異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。

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青いハーブティー



「それで俺のとこに来たのか」

眼鏡の奥の瞳をわずかに歪めて白衣の男はそう呟いた。

よく言えば落ち着いている、悪く言えば感情の乗らない抑揚のない口調と表情はともすれば不機嫌に見える。
青白い顔や目の下のクマ、神経質そうな風貌がその印象にいっそう拍車をかけていた。

だがクラレンスは知っている。
一見不機嫌そうに見えるそれが彼の常であることを。

「科学のことならアイザックさんに聞くのが一番だと思って!」

なのでクラレンスは少しも怯まずこっくりと頷いた。

だって本当に不機嫌な彼はそれはもう般若のごとく顔をしかめることを知っている。
研究費を削られたときの迫力はそれはもうすごかった。夢に見そうなほどだった。

怖くない相手だとわかっていれば、一見酷薄に見える相手だろうと、強面の相手だろうと無意味に怖がったりしないのがクラレンスだ。

マイペース男子、強し。


ここは城の奥にある研究室の一室。
目の前の相手はこの部屋の主であり、城仕えをする優秀な科学者であるアイザックだ。

シルクへのプレゼントであるリングピローを作るにあたり協力してもらった相手でもある。

ローランの友人で、彼がつけたあだ名は「メガネ」。
もちろんクラレンスはちゃんとアイザックさんと呼んでいる。

「色が変わる茶か…………。バタフライピーなんてどうだ?」

腕を組み、片手で顎のあたりを触っていたアイザックの言葉にクラレンスは目を輝かす。

「あるんですか?!」

思わず前のめりになった。

「あっ……でも熱帯地域の植物ですよね。季節もいまの時期だと花はないけど……ドライハーブならなんとか手に入るかなぁ?」

「なんだ、知っているのか」

あっ……と声を漏らすクラレンスにアイザックが意外そうに瞬く。
あいまいにクラレンスは笑った。

クラレンスがアイザックの元へ来た理由。

それは先日のデーヴィッドの相談が発端だった。

相談内容は茶会について。

…………なんでもデーヴィッドの母上である公爵夫人が先日とある茶会に招かれたらしい。

貴族にとって社交の場はある意味戦場。
親交のある者同士の和やかな茶会だけでなく、笑みの裏で腹の探り合いしかない殺伐とした茶会も山ほどあるらしい。夫人がお呼ばれしたのは後者だった。

名のある音楽家を招いたその茶会は控えめにいっても素晴らしいものだったらしい。

そこで素直に「素晴らしい」と感激して終われないのが貴族の茶会。

相手が政治的に敵対勢力の派閥で、さらには「公爵家のお茶会はきっともっと素晴らしいのでしょう」なんて扇子の裏で笑みを浮かべて挑発されればなおさらだ。

ようは「売られたケンカは買いましょう」ということ。

公爵家の権力をもってすれば音楽家や芸術家を用意することは可能だ。
だがそれではただの二番煎じだし、周囲をあっと言わせるようなお茶会の目玉がほしい。

そこでデーヴィッドが思いついたのがクラレンスだった。

貴族社会には疎いクラレンスだが、シルクの怪我の治療にはじまり、枯れない花のリングピローだのその発想力で周囲を幾度も驚かせている彼なら斬新な発想を思いつくのではと相談した次第だ。

そこでクラレンスが思いついたのが青いハーブティーの“バタフライピー”。

鮮やかな青いお茶はインスタ映え抜群で女子人気が高かったし、話題性としてはもってこいじゃないかと思ったのだ。

ただ……同じ植物がこの世界にあるかわからなかったので、「青いハーブティー」「クエン酸に反応して色が変化する」などの特徴の植物を尋ねてみた。

その結果、アイザックから返ってきた答えがバタフライピーだった。
この世界にもあのハーブはあるらしい。

これはなんとかお友達の役に立てそうだぞ!とニコニコしながら話をつめるクラレンスだった。

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