異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。

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魔法??いいえ、化学反応です



光沢の美しい白いクロスのかかったテーブルの上はとても華やかだった。
スコーンやケーキの乗った三段トレー、繊細な金の縁取りの入った白磁のティーセット、そして…………飾られた青いバラ。

澄んだ青に、紫がかった青、淡い紫と青系統でまとめられたバラたちはロマンティックで幻想的だ。

思わず目を奪われた少女たちがうっとりとため息に似た息を漏らし……慌てて表情を引き締めちょこんとドレスをつまみ公爵夫人へとあいさつを贈る。

クラレンスも借りてきた猫ちゃんたちを総動員してがんばった。

「デーヴィッドの母のマリアンヌと申します」

目の当たりにした公爵夫人はすごく美人さんだった。

シルクやエミリアだって相当な美少女だし、彼女たちの母上や王妃様、美人はそれなりに見慣れたつもりのクラレンスでも目を瞠るほどの美貌。

切れ長の瞳に薄く笑みを刻んだ唇、結い上げた銀の髪は「氷のバラ」の名に不足なし!な貫禄だ。

要約すると「うちの子と仲良くしてくれてありがとう。今日はわざわざごめんなさいね」を格式ばった口調と玲瓏な声で紡ぐ公爵夫人。

ぶっちゃけその全てが社交辞令にしか聞こえない。
薄い水色の瞳に一挙一動を観察されている気がするし、扇子に隠した口元が冷笑を浮かべているようで気が気じゃない。

うわぁ……、王族よりも緊張するよぅ……。

クラレンスは心の中で泣き言をもらした。

視線の端でデーヴィッドが「だいじょうぶだ」「がんばれ」と目線で訴えてくるのに小さくうなづき、すーはーと深呼吸してから口を開く。

「デーヴィッドくんから相談を受けて、今日はお茶会を彩る珍しい品を用意してみました」

よし、噛まずに言えた!

「このお花のことかしら?とても美しくて素敵だわ」

瞳を細めた公爵夫人が指先で花弁を撫でる。
どうやら気に入ってもらえたようだ。

「ええ、本当にステキ……!青いバラなんてロマンティックですわ」

「クラレンス様、これって……プリザーブドフラワーと同じように染色を?」

うっとりとエミリアは胸の前で手を組み、シルクがまじまじとバラを見つめてから尋ねた。
シルクに贈ったリングピローも青いバラを使用したから気になったようだ。

「ううん。これはあの染料とは別。こっちの方がお手軽にできるよ」

プリザーブドフラワーは脱色と染色の液剤の確保が難しく、大々的な商品化を狙っていたエリックが涙をのんだが、この生花の染色だけなら断然お手軽。

水溶性インクのほかに食紅でもイケるらしいですよ。
……試したことないですが。

「染料で生花に色をつけているので、好きな色に染められます。今回は青系統にしてみました」

「青いバラは珍しいですし、母上なら赤よりも青の方が似合うと思いまして」

「まぁ、ありがとう」

告げられたお礼の言葉はそっけなく響く。
だけど扇子の向こうにある瞳を見て、クラレンスはパチリと目を瞬いた。

「どうかして?」

「いえ」

ふるふると首を振り、控えていた使用人へと目をやった。
心得たように使用人が下がり、茶器を手にすぐに戻ってきた。

「青バラともうひとつ、今日はハーブティーを用意しました」

繊細な白磁のティーセットとはちがうガラスのティーポットにドライフラワーをいれてお湯を注ぐ。
たちまちお湯は鮮やかな青に染まった。

「このハーブティーはバタフライピーといいます。ご覧のとおりこの美しい青が特徴で、鮮やかな見た目に反して味や香りは控えで飲みやすいと思います。お好みでハチミツやシロップを加えてもいいんですが、まずはこのままで味わってみてください」

勧めればじっとガラスのカップを見つめた公爵夫人は静かに睫毛を伏せて口をつける。

シルクとエミリアは興味津々に、デーヴィッドは初めて目にする未知の色の飲み物におっかなびっくり口にしていた。

「…………本当にクセがないな」

拍子抜けしたようなデーヴィッドの声に笑いつつ、クラレンスもバタフライピーを飲んだ。

わずかに豆のような風味が感じられるがほぼ味はない。
好みにもよるが、ぶっちゃけおいしいかというと微妙だ。

「甘みをつけるとだいぶ飲みやすくはなるよ」

そう言いつつクラレンスが手にとったのはシロップとは別の容器だった。

公爵夫人へと向き直り背を正す。

「バタフライピーはこの青色も美しいですが、他にも特徴があります。ポリフェノールの一種であるアントシアニンが多く含まれており美白やアンチエイジング効果が見込めますし、このアントシアニンが酸と反応して色が変化するんです」

レモンの果汁が入った容器をカップに傾ける。
カップの中身は鮮やかな青から紫へとたちまち変わった。

魔法のような鮮やかな変化にそこかしこから驚きの声が漏れた。

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