの世界のことを知ることが先決だと思い、城に戻ることに。
 その後、美羽達は前の世界で言う図書館に向かう。そこに行けば、この国のことや勇者とかを詳しく調べられるだろうと考えた。だが、そんな本は少ししかなく借りて、城で読むことにして帰った。

「ふぅ~疲れた~」
 俺はベッドにダイブする。今日はいろいろあった。
 美羽は王様に事情を話した後、俺達に部屋を貸してくれた。
 借りた本を一緒に読むと思ったが、美羽は用事があると言ってどこかに行ってしまった。

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