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ある意味これもデトックス
しおりを挟む揺れる紫の瞳から零れる涙。
長いまつげを濡らして、傷あとを、クラレンスの手を伝って流れる大粒の雫。
パタパタと零れる雫に、はじめて自分が泣いていることに気付いたシルクの表情が驚きに歪み……次いでくしゃりと崩れた。
「ふっ……ふぅっ……」
苦し気な声を漏らしながら小さな拳がクラレンスの胸を叩く。
二度、三度と繰り返し、その手はやがて縋りつくように服を掴んだ。
エリシュオンのうえに乗り出すような形でクラレンスへとすがりつく。
「…………け、……って……」
泣き声に混じった声は上手く聞き取れなかった。
「……ばけものって、いわれたのっ……」
“バケモノ”
意味をつかみ損ねた言葉を時間差で脳が理解する。
胸に顔を埋めるようにしてひっくひっくと細い肩を揺らすシルクはその体勢のまま語りはじめた。
久しぶりに感情を爆発させたからか、涙の止め方がわからず大粒の涙を零したままで。
「ほんとうに、後悔はしてなかったの。エルを守れた、っく……それが一番だもの。けどっ、悲しかったし、つらかった……」
「うん」
「わたしのかお、こんなになっちゃった」
それはシルクがはじめて漏らした本音だった。
「怯えられたし、怖がられた。みんな、はなれていったわ」
なかにはそうじゃない人も、これを好機とみてか侯爵家の令嬢であるシルクにすり寄ってきた人もいたらしい。
だけど幼いわりに聡いシルクは隠された感情に気付いてしまった。
「いままで親し気にしてた子たちが、悪口を言ってるのを聞いたわ。そしたら怖くなって……ひっく、ほんとうに仲良しだった子にも……会えなくなっちゃった」
陰で悪口を言っていた子たちはともかく、仲良しだった子ならきっとシルクと友達のままでいたいんじゃないかなとは思ったが、無責任なことは言わず聞き役に徹することにした。
相槌を打ったり、背を撫でたりしながらシルクの言葉をただ受け止める。
「……婚約を、迫ってきてた方がいたの」
震える声。
だけどその震えには涙の余韻よりもどこか怒りが混じっていた。
「一目惚れ、ですって。家柄も釣り合って、年も近かったし……顔合わせをしましたの。そしたらもう勝手に婚約者面して……もともと好きじゃなかったんですのよ?!むしろ嫌いです!」
憎々し気な声にご令嬢も面とか使うんだ……とズレたことを考えていると、はっと顔をあげたシルクが猛烈な好意がないアピールをしてきた。
そんな趣味が悪いと思われそうなほどひどい人だったのかな、とまたズレた発想をするクラレンス。
鈍感ではないけどそっち系には疎いのほほん男子。
「……バケモノって言われましたの。気持ち悪い、って。それで勝手に婚約はなしにって。こっちこそお断りですわ!第一婚約者でもなんでもないくせにっ……」
「うわっ最悪」
悲しみと怒りに震えるシルクに、聞き役に徹しようと思っていたが思わず言葉が漏れた。
普通にない。
女の子に暴言吐くとか最悪すぎる。
「そんなのと婚約しなくてよかったよ。シルクは可愛いし恰好いいよ」
「なっ?!なななななっ……」
ボフンっと音を立てそうな勢いでシルクの顔面が真っ赤に染まる。
湯気が出そうだ。
混乱に無意味に振り回した腕が当たり、「んっ」とエリシュオンが目を覚ました。
寝ぼけ眼の先には真っ赤な顔でなにやら泣いている姉の姿。
大きく目を見開いて覚醒したエリシュオンは起き上がると、クラレンスの体を両手で押した。
「わわっ」
倒れるまではいかずとも、バランスを崩したクラレンスの前で目を吊り上げて小さな両手をいっぱいに広げるエリシュオン。
必死に姉を守ろうとするその姿は怖いよりも可愛らしかった。
「ほら、エルもシルクが大好きだ。アザがあろうとシルクが大好きで心配してる人は沢山いるよ。そんな顔だけしか見てない人たちの言葉なんて気にすることない」
「……エル」
シルクが声を詰まらせ、後ろから腕をクロスさせるようにエリシュオンを抱きしめた。
号泣する姉に状況がわからないエリシュオンがわたわたとうろたえる。
「なんだかスッキリしましたわ」
泣き腫らした赤い瞳でシルクは笑った。
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