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かつてないほどのマジ顔
上下ともにのりしろ部分を1cm箱の大きさよりも大きく採寸した布を定規でひいた線からはみ出ないように慎重に切っていく。
「ゆっくりでいいからね。とにかく丁寧に、だよ」
小さな手にハサミを握ったとなりのエリシュオンへと声をかければ、真剣な表情で「ん」と頷かれる。
「ていねい、ていねい」呪文のようにそう唱えながらゆっくりとハサミを進める姿が微笑ましい。
それにひきかえ……。
自分たちでも“不器用”な自覚のある女子2人の雰囲気は端的にいって異様。
“真剣”というよりも、“鬼気迫る”という表現がピッタリなシルクとエミリアは、かつてみたことがないほどのマジ顔だった。
危なげなく自らの生地を切りおえたデーヴィッドは、作業を終えて顔をあげたとたんに目に入った光景にビクッと肩をゆらした。
ハサミを動かしているときだったらきっと手元がブレて大惨事。
危ない。
それぐらいの迫力だった。
衝撃映像をエリシュオンに見せないように、クラレンスは作業を指示したり、話しかけたりしながら彼の意識を彼女たちから逸らさせる。
時間をかけながらも、2人が布を無事に切りおえた瞬間、メイドたちから拍手があがった。
つられてクラレンスとデーヴィッドも手を叩く。
パチパチと響く音に不思議そうに首を傾げつつ、エリシュオンもマネをした。
「はい、次は生地を布に貼っていきます。まずは箱本体の側面からね。箱にハケで接着剤を薄く塗って、布を張り付けていきます。のりしろ部分は接着剤をつける前に切り込みをいれて内側に折り返しましょう」
クラレンスが説明をするなか、メイドさんたちが次の工程のために平らな板の上に接着剤をブチュッとし、ハケを用意していく。
袖がちょっとひらひらしてたりリボンがついてたりするシルクたちには「お袖をあげても?」と袖をたたんでくれるサービスつき。
とくにクラレンスはお願いしてないのに、事前にアームバンドまで用意してくれているメイドさんたちは今日も優秀なのです。
またしても無言になりながら丁寧に作業を続けていく。
クラレンスは角の処理方法など注意事項なんかをときどき声掛けしたりするけれど、基本みんな無言。
作業に全集中だ。
とくに女子2人の集中度がすごい。
本体の側面へ布を張りおえたら、箱の内側と内外の底面になる厚紙にも生地を張り、それを本体へと貼り付ける。
「……で、できましたわっ!」
「……!!」
額の汗をぬぐい、出来上がった箱を前に感動に涙を潤ませる2人に一同は拍手を送った。
おざなりなそれでない、心からの強い拍手。
2人を手伝っていたメイドはもちろん、少し前に作業を終えていたクラレンスたちもじっと彼女たちを見守っていた。
……さいわいにもハサミの工程ほど鬼気迫る感はなかったので、今回はエリシュオンも見守った。
たかが布を張り付けるだけ……というなかれ。
気軽に声をかけるのもためらうほどに、真剣にかつ丁寧に作業を進める2人のガチさには周囲を引きこむだけの力があった。
思わず息を詰めて彼女たちの手元を見守っていた。
だからこそ室内は感動に包まれていた。
まるで大作感動長編を見終わったかのような感覚でスタンディングオベーション。
……ようは熱が入り過ぎてみんなテンションおかしくなっていた。
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